ゲームから出たい奴ら
力を持つ者は、その力を活かしたいと思う。
これは当たり前の事。
だから強い者はその強さを示そうとする。
その気持を否定するつもりはない。
それは本能だから。
だけれど、その示し方を間違えたら悲劇は起こる。
強さは弱きを守る為に使われるものであり、ただ誰かを傷つける為に使われて良いものではない。
それが分からない人の事を、人は悪と呼ぶ。
グレートアイランドの初日はまだ終わらない。
鎮座石のカードをゲットした俺たちの前に、他のゲームプレイヤーが絡んできたのだ。
カードショップから出てきた時に感じた視線の奴らだな。
全く、RPGをするとだいたい最初はこのイベントなんだよね。
「お前ら新人だな。新人は俺たちに全カードと金を貢ぐ事になっているんだ。痛い思いをしたくなければ、素直に出していけ」
「そうそう、下手したら死んじゃうかもねー」
悪党って、どうして悪党面をしているのだろうか。
一目で分かってしまう辺り、これがゲームキャラだとしたら優しい設計だよ。
だけれど違う。
これは現実に人。
さてどうしてくれようか。
「策也ちゃん、ぶっ飛ばしていいの?‥‥」
「んー‥‥。どうすっかなぁ。マジでやったら死んじゃうよなぁ」
「それは困るの‥‥」
「そんな訳で、この悪党ボスっぽい奴以外は狛里と天冉でやんわりと遊んでやってくれ。このやられ役のボスは恵美が相手しよう」
俺がそう言うと、そのやられ役のボス男と、恵美が同時に意義申し立てをしてきた。
「誰がやられ役だ!」
「えー!私が戦うの?!」
俺はやられ役は無視して恵美に伝えた。
「訓練には丁度良さそうだ。俺が必ずフォローするからやってみな」
「んー‥‥、分かったし。やってみるし」
「そうそう、今お前はかずみだ!余裕余裕!」
ぶっちゃけ普通に魔法が使える人に比べれば弱いだろう。
強い魔法が使えても、発動まで時間がかかったり、自分も巻き込まれたり、当たらなければ意味がない。
けれど、恵美には『落札』と『笑みの推し活』がある。
きっとかずみよりも強い。
比べられるものでもないけれどね。
「こら!俺たちを無視しやがって。こいつら、殺しても構わない!みんなやっちまえ!」
全く、死に急がなくてもいいのに。
殺しはしないけれどね。
やられ役たちが襲いかかってきた。
その半数を狛里がやんわりと少し離れた場所に引きずってゆき、みんなを座らせた。
「トランプするの‥‥」
いや遊んでやれと言ったけれど、それはないだろう。
「それじゃ~、こっちはあっち向いてホイでもしようかしらぁ~」
天冉はそう言って人差し指を立て、それで向かってくるやられ役たちの顔を上下左右にハタいていった。
「あらぁ~、全部私の勝ちかしらぁ~」
「くっそ!舐めやがって!」
これだけ馬鹿にされれば、やられ役も力の差を理解するだろう‥‥。
してないけど。
腐っても一応グレートアイランドに挑戦権を持っているデンジャーか。
とは言え狛里たちの敵にもなりはしない。
さて問題はこっちだな。
「どいつもこいつも完全に遊ばれやがって」
こいつもデンジャーたちが遊ばれているのを見て、こちらの強さを悟ったりできないみたいね。
まあ向かってきてもらわないと困るんだけどさ。
「あなたの相手は私だし」
「お前のようなガキは瞬殺してやる!」
「笑みの推し活!」
やられ役が向かってきた。
それに合わせて恵美は能力を発動する。
既の所で恵美は敵の攻撃をかわした。
「何か持ってるし!」
敵は武器を具現化して戦うタイプのようだ。
いきなり間合いが変わったのに、恵美はよくかわしたな。
逃げるのはやはり得意なようだ。
「今のをかわすとは、こいつタダのガキじゃないのか」
やられ役には少し現実が見えて来たようだった。
油断が消える。
しかしこれ以上はなさそうだな。
動きは割といいし、色々な武器を具現化して攻撃できるようだからそこそこ強そうではある。
恵美よりもおそらく動きは良い。
でも、恵美の逃げる能力。
そして『算段』能力で勝利は見えてくるだろう。
「見えたし!」
どうやら勝利への道筋ができたか。
これで勝ちは確実。
恵美はそう思い、ある程度の間合いを取ってから『推し活モード』を解除した。
「プリット!」
そして『読書モード』に切り替える。
本を開き、カードを一枚取り出した。
これは勝ったな。
そう思った時だった。
やられ役のはずだった敵が、新たな武器を具現化してきた。
拳銃だと!
そりゃ武器って言えば、それもあるよな。
ずっとファンタジー世界にいたから、拳銃ってどうしても意識外に置いてしまう。
それでも恵美は奥せず、カード魔法を発動した。
「炎の弾丸ミサイル!」
「死ねぇ!」
二人の発射は同時だった。
恵美の左二の腕を拳銃の弾がかすめた。
逆に恵美の魔法は、敵の腹辺りに命中した。
体の大きさに、物理武器と魔法の差が出たかな。
拳銃は撃つ人の技量も影響するけれど、魔法はイメージだからある程度は当たる。
やられ役は前に倒れた。
勝ったな。
「痛いし痛いし!血が出てるし!」
恵美は急に涙を流し始めた。
泣いているとは言い難いけれど、オロオロとしている感じか。
俺は直ぐに駆けつけた。
「どれ、見せてみ」
「痛いし‥‥」
思ったよりも深く筋肉まで削られているな。
俺は直ぐに治癒魔法を施した。
すると間もなく傷は消えて、服も元通り修復された。
「あ‥‥。痛くなくなったし。策也凄いし」
「治癒は俺の得意な所だからな」
この設定、いつまで続けるんだろう。
「ところで恵美、どうして落札の能力は使わなかったんだ?」
ちょっと気になった。
例えばこの戦闘、必ず勝つ為に戦うとすれば、相手の攻撃を止める事ができた可能性がある。
「戦闘って難しいんだし。何をしているのか、ちょっとした意識の違いで変わってくるし。死にたくなければ殺し合いに勝つとしておけば安心かもだけど、殺し合いをしてると思っていなければ抑えられないし。それに私は殺そうとは思えないし‥‥」
なかなか難し所だな。
死にたくなければ、相手を殺す為に殺し合いをする必要がある、か‥‥。
「つまり、ルールのある競技なんかじゃないと、発動は難しいんだな」
鬼ごっこにもオークションにもルールがある。
しかしこんな戦いにルールはない。
「策也の言う通りだし」
まあこの『落札』の能力は、あらかじめ何をするのか話して決められる状況を作る所から始めなければならない訳だ。
「ところで策也、そろそろ狛里や天冉を止めた方が良い気がするし」
「ん?」
俺は恵美の言葉に、狛里と天冉を確認した。
狛里の方では、やられ役どもが正座をさせられ悲壮な顔でトランプを続けている。
天冉の方は、顔を腫らした奴らがゾンビのようになっていた。
これはちょっと可哀想な事をしたかな。
「狛里!天冉!もう終わりだ!みんなを集合させてくれ!」
「分かったの‥‥。みんな付いてくるの‥‥」
「ほ~い!行くわよぉ~」
狛里と天冉に促され、やられ役の野郎共は渋々こちらへと歩いてきた。
「ジョニーがやられてる‥‥」
「ジョニーの兄貴が‥‥」
「おおジョニー!」
‥‥。
そんな名前があったのね。
でももう覚える必要はないし、妖凛ストレージからもアンインストールしておこう。
「で、そのジョニーが‥‥」
ちょっと死にそうだな。
俺はコッソリ回復の魔法をかけておいた。
「ジョニーが気絶しているから、ちょっとお前たちに聞きたい。ジョニーの命令でお前たちはプレイヤーを襲っているのか?」
ゲームにおいて、プレイヤーキルをする奴がいると、あまり面白くはならないんだよね。
それにグレートアイランドは、死んだら終わりのゲームだ。
これからグレートアイランドを楽しむ俺たちが、気分よくゲームできる環境にはしておきたい。
「いや、俺たちは別の人の命令でやらされているんだ」
「別の人?」
「そそ。俺たちの力じゃ、このゲームのクリアは無理だって諦めてるんだ。だけど帰る事もできない」
「そんな時、声をかけてくれたのが『ブーマー』って呼ばれている人でさ」
「名前は『バンスルー』って人なんだけど」
ふむ、これは‥‥。
原作ではあの爆弾魔な奴の事だろうな。
アイツが雑魚プレイヤーを使ってカードを集めさせているのか。
だったら退治しておきたい所だけれど、奴を倒すのはゴルゴになるはずなんだよ。
或いはキルリアか。
これは俺がとやかく手出しする話でもないだろう。
かといって放置すると、こいつらは又誰かを襲うしかなくなるし‥‥。
「この世界から戻る為に必要なのってなんだ?」
「ゲームから現実世界に戻るには、ナンバー四十一のカード『トビウサギ』のカードが必要だ」
トビウサギねぇ。
「手に入れる方法は分かるか?」
「トビウサギってのがいるんだけれど、その耳を掴んで捕まえられたらカードに変わる、らしい」
「俺たちには捕まえられないから、あくまで聞いた話だ」
「なるほどねぇ」
「そのトビウサギは何処にいるのかしらぁ~?」
「この町からはかなり北にある兎山の麓辺りだ。正直そこまで行くのも俺たちには困難だよ」
俺は地図を広げた。
実際かなり遠いな。
普通に冒険の旅とかしたら、一週間では到達できない。
でも俺たちなら当然そんなにかかる訳もなく。
「お前たち、後どれくらいなら何もせず生活できる?」
「そうだなぁ‥‥。一ヶ月くらいなら生活できる蓄えはあると思うが」
「だったら一ヶ月、何もせずにこの町で待っていてくれ。人数分のトビウサギカードを集めてきてやるよ」
「簡単に言うが、それは無理だぞ?」
「何故だ?」
「ブーマーが五十枚ほど独占していて、今カードに空きがないんだ」
カードの独占か。
枚数が決まっているとこういうのがあるんだよね。
独占禁止法発動させろよ。
「そして誰かが使用しても直ぐにカードを回収できるように、兎山では仲間が何人か常に監視しているらしい」
徹底して独占し、こういう奴らを使ってゲームを有利に進めていると。
戦略としては賢いよ。
でもおそらく、バンスルーはこれから大々的にカードを集め始め、ゴルゴたちと戦う事になってそれどころじゃなくなるはずだ。
なんとかなるだろう。
「そういえばぁ~、コピーカードって無かったかしらぁ~?」
天冉突然だな。
これはきっとみたまが教えたんだろう。
「知ってるか?」
「聞いたことはある。ナンバー以下のカードなら、何でも効果をコピーできるカードだ。だけれどそっちの方が入手は難しいぞ。東の森にある湖の絵を、西の巨大石に描く事でコピーカードを手に入れられるらしい」
俺は地図で確認した。
湖はこれか。
そして巨大岩はこっち。
しかし絵を描くだけなら、そんなに難しい話でもないと思うけれど。
まさか‥‥。
「その巨大岩って、相当大きいのか?」
「確か高さが二十メートルはあるらしい」
普通に描くの大変すぎやんけー!
でもさ、天冉の紙媒体化の魔法を使えば、即行描けるんじゃね?
俺は天冉を見た。
「描けると思うわよぉ~。だけど策也ちんも、できるわよねぇ~?」
能力は盗ませてもらっていたな。
「まあな。それじゃそれで行くか。まずはコピーカードを集められるだけ集めて、その後なんとか一枚でもトビウサギカードを手に入れる!」
「了解ぃ~」
「分かったの‥‥」
「いきなり遠くに冒険の旅とか、難易度上がりすぎだし」
俺はやられ役の野郎共を見た。
「そんな訳だから、お前らはこの町で一ヶ月大人しく待ってろ。悪さしなければ元の世界に帰してやる」
「分かった」
「一ヶ月だけ信じるよ」
「コレだけボコボコにされて生かしてもらっているんだ。選択肢はないよな」
「でもブーマーが何か言ってきたらどうする?」
「可能性はあるな」
ふむ‥‥。
「それは多分大丈夫だろう。これから奴は忙しくなるし‥‥」
ゴルゴと戦ってやられる、はず。
頼むぞゴルゴ。
お菓子の名前を持った女の子デンジャーに特訓してもらって強くなってくれ。
そんな事を思いながら、俺たちはいよいよ町を出て本格的な冒険の旅に出るのだった。
予定は、まず東の湖を見に行く。
そして西に向かって大きな岩を見つけそこに絵を描く。
カード化されたら再び絵を描き、それを何度も繰り返して上限いっぱいまでカード化する。
そしたら次に兎山に行き、誰かがトビウサギカードを使うのを待ち、カードを手に入れる流れだ。
そんなに上手く行く気もしないけれど、全てはやってみないと分からない。
試せるならドンドン行動あるのみだ。
そんな訳で俺たちは、町の外に出てから走りだした。
「加速装置!」
魔法を使っているとはいえ、俺たちが普通に走るスピードよりも速いとか、恵美は凄いよ。
このペースで走り続ければ、おそらく五時間くらいで目的地には到着するかな。
暗くなる頃にはって所か。
尤も、恵美がいなければひとっ飛びなんだけれどね。
まあ楽しむ為にゲームはするもので、これはこれでいいんだけれどさ。
俺たちただひたすら走り続けた。
三時間ほど走った所で、ソロソロ休憩を考えていた。
というか、少し暗くなり始めている。
「よく考えたら昼ご飯も食べてないし」
「そうだったな」
俺たち三人は、最悪食事しなくても問題がない不老不死だ。
でも恵美の事はちゃんと考えて行動しないと問題が出る。
「ここから少し行った所にぃ~、町があるわよぉ~。そこで休みましょう~」
「お腹空いたの‥‥。美味しいモノが食べたいの‥‥」
食事をしないと、狛里の精神に問題が出るんだった。
やはりちゃんと考えないと。
「じゃあ町に行こう!カードゲットのクエストもあるみたいだし、ついでにそれもやっていくか」
「食事してからねぇ~」
「そうなの‥‥。腹が減っては爆発なの‥‥」
狛里の場合、本当に爆発しそうで怖いよ。
そんな訳で俺たちは町へと入って行くのだった。
町に入った俺たちは、直ぐに食事処を見つけて食事をした。
そして一息ついてから、この町のクエストをする為に所定の場所へと移動する。
日は暮れていたけれど、町の中はそれなりに明るかった。
「分かりやすいな」
「簡単そうなクエストねぇ~」
一目見て分かるクエスト。
しかしこれは、おそらくかなり難しい。
壇上に刺さった剣は、魔力によって色々と細工が施されている。
これを抜くとなると、相当な力が必要か。
或いは抜くための手順のようなモノがあると考えられた。
「看板があるし。何々?どんな方法でも良いので、剣を自由にできればあなたの物。参加は自由なので、何度でも挑戦してね‥‥だし」
ふむ‥‥どんな方法でも良いのか。
ドラゴンカウンターを使えば楽勝だとは思うけれど、まずは全うに攻略したい所だな。
そう思っていたら、恵美が挑戦を始めた。
「んー!ビクともしないし」
「抜けないように、何か細工があるみたいだな」
俺は恵美と交代して剣を掴んで引っ張ってみた。
力は神クラス未満でね。
「抜けない‥‥」
手加減しているとはいえ、コレだけの力を持ってしても抜けないか。
このゲームを作ったデンジャーは、並ではないよ。
ゴルゴ‥‥、じゃなくてキルリアの父親が絡んでいるはずだけれど、彼だけの力では無理だろう。
おそらく数多くのデンジャーがゲーム制作に関わっているはずだ。
「次は私の番なの‥‥」
次は狛里が挑戦した。
すると剣はアッサリと抜けた。
「‥‥」
いやマジで、やけに簡単に抜いたな。
本気で引き抜いた感じには見えなかった。
魔力もほとんど高めていない。
「どうして抜けたのかしらぁ~?」
そうそう、それ気になる。
「ちょっと剣を挿し込んでみただけなの‥‥」
「‥‥」
なるほどな。
引き抜けとは書いていない。
このゲームはトンチかよ。
おそらく剣を手に入れるにふさわしいだけの力は必要だろうけれど、完全に抜けなかったら誰も手に入れられないしな。
剣はカードへと姿を変えた。
「これはナンバーカードみたいねぇ~」
「そうなの‥‥。八十八って書いてあるの‥‥」
何にしてもナンバーカードが手に入った訳か。
良かった良かった。
ついでだから全員手に入れておくか。
俺は看板を改めて確認した。
注意事項が書かれている。
一つは、一人一枚限定って事。
そしてもう一つ、三時間毎に剣が復活するって事。
ならば‥‥。
「今日はこの町までにするか。剣のカードを全員手に入れておきたいし、宿をとって休もう」
もう日は沈んでいるし、これじゃ湖も見えないだろうしね。
こうして俺たちのゲーム初日は終わった。
と言っても、三時間毎に順番に剣を抜きに来る訳だけれど。
そして全員問題なく、『勇者の剣カード』を手に入れる事ができましたとさ。




