初めてのクエスト
数字は嘘をつかない。
しかし嘘つきは数字を使う。
例えば外国人犯罪数はここ二十年減ってはいるけれど、重要犯罪に限って言えば増えていて問題は大きくなっている。
ならば問題を隠したい時、犯罪全体が減っている数字だけを見せれば良い。
或いは数字自体をごまかす手もある。
データを見せられたら、たとえそれが嘘であっても信じてしまう人は多いのだ。
その人にとって都合の良い数字は疑え。
政府の出すデータで、政府にとって都合の良いものは信じない。
できるかぎり自分で調べる事が大切だと思う。
待ち合わせの時間、俺たちは町入口近くにある広場に集まっていた。
全部で数十人。
みんなゲリゲロに頼まれて集まったデンジャーなのだろう。
その中には見知った顔もあった。
「あー!こんな所で会うなんて、策也たちも依頼されたの?」
話しかけてきたのはゴルゴだった。
「まあね。ゴルゴたちもそうなんだな」
「どうも」
ゴルゴは当然キルリアと一緒だった。
知ってたけどね。
あの漫画のストーリーを辿っていけば、当然一緒になる訳で。
俺が死んだ頃は船の中でのゴチャついた話をやっていて、そこに主人公はいなかったけれど、それまではだいたいメインで出てるんだよな。
「ゲームをクリアするのは俺たちだからね。今度は負けないよ!」
割と軽く楽しそうに言うゴルゴだけれど、何処か少し本気が伝わってきた。
やはり負けたのは相当悔しかったみたいだな。
だから確信が持てる。
いつか必ず俺を殺しにくるんだろうなぁ。
「ゲリケロちんが来たわよぉ~」
天冉の言葉に振り返ると、ゆっくりと歩いてくるゲリゲロの姿があった。
「それじゃ、話を聞くとしますか」
「そうだね!じゃあ俺たちは俺たちでゲームクリアを目指すから!」
ゴルゴはそう言って手を振り、少し離れた所へと歩いていった。
俺も少しだけ手を振り返した。
「みんな、おまたせした。ほとんどの者は数時間前にも会っているが、改めてこの世界の事と依頼に関して話しておく」
ゲリゲロは少し離れた所にいたけれど、ハリのある声でしっかりと聞こえてきた。
「マイクログー社長、主からの依頼は、このゲームのクリア報酬を持ち帰る事だ」
原作はどんなだっけかなぁ。
一枚カードが持ち帰れるとか、そんな感じだったような気もするけれど、ハッキリとは覚えていない。
尤もこの世界だと、全く同じという事はないだろうし、何も知らないつもりでプレイするか。
「ゲームクリアの条件は知っていると思うが、ナンバー百までのカードを全てコンプリートする事。あと残り三枚まできたら俺に報告し、そこからは俺もパーティーに入って一緒に攻略する事とする」
あと三枚になったらね。
「連絡はゲームシステムの通信魔法を使ってくれ。カードは何処の町でも買えるはずだ」
通信魔法のカードもあるのね。
「今ここに集まっているメンバーは、既にみんなファイルに登録されていると思う。百メートル以内に入った者は登録される仕組みになっているからな。俺の名前はそのままゲリゲロだ」
その名前、気持ち悪くなるから変えれば良かったのに。
「俺たちの中で敵対する事はご法度とする。カードを奪うのも無しだ。今登録されている名前はしっかりと覚えておいてくれ」
登録順に番号が振られているから分かりやすいな。
それ以外は登録されていないみたいだし。
「ゲームだから、初見で全て楽しみたい者もいるだろう。一応俺からの説明はコレだけにしておくが、知っている情報は全て話してもいい。聞きたい者は残って今から聞いてくれ。必要ない者はここからは好きに動いてもらっていい」
「みんはどうしたい?」
俺はゲリゲロの言葉を受けて、パーティーメンバーに尋ねた。
「どっちでもいいの‥‥」
「そうねぇ~。どうでも良いわねぇ~」
「私は断然聞かない派だし!ゲームは自分でクリアしたいし」
「俺もだな。よし、ならばこのまま冒険の旅に出るぞ」
賛成二票、白票二票で、俺たちは情報無しでゲームを始める事に決めた。
まず最初は、この町を歩いて廻る事にした。
RPGの基本だね。
最低限必要な物は、当然最初の町で手に入る。
ゲームプレイ時に貰ったお金はいくらかあるけれど、それ以外には何もない。
「とりあえず、マジックカードやトラップカードが売っている店があるはずだ。店を見て廻るぞ!」
「おー!」
ノリノリなのは恵美だけだったけれど、狛里も天冉もそれなりに楽しんでいるように思えた。
早速見つけた店に入ると、そこはカードショップだった。
基本カードが集められたデッキ型、或いはブースターパックとして売られているものもある。
シングルカードも当然並べられていた。
俺たちはそれを見て廻った。
すると俺はある事に気がついた。
「あれ?デッキ販売されているカードにはナンバーが書かれていないな」
「あら本当ねぇ~」
「シングルにも書いていないのがあるの‥‥」
どういう事だろうか。
いやまあトレカをやっていたら、想像は付くんだけどさ。
「多分同じカードでもレアリティがあるんだし」
正しくそれだな。
「なるほどレアリティまであるのか」
「そう言えばこっちのカードはちょっと枠がキラキラしているの‥‥」
これがレアカードか。
「こっちのは更にキラキラしているわねぇ~」
見ると描かれた絵までキラキラしていた。
「スーパーレアと言った所か」
そして最も厳重に守られた形で販売されているカードは、更にフォログラム加工がされたものだった。
ウルトラレアと言った所かな。
そしてそのカードにはナンバー十が刻まれていた。
「これ、かなりのレアカードなの‥‥」
よく見るとそこには、上限十の文字が刻まれている。
ゲームの説明では、各カードには存在し得る枚数が決められているとの事。
全て誰かに独占されていたら、『基本的には』奪うかその人が使用するかしないと手に入れる事ができない。
今このカードを手に入れてしまえば、多少ゲームを有利に進める事ができるのではないだろうか。
しかし四人のお金を集めてもギリギリ買えるくらいの値段。
今買ってしまうと、今日の食事にもありつけなくなる危険があった。
尤も異次元収納の中には色々入ってはいるんだけれどね。
俺はコッソリ異次元収納を開いてみた。
どうやらグレートアイランド内でも異次元収納は使えるみたいだな。
そうすると‥‥、この中にカードを入れたらどうなるんだろう。
試したいな。
そんな訳で俺はちょっと試してみる事にした。
「ちょっと店で待っててくれるか?」
「策也ちゃんウンコなの‥‥」
「違うわよぉ~。おしっこよねぇ~」
「どっちもちげぇよ!」
こいつら‥‥。
いやしかし、コレはコレで気にしなければならない問題だよな。
俺たち三人はトイレに行かなくても問題ないけれど、恵美は違う。
その辺りも気にしてあげないと。
「お前たちも冒険の前にトイレに行っておいたらどうだ?十五分後にここに戻ってくればいい」
「そうねぇ~」
「そうするの‥‥」
「実はソロソロ漏れそうだったし」
流石嫁隊。
嫁隊だけに、空気が読めるってか?w
俺はそんな事を思いながら、店を出て三人とは別の方へと歩いていった。
さてまずは石ころを拾って、これをカードにしてみる。
「パラリン」
一度カードにしたものは、戻すと再びカードにする事はできないんだよな。
俺はもう一つ石を拾って、それぞれを異次元収納に入れてみた。
すると石は入ったけれど、カードは一瞬の内に消えて失くなった。
なるほど、現物なら異次元収納も可能そうだけれど、一度カードにしてしまうと収納は不可能と。
ならば大切なカードは、トラップカードが揃ってから集める方がいいだろう。
じゃあ戻るか‥‥って、一分も経ってねぇ。
十五分後に集合だったな。
ならば他に試しておく事は‥‥。
そういえばこの世界に来て、まだ深淵の闇の中は覗いていない。
人のいない所でちょっと覗いてみるか。
俺は辺りの気配を伺い、物陰へと移動した。
ここなら誰にも見られないだろう。
俺は深淵の闇を発動した。
そして一寸神を召喚し、とりあえず中へと入れてみる。
ん?入れないだと?
このゲーム、割と面倒くさいかも。
今度は闇の家を試してみた。
こちらも無理。
更にバグ世界のセーブポイントへも飛べなかった。
どうやら篦棒に強力な結界によって、この世界に閉じ込められているようだった。
一応影には潜れるけれど、このゲーム世界からは出られないんだろう。
尤も俺にはドラゴンカウンターもあるし、或いは一霊四魂の霊体化もある。
それらが駄目でも、出る方法は他にいくらでも考えられる。
狛里なら力技でどうにでもなるはずだ。
ただゲームを楽しむ為に来ている訳だし、その辺りは使わないで行く事にしよう。
一通り試して、俺は店へと戻った。
まだみんなは戻ってきていない。
俺はブラブラとカードを確認していった。
色々なカードがあるんだな。
トイレのカードもあるし、食料のカードもある。
他人からカードを盗む『スチール』のカードも売っているようだけれど、それは売り切れていた。
みんな他人から盗む気満々かよ。
そしてそれを止める為のトラップカードも売り切れか。
まずは金を集めて、それらのカードが売り出された時に直ぐに買えるように準備しておく必要がありそうだ。
俺なら力ずくで奪っても良いんだけれどね。
それは相手がそうしてきた時だけにしようと思った。
皆が戻ってきた。
「とりあえず今は、高いカードを買うのは諦めよう。まずは金を集め、ゲームを有利に進める為に必要なカードを揃えていくぞ」
「あのキラキラカードが欲しいの‥‥」
「多分アレを買っても、きっと直ぐに奪われるよ」
「だったらぶん殴って取り返すの‥‥」
狛里ならそう言うか。
でも‥‥。
「これはゲームだからな。相手がゲームの範囲内で挑んでくるなら、こちらもそうしよう。相手が力でくるなら、その時は狛里に任せる」
「分かったの‥‥」
誰も力で襲ってきませんように。
俺はマジで願うだけだった。
「なんだか凄い会話だし。それで結局、どのカードを買うの?」
「そうだな。トイレと食料‥‥。通信魔法も一応必要か。後は地図くらいでいいんじゃないか?」
トイレは恵美の為。
みんなの家もあるから、最悪そこでもできるんだけどさ。
コレもゲームをするなら、使わない方がいいよね。
結局、多くは買わずに店を出た。
その時多少嫌な視線を感じたけれど、何もしてくる様子はないので放っておいた。
「それじゃ、まずは石ころを沢山拾ってカード化し、ファイルのフリーポイケットに入れておこう。スチールの魔法だと、ポケットをランダムに選んで一枚のカードを奪うみたいだからな」
「ハズレを用意しておくのねぇ~」
これ確か、原作でもやっていたよね。
もう忘れているけれど。
「パラリン‥‥パラリン‥‥パラリン‥‥。カードが増えて嬉しいの‥‥」
「これ、同じポケットに入らないし」
「石は全部形が違うから。フリーポケットなら、全く同じものなら同じポケットに入るんだけどな」
存在枚数が一枚となっていると、石ころでもレアだから嬉しくなるか。
俺たちはとりあえずフリーの五十ポケットのほとんどが埋まるまで石ころを集めた。
「さて次はどうしようか」
「さっきトイレに行った時ぃ~、何かカードが手に入れられそうなクエストを見つけたわよぉ~」
「そうなのか?」
俺はそう言って地図を広げた。
「うん‥‥何かあったの‥‥」
「後で調べてみようって言ってたし」
地図を見ると、確かに現在いる町に何かがあるような事が書いてある。
クエストの出発点は、多くが地図に記してある親切設計なんだよね。
そんな訳で俺たちは、そのクエストらしきものに挑戦する事にした。
「で、これか」
「そうよぉ~」
「分かりやすいの‥‥」
「ボーナスステージだし」
道に看板が出ていて、ハッキリと『カードゲットクエスト』と書いてあった。
更に読むと『この道を真っ直ぐ二百メートル進み、そこから左に百メートル行った所にある岩に腰掛けよ』とある。
これだけでいいのか?
「とにかく言う通りにやってみるか」
「そうねぇ~」
俺たちは道を真っ直ぐ歩き出した。
すると前方に更なる看板が見える。
それには『五十メートル』と書いてある。
更に歩くと『百メートル』と書いてある看板があった。
「やけに親切設計だな」
「みんな最初にやるクエストなんでしょうねぇ~」
RPGでも、最初は簡単だもんな。
歩いていくと、直ぐに『二百メートル』と書かれた看板の所までやってきた。
「ここを左なの‥‥」
俺たちは狛里を先頭に真っ直ぐ左側へと歩いた。
そこにも看板が出ていて教えてくれる。
そして百メートルの所に、丁度座れるくらいの岩があった。
「どうやらコレに座れば良いみたいだな」
「早速座ってみるの‥‥」
狛里は岩に座ろうと前にでた。
その時だった。
恵美が声を上げた。
「待って!それじゃないし!」
俺たちは恵美を振り返った。
「それじゃない?」
「どういう事かしらぁ~」
聞くと恵美は答えた。
「私の計算だと、あの看板に書いてある距離は間違っているし。どちらも十メートルほど短かったし」
「そうなのか?」
俺は十メートルずつ足した場所辺りを見てみた。
するとそこにも座れそうな大きさの岩があった。
「そうするとぉ~、あの岩が正解って事ぉ~?」
「そうだし」
なるほど。
これは当たり前の確認をしなければならないそういうクエストだったか。
普通に考えれば分かる事だった。
何も無いなんて、そんなのはあり得ない。
「狛里ちん、起きてぇ~」
いつの間にか岩に座っていた狛里が、気持ちよさそうに目を閉じていた。
もしかするとこの岩にはトラップが仕掛けられていて、眠る仕様だったのかもしれない。
「ビリビリと体が気持ちいいの‥‥」
電撃罰ゲームやったんかーい!
それも狛里にとっては電気風呂に入るようなものだったか。
「早くあっちの岩に座ってみるし!」
そう言って恵美は走りだした。
俺たちもゆっくり後に付いていった。
早速恵美が座ってみる。
すると一枚のカードが恵美の手に現れた。
みんなで覗き込んで見てみる。
『カードナンバー百、鎮座石』と書かれていた。
恵美は立ち上がり、魔法を唱えてファイルを取り出す。
「プリット!」
ページをめくり、ナンパー百の所にカードを挿し入れた。
「最初のナンバーカードゲットだし!」
恵美は嬉しそうだった。
一万枚が存在するカードだったけれど、記念すべき最初の一枚。
ならば‥‥。
「ナンバーカードは全部恵美が管理してくれ」
特に誰がメインでカードを集めるのか決めていなかったけれど、俺たちが管理するよりその方が良いだろう。
ゲームを楽しむのならね。
「あらぁ~。私が座ったら又カードが現れたわよぉ~」
「私もなの‥‥」
このカードはどうやら一人一枚は出るみたいだな。
俺も嫁隊が座る岩に一緒に腰掛ける。
カードはやはり手元に現れた。
皆それぞれ自分のファイルにそれを収める。
大したカードを手に入れた訳じゃないけれど、なんとなくツバメが空高く飛ぶような気分になった。
こうして俺たちはグレートアイランドにやってきて、初めてのクエストをクリアしたと同時に、楽しいゲームの始まりを感じていた。




