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俺たち総理大臣賞

北風は、旅人の服を脱がせようと強い風を吹かせた。

しかし逆に、旅人は寒さを嫌って服をしっかりと押さえ脱げないようにした。

その後太陽が辺りを照らすと、旅人は暑さに我慢できず、自ら服を脱いだという話。

無理にやらせようとしても上手くはいかない。

自ら動くように仕向ける方が上手く行くという教訓だね。


グレートアイランドから戻って数日が過ぎていた。

その間俺たちは、狛里たちが望む通りの日々を過ごしていた。

ついでに俺までゴロゴロとね。

そんな、仕事もなく暇を持て余していた俺の所に、一本の電話が入った。

こういう時の電話は、一見良さそうで大抵はあまり良くないものだ。

俺は恐る恐る携帯に出た。

「ゲリゲロだ」

「あ。どうも」

「グレートアイランドをクリアしたんだってな。おめでとう」

もうそんな情報が伝わっているのか。

やはり嫌な電話な気がする。

「あ、ありがとうございます」

それにしても、どうしてもこの世界じゃ敬語になってしまうな。

アルカディアではタメ口でやれていたのに。

世界って人も変えてしまうのよねぇ。

「それで、どうかしたんですか?」

「日本の総理大臣秘書官から電話があってな。お前たちの連絡先を教えてほしいとな」

「教えないでください」

俺は即答した。

間違いなく目立つ方向に話が進みそうだから。

裏の大物とのつながりとか、警察の一部とのつながりは、面白そうだからまだいい。

というか望む所だ。

しかし総理大臣って、間違いなく日本政府と繋がってしまう。

目立たない仕事を頼まれる程度ならいいけれど、いやそこからきっとドンドンエスカレートして、俺たちの自由が奪われてゆくのだ。

政府との関わりは、アーニャン経由とかその程度に留めておくのが絶対に良い。

「そうは言ってもな。もう伝えてしまった」

「えー?!」

個人情報保護法は、この世界にはないのだろうか。

「政府の力には、たとえデンジャーと言えども基本逆らえないよ」

絶対に嘘だ。

きっとうっかり言ってしまったか。

或いは問題が無いと勝手に判断して教えたに違いない。

「それで、なんで総理秘書官が俺の連絡先を?」

きっと理由があるから話したんだろう。

相手が政府だからと言って、理由もなく教えるはずは無い訳で。

「ふむ。昨今の日中間の情勢は知っているな?」

「知りませんが‥‥」

日中間の情勢?

死ぬ前の世界だとそれなりに知ってはいる。

日本政府は米中間をコウモリのようにウロウロしていたはずだ。

というか、政府内に親米と親中の議員がいたりして、どっちつかずのシーソーを続けていた気がする。

一応はアメリカ寄りが基本だけれど、中国にも良い顔をしている。

そんな感じだったか。

「おいおい。仮にもプロのデンジャーなら、世界の情勢くらいは知っておけよ」

「はあ‥‥」

それ、デンジャーなら知ってて当たり前なのか?

俺はあまりこの世界の事には関わりたくないんだよね。

ただ日本だけは、なんとなく守りたいとは思っているけれど。

「今中国は、アメリカに迫る勢いでデンジャーによる軍事強化を行っている。それはなんの為か。アメリカに勝つ為だけじゃない。日本も我がものとしようとする野心があるからだぞ」

この世界でも中国は同じなのか。

或いはこの世界だからこそ、みたまの知識のままに単純化されてそれが目に見えて分かるのかもしれない。

「それがどう関係あるのですか?」

「決まっているだろ。中国が軍拡すれば、日本も軍拡しようとして当然じゃないか。有能なデンジャーを取り込み、内外に喧伝する事で抑止力を高めたいのだろう」

つまり、『日本にはこんな優秀なデンジャーがいますよ!これは日本の戦力ですよ!』と言いふらしたい訳か。

しかしそんな事をすれば、更に中国は軍拡に力をいれ、そしてまた日本もって話になるんだよ。

そんな事をしていたら、際限無くそれは続く事になる。

北風じゃないけれど、力ずくばかり考えていると駄目だって考えないのかねぇ。

尤も無防備でも問題はあるんだけれどさ。

まあ現実問題、アルカディアで俺もそうしてきた訳で、結果どちらが良いのかは分からない。

それでも挑発するより、相手が良い方に自ら動くよう仕向けられないものか。

「とにかく近い内に電話がかかってくるだろう。後はプロのデンジャーとしてしっかり対応してくれ」

「はいはい」

全く迷惑な話だ。

俺も個人情報を全部止められるくらいした方がいいのかねぇ。

逆に目立ちそうだけどさ。


そんな訳でしばらくの後、俺の所に総理大臣直々の電話がかかってきた。

内容はゲリゲロの言う通り、自衛隊の重要な役職についてほしいというお願いだった。

俺は即断ったけれど、色々と何やら言われて、気がつけばこんな所に来てしまっていた。

「僕のせいかしら。ごめんなさい」

「いや、アーニャンも被害者なんだろ?」

アーニャンは政府からの命令を断れない立場だからな。

そしてアーニャン経由で頼まれては、断るにも限界がある訳で。

「私は嬉しいし。テレビに出られるなんて、私の立場でも滅多にないし」

恵美は自衛隊の入隊を端っから否定してはいない。

ただ自分にはまだまだその資格がないと考えているようで、そういう意味で断っている。

「私たち、テレビは二度目よねぇ~。綺麗に撮ってくれてるかしらぁ~」

「大丈夫なの‥‥。可愛いから問題ないの‥‥」

そういう問題でもないんだけれどさ。

俺たちは目立ちたくない。

だからテレビになんて出るべきではないんだ。

しかし総理大臣賞とかなんとかで、俺たちは呼び出された。

日本人っていうか、日本に住む五人のデンジャーパーティーが、初めて幻のゲームと言われたグレートアイランドをクリアしてしまったから。

自衛隊に強制入隊はさせられなかったけれど、やはりアピールはしたいみたいで。

まあ住んでるだけなら、単純な戦力ではない。

だから軍拡とまではいかないだろうし、俺も納得してしまった。

つかそもそも俺は目立っちゃ駄目なんだよ。

「こちらが、あのグレートアイランドを世界で最初にクリアした日本人パーティー、狐撲暁隊の皆さんです」

俺は改まって人前に出るのが苦手なんだよ。

マジ勘弁してくれ。

「私は美味しいものが食べられるって言うから来たの‥‥。早く食べたいの‥‥」

「お金も貰えるのよねぇ~」

そうだ。

こいつらが食べ物と金に目がくらんで、最終的にテレビ出演を了解してしまったんだよ。

絶対に断れなかったのはアーニャンだけだったのに。

「はいはい美味しいものね。ではあちらで食事しながらお話を聞かせてもらいます」

「お金わぁ~?」

「賞金は後日振り込みですね」

「札束を見たかったわぁ~」

こんな放送してて大丈夫か?

総理大臣賞って、もう少し畏まって恐縮しながら受け取るもんじゃないのだろうか。

「凄い料理だし!早速食べるし」

恵美も度胸あるなぁ。

こんな場で物怖じせずにいつも通り‥‥。

流石は大企業会長のご令嬢って所か。

「策也、もう開き直っていくしかないわよ」

「コレが抑止力になるとは思えないけどな」

完全に中国には舐められそうだ。

だけれどその方がいいか。

舐められれば必要以上の戦力を集めようとはしないだろうし、それでいて『もしかしたら』は抑止力にもなり得る。

丁度良いバランスなのかもしれない。

しかし世界は絶妙なバランスで成り立っているよなぁ。

中国が軍拡する事で、日本も軍拡するだけでなく、日米の結束も強くなってゆく。

敵ができればかつての宿敵も手を結ぶのだ。

更に中国は面子を重んじるから、それが余計な警戒心を生んでしまう。

面子は自らの成長には力を発揮する所もあるけれど、一方で無駄な問題も起こし得る。

そんな風に考えると、結局何もしないのが一番良いと思わせてしまうのも仕方がない所なのだろうか。

それはそれでただ良いようにされるだけで、一番の問題なのだけれどね。

だからバランスが必要なのだけれど、バランスをとる為に極論の争いになるのはいかがなものか。

世界には、かまぼこ板と電子レンジが必要だな。

高まり過ぎた力という名の湿度を、適度に調整してくれるもの。

除湿剤じゃ強すぎるから、程よく湿度調整してくれる木材。

かまぼこ板をレンチンして湿気を飛ばし衣装ケースなんかに入れておくと、いい感じに除湿してくれるんだよねぇ。

あの素晴らしき調整力が世界にあれば、世界は平和になるのかもしれない。

ちなみにシリカゲルが除湿に最適だという常識は、売りたい側の策略だ。

常識は疑ってかかった方がいいよ。

あくまで俺の個人的な妄想だけれど。

一応シリカゲルもフォローしておくと、レンチンで繰り返し使えるので、お菓子などに入っているものは集めておけば良いよ。

但し扱いには気をつけてね。

木材もレンチン時間が長過ぎれば火が付いたりするからさ。

シリカゲルは直接触らない方がいいし、不純物の入ったものは危険だからね。

さて、そんな豆知識的な事を誰かに説明している間に、食事をしながらの一問一答が始まった。

「それではお話を聞かせてもらいます。まずは改めて、ゲームクリアおめでとうございます」

「ありがとうなの‥‥。でも今は食べてるので話しかけないでほしいの‥‥」

食事しながらのインタビューを頭っから否定してきたー!

「あ、そ、そうですか。それでは他の方に聞きますね。新巻鮭さん、グレートアイランドは噂通り過酷なゲームでしたか?」

「そうねぇ~。あの程度なら一人でも大丈夫そうねぇ~」

本当の事だけれど、あまり大きな事は言わないでくれ。

謙虚に話すって考えはないのかよ。

無いよな。

日本人の精神を持っているのは、俺とアーニャンくらいだ。

質問ならアーニャンにしてくれ。

「さ、流石は最速クリアパーティーのデンジャーですね。そう言えば皆さんがクリアしたその日の夜に、もう一組クリアされたパーティーがあったようですが、ご存知ですか?えっと‥‥。此花さん」

此花さん?

「あっ!ああ。俺か。いや知らないけれど、もしかしてゴルゴやキルリアのパーティですか?」

「はい。それと二つ星デンジャーのポテチさんがいらっしゃるパーティーのようですね」

ポテチ?

ああ、もしかしたらあの女の子キャラをモデルにした人かな。

そうか。

ゴルゴたちはやはりクリアしたんだ。

それも運良く揃えられた俺たちと同じ日に。

流石は主人公。

やはり神を倒すのはゴルゴかキルリア、どちらかになるのかもしれないな。

「但し十五人のパーティーだったようで、クリアの証明カードも星無しのようですよ。そういう意味で狐撲暁隊の皆様は完全勝利と言えます。皆様、もう一度盛大な拍手をお願いします!」

番組進行役のお姉さんがそう言うと、スタジオの観客が予定通りといった感じで拍手をしてくれた。

俺たちはリハーサル無しだけれど、もしかしたら客とはリハーサルしていたのかね。

「ところで安さんは、警察関係者と伺っています。もしかしたら何か仕事でグレートアイランドをプレイしていたのでしょうか?」

そう聞かれたアーニャンは、少し難しい顔をしていた。

警察関係の事は話せないのだろうか。

「おっしゃる通りよ。世界指名手配の郡を捕まえにね」

話してるしー!

となると‥‥。

安さんって呼ばれたのが嫌なのかな。

やっぱりこんな時もアーニャンと呼んでほしいのかね。

「そういえばグレートアイランドのクリア日と郡の逮捕は同じ日でしたね。アレは安さんたちが捕まえたのですか?」

「そうだけど」

「聞きましたか皆さん!ゲームをクリアするだけでなく、世界指名手配犯まで捕まえるなんて。日本にはこんなに素晴らしいデンジャーの方々がおられるのです!」

「おー!」

観客が声を上げ、再び拍手が巻き起こった。

みんな知ってただろ?

なんか無理やりヨイショしている感じが凄いな。

だけれど、普通に見ればそれほどの事でもあるのかもしれない。

クリアしなかった方が良かったのだろうか。

でも‥‥。

「そして四つ星グループ会長の娘、押勝恵美さんも狐撲暁隊の一員です。このパーティーを率いていたのは恵美さんだという話もありますが本当ですか?」

何処からそんな話になってるだ?

でもそれならそれで良いだろう。

今の恵美なら十分に務まるはずだ。

「私はただカードを管理していただけだし」

そこは他の奴らを見習って、大きな事を言って良いんだぞ。

『私のおかげです』くらい言ってくれ!

「カードを集めている人が大抵リーダーだと聞きましたが?」

そうそう、そう思ってくれて差し支え無し。

俺は思いを込めて恵美を見つめた。

しかし思いは全く伝わらない。

「カードを私が集めていたのは、自分を鍛える為だし」

ああもう。

そこは『私がクソカスデンジャー共を束ねてやってたし』くらい言っていいのに。

「流石ですね。世界最高峰のデンジャーも、日々自分を高める為に努力しているのですね」

ただどうやらテレビ側も、四つ星グループ会長の娘に力があるという方が望ましいようだな。

そりゃポッと出の俺たちよりも、日本の権力者が強い方がいいのだろう。

或いは番組スポンサーとして、四つ星グループが金を出しているのかもしれない。

これなら俺たちは目立たずに済みそうだ。

「それではそろそろ食事しながらの質問タイムは終わって、次のコーナー行きましょうか!」

「えっ?ほとんど話してなくね?」

「でも‥‥」

番組進行役のお姉さんが狛里たちを見た。

すると既に食事を終え、リラックスモードで寝そうになっていた。

食うの早すぎ。

つか次のコーナーって何をするんだ?

そもそも『食事しながら話を聞かせてほしい』って言われていただけだけど。

総理大臣賞の賞状や盾なんかは、番組内で渡されるという話は聞いていない。

もしかして総理大臣が来ていたりするのかねぇ。

「次のコーナー行きます!おそらく皆さん、グレートアイランドをクリアしたデンジャーがどれほど強いのか、見てみたいですよね!?だから‥‥」

お姉さんがそう言うと、スタジオにある大きなモニターに何かが映し出された。

闘技場のような所に、軍服を着た男性と女性が一人ずつ立っている。

もしかして、戦わされたりするのかね。

「テレビ局内にある闘技場にて、実際に戦っている所を見せていただきましょう!」

聞いてないよ!

つかテレビ局内にも闘技場があるんかーい!

「対戦相手は、現役自衛官でデンジャー部隊に所属している『松本大尉』の操るゴーレムです」

お姉さんがそう言うと、モニターに映る男性が手を上げ頭を下げた。

松本大尉ねぇ。

ちなみに転生前世界では『大尉』ではなく『一尉』と呼ばれていた。

この世界では分かりやすく変えられているようだね。

「観戦したい方は、どうぞ闘技場の方へ移動してください。現役自衛官でデンジャー部隊に所属している『北本少尉』が、強力なバリアーで観客席をお守りします。だから危険はありません」

今度は女性の方が手を上げて一礼した。

スタジオにいた観客は、予定通りと云わんばかりのスムーズな移動を開始する。

完全にはめられているな。

俺たちが断れない状況にされている。

強さをハッキリと見せるのが最初からの狙いか。

正直戦闘は嫌だけれど、かと言ってここでやめたら俺たち萬屋の評判は落ちるだろう。

アーニャンに拒否権は無いし、今からでもやめられるとしたら恵美だけ。

「面白そうだし。こっちの世界で何処までできるのか試すチャンスだし」

その恵美がやる気なのだから、やるしかないわな。

そんな俺の気持ちを察したのか、天冉がお姉さんに一声掛ける。

「戦闘は聞いてないわよぉ~。当然別料金を請求させてもらうわねぇ~」

「えっ?あ‥‥。はい。番組プロデューサーがなんとかします」

天冉の目で、せめてものギャラ増額だけは取り付けられた。

しかし、狛里だけは戦わせないようにしないとヤバいと思う。

手加減できるようになったとは言え、相手がゴーレムだと何処まで抑えられるのか分からない。

できれば戦うのは、俺かアーニャン‥‥。

闘技場への移動途中、お姉さんが話しかけてきた。

「戦いは、全員でなくて構いませんよ。但し、男性の此花さんと、警察関係者の安さんだけはハズレてください」

いきなり否定されてるしー!

「何故ですか?」

「男だと華がないですし、安さんはここで無くても見る事はできるでしょうから」

尤もな意見だけれど、このお姉さんは何者だ?

ただのキャスターって事はないよな。

まあもうどうでもいいけど。

「じゃあ私が戦う‥‥の‥‥」

俺は咄嗟に狛里の口を手で抑えた。

そして耳元で話す。

「狛里駄目だ。狛里が格好良い所を見せてしまったら、男性ファンが増えて『アイドルデビューしてくれ』なんて言われ兼ねない。だから今回は辞退してくれ」

「策也ちゃん‥‥私は策也ちゃんの嫁なの‥‥。アイドルにはなれないから辞退するの‥‥」

「あ、ありがとう」

ふぅー‥‥。

辞退してくれたか。

でも少し何か勘違いしているよな。

とにかく狛里が戦わないでいてくれたら助かる。

「それじゃぁ~、私も嫁だから戦わない方がいいわねぇ~」

「えっ?いや、天冉は‥‥」

天冉は陽蝕の嫁なんだけど‥‥ってツッコミを入れようと思ったけれど、天冉が出るのもできれば避けた方がいいか。

って、そしたら恵美だけになるじゃん。

いや、今の恵美なら十分やれるだろうし、一番無難かもしれない。

俺は黙って頷いておいた。


さて俺たちは闘技場へと入った。

既に自衛官の二人が、準備万端で待っていた。

ゴーレムは三体。

石の体でオーソドックスにそれと分かる見た目をしている。

そして観客席の前には、一応バリアが張られていた。

しかしバリアってこの程度か。

これはやっぱり、狛里や天冉は戦わない方が良さそうに思える。

恵美ですら本気でやれば、観客に死者が出てもおかしくないレベルだ。

主催者側、或いはこれを企画した政府側は、本気でこれで大丈夫だと思ったのだろうか。

自衛隊のレベルが低すぎる可能性しか見えない。

尤も、デンジャー部隊以外は世界トップレベルだとは思うのだけれどね。

こりゃ俺たちを取り込みたいと思う訳だよ。

「自分は松本大尉です。貴方がたには悪いですが、デンジャー部隊の威信にかけて負ける訳には行きません。本気で行きますから、ヤバそうなら早めの降参をお願いします」

松本大尉は、観客に聞こえるような大きな声でそう言った。

「自衛隊のデンジャー部隊、強そうだし」

「‥‥」

俺の勘が告げている。

やはり俺たちが戦ってはいけない。

そんな訳で俺は、恵美の肩に手を置き微笑んだ。

「恵美。テレビ局はお前に戦ってほしいみたいだ。頑張ってくれ」

「ええっ?!私が戦うの?きっと勝てないし」

「いやいや、勝たなくてもいいんだよ。とにかくな、思いっきり手を抜いて戦え」

「頑張って手を抜いて勝たなくてもいい?よく分からないし」

混乱するよな。

相手の方が強いと思っている恵美に、頑張って手を抜けと言ってる訳で。

「万一恵美が相手を殺しそうになっても必ずフォローするから」

「私が相手を殺しそうになる?相手はゴーレムだからそんな事には万が一にもならないし」

いくらゴーレムが戦うとは言え、松本大尉も闘技場にはいるんだよ。

恵美の圧に耐えてくれるとは思えない。

「とにかく恵美、頼んだぞ」

「うー‥‥。分かったし」

なんとか了承してくれたか。

ニコポンでも理解が追いつかない場合は、なかなか納得はできないようだ。

「それでは戦闘を始めます!狐撲暁隊からはどなたが戦ってくれますか?!」

「全員でかかって来てもいいですよ」

「おっと松本大尉は余裕だー!」

どこか芝居がかっていて、本気で言っているとは思えないんだけれど。

勝っても大丈夫なのかね。

「こちらは押勝恵美が戦う!」

「うー‥‥。やっぱり不安だし」

グレートアイランドでアレだけの敵と戦ってきたのに、この程度の相手に不安を覚えるのか。

これはおそらく、相手の力量がまだまだ読めないのと、俺たちの強さを見てしまったせいで自分を過小評価してしまうからなのだろうな。

「もしも恵美がやられそうになったら、俺の一寸神が助けるから、気楽にやってみろ!」

俺はそう言って、灰闇(かいあん)の一寸神を召喚して影に沈めた。

「ありがとうだし。これで安心してやれるし」

「くれぐれもさっき言った事を忘れないでくれよ」

「分かったし」

手を抜いて戦ってくれないと、マジで観客にも被害が及ぶ可能性があるからな。

その時は俺が結界を張るしかない。

「おっと狐撲暁隊側は、リーダーの押勝恵美さんが一人で戦うようだー!」

お姉さんがそう言うと、再び観客が一斉に盛り上がって拍手をする。

冷静に考えてヤバい状況だよ。

小学生にも見える恵美が命がけの戦いに挑むのに、観客はみんな大喜びで拍手するのだから。

まあこの世界デンジャーが当たり前にいる訳だし、デンジャーの見た目と年齢がイコールで無い事も十分あり得るとここにいる者は知っているのだろう。

ただやはり転生前の近代世界とそっくりなエルドラールだから、違和感を覚えずにはいられなかった。

「それでは両者、戦闘を始めてください!」

お姉さんの合図に、恵美は早速落札を発動させた。

おそらく条件は戦いの勝利。

そして松本大尉には、何故かバリアが張られていた。

このバリアは、北本少尉の‥‥。

なるほどやはりそういう事か。

ゴーレムが走って、恵美に襲いかかる。

しかし恵美は難なく攻撃をかわした。

落札が発動していない?

いや、効果を発揮するまでもなく、恵美が余裕で攻撃をかわせてしまっているんだ。

「相手が弱すぎるの‥‥」

「これがこの国の軍隊なのぉ~?ちょっと心配よねぇ~」

軍隊じゃなく自衛隊なんだけどね。

「おそらくこの人たちは、下っ端とは言わないけれど、そんなに強い人達じゃないんじゃないかしら?」

たぶんアーニャンの言う通りだろう。

警察の上層部にアーニャンがいるくらいだ。

一応デンジャー部隊のトップにも、それなりのデンジャーがいると思われる。

自衛官の二人は負けるのを承知で、このテレビの茶番に付き合っているんだ。

自らが戦わないゴーレム使いが出てきている時点で、完全に守りに入っているしね。

「攻撃が遅すぎるし」

「手を抜いていただけだ!だったら本気で行かせてもらう」

松本大尉がそう言うと、ゴーレムは三体同時にかなりのスピードで襲いかかった。

と言っても遅い。

恵美は難なく攻撃を避けると、軽く蹴りを入れて一体のゴーレムをコケさせた。

「おーっとデンジャー押勝!まずは蹴りを入れて一ポイント先取!」

おいおいポイント制だったのかよ。

とはいえコレじゃ、番組的に全く面白い戦いにならない気がする。

かと言って恵美が本気でやれば大惨事。

仕方がない。

番組が盛り上がるようにしてやるか。

「恵美!かずみモードだ!」

俺が声を掛けると、恵美は慌ててファイルを出す。

「えっ?なんだし?プリット!」

恵美に少し隙ができたけれど、ゴーレムがそこを突けるものではない。

恵美はゴーレムの攻撃をかわしながら距離を取った。

「次は火の玉ボールだ!」

「わ、分かったし!」

俺の指示通り、恵美は火の玉ボールのカードを取り出し、それを発動させる。

「火の玉ボール!」

すると瞬時に火の玉が現れ、それがゴーレムに命中した。

ゴーレムの体が揺らぐ。

「恵美!ゴーレムが倒れるまで火の玉ボールを乱れ打て!」

「なんで一番弱い魔法を使うの?」

「いいから!」

「分かったし!火の玉ボール!火の玉ボール!火の玉ボール!‥‥」

恵美は火の玉ボールを連続発射した。

カード魔法なので一々カードを取り出す手間があるけれど、どんな魔法でも一定間隔で連射できるのはいいな。

この間隔で大魔法を連射できれば、凄い威力になるぞ。

尤も、今は最弱魔法を連射しているので、逆に時間がかかって思ったよりも効果は低い。

それでもゴーレムを倒すには十分な火力だった。

全てのゴーレムが焼け焦げてフィールドに倒れた。

「凄い!凄すぎます!とんでもない強力な魔法によって、一瞬の内にゴーレムを倒してしまいました。これがプロのデンジャーの力なのか!流石はグレートアイランド最速攻略パーティーのリーダーです!」

実際は大した魔法じゃない。

威力もそこそこだ。

この世界のレベルで見ても、大したものではなかっただろう。

だけれど連射した事で、絵的にはかなり強力な魔法には見えたはずだ。

そんな訳で、松本大尉との勝負はアッサリと決着がついたのだった。


「いや、流石はグレートアイランドの攻略者だ。実は自分たちも最初から貴方たちに勝てるとは思ってなかったんですよ。我々もグレートアイランドの検証は既に行っていてね。デンジャー部隊の将官クラスが揃わないとクリアは難しいという結果が出ていたのです」

やはりそうか。

自衛隊ともあろう組織が、相手の力量を測れないなんておかしいと思っていたよ。

「自衛隊のデンジャー部隊としては、是非貴方がたを重要な役職に付けたいと考えています。国の為にお考えください」

そうは言われてもねぇ。

俺たちは異世界の人間なんだよ。

そして神だ。

この世界の多くに関わる訳にはいかない。

ただ‥‥。

「萬屋をやっているので、必要な事があれば依頼してください。我々がやるべきだと思える事なら、日本の為に多少は力になりましょう」

「私が萬屋の店長なの‥‥。そういう事なの‥‥」

「私はマネージャーねぇ~。話があるならまずは私に話を通してくださいなぁ~」

「そうですか。えっと安さんは既に警察で働いておられるのですよね。では押勝さんは?」

皆の視線が恵美に集まった。

恵美がどうするのかは自由だ。

俺たちが口出しするものではない。

「私は日本人だし。私の力が必要なら協力はやぶさかではないし。とは言え私は押勝家の者。それなりの地位じゃないとできないし」

「それは大丈夫だと思いますよ。一度テストを受けていただきたい。おそらく将官クラスでの登用になると見ています」

「押勝家は純粋な日本の血脈でもありますから、その辺りも問題ないかと」

なんてったって恵美押勝は藤原家だからな。

将官クラスは当然か。

そして恵美が日本を背負って立つなら、俺も割と安心できる。

「分かったし。一度テストを受けてみるし。その結果を見て考えるし」

「おお!ありがとうございます」

「良かったですね。松本大尉」

恵美が自衛隊デンジャー部隊の将官になるか。

危険がないか少し心配もあるけれど、日本は平和な国だ。

そうそう命をかけるような事にもならないだろう。

正式に将官になれたら、みんなでお祝いでもするか。

俺はそんな事を思った。

こうして俺たちのテレビ出演は終わった。

とりあえず、あまり目立たずに終われたのは助かったぜ。

総理大臣賞の賞状や盾の受け取りは後日。

それは全て恵美に押し付けられたしね。


それから一週間後‥‥。

恵美がデンジャー部隊の副幕僚長に就任したというニュースが、テレビから聞こえて来た。

マジかよ‥‥。

元々の地位があったからこそではあると思うけれど、いきなりナンバーツーとか、ヤバくね?

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