グレートアイランドの世界へ
国とは国民。
国家とは国民の家。
今世界は文化戦争真っ只中。
人を武器として送り込み、価値観や文化を書き換える。
書き換わった国は、元の国と同じと言えるのだろうか。
日本という国は、日本民族がいるから日本であり、日本民族が消滅してしまえば日本は存在しない事になる。
逆に世界を日本民族だけにすれば、国が別れていようとも全て日本と言えるのだろう。
武器を使わない醜悪な戦争。
それが文化戦争だ。
別に世界を日本にしようとは思わない。
だけれど、せめて今の日本だけは日本であってほしいと‥‥。
この日も俺は自動車に乗って大統領を護衛していた。
「策也、俺がアメリカへ帰った後も、このまま護衛を続ける気はないか?」
するとスペード大統領がいきなりそんな事を言ってきた。
特に気に入られるような事をした覚えはないけれど、一体どうしたというのだろうか。
あれからずっと大統領といる間は、エロい妄想を続けている。
また条件を満たせば、心が読まれる可能性があるからだ。
もしかしたらエロい妄想が見たいのかもしれない。
なんてあり得ないか。
「申し訳ありませんが、私にはやるべき事があります。誰かの下につくつもりはありません」
一応神様なんですよ俺。
この世界の誰か一人に手を貸すつもりはないのです。
もしかしたらスペード大統領が神候補の可能性もあるけれど、俺がどうこうできる人でもない。
もっとチョロい人を鍛え上げる方がいいだろう。
「そうか。それは残念だ」
大統領はそれだけ言って、後は黙っていた。
護衛任務も、四日はアッという間だった。
大統領は今、アメリカに帰ろうとしている。
俺は大統領専用機の乗降扉の前まで来ていた。
仕事はここまでだ。
ようやく開放されるよ。
エロ妄想からね。
そんな事を思っていると、大統領が声をかけてきた。
「最後に話しておいてやろう。アメリカのインテリジェンス機関の見解だ。日本もかなり文化的侵略にやらているぞ。スイスが発行してりる『民間防衛』を知っているか?」
スイスの民間防衛か。
聞いた事はあるよ。
「武力を使わずに他国を侵略し、乗っ取る方法ってヤツですよね」
「そうだ」
確か内容は‥‥順番は忘れたけれど、まずは工作員を政府上層部に潜り込ませる。
そこからメディアを掌握し、扇動や洗脳をしていく。
教育を掌握し、国家意識を破壊する。
抵抗意識を失くす為、平和や人権、差別の無い人類皆兄弟のような綺麗事で言論を封殺。
考える力を失くさせる為に、愚民化教育も行う。
国民が馬鹿になり平和ボケした所で、移民を大量に送り込んで国を乗っ取るんだ。
地球の日本では、戦後GHQのウォーギルドインフォメーションプログラムによって、移民以外全て仕掛けられていたんだよな。
だから移民を受け入れるだけで国が乗っ取られる可能性のある状態だった。
「今の日本はアメリカよりもマシだが、既に最終段階に来ているぞ。何もしなければアメリカはあと五年、日本は十年で国を乗っ取られる。対処した方がいい」
「そうですか‥‥」
俺は大統領の目を見て、その一言だけ返した。
正直、俺に言われてもねぇって感じなんだよね。
この世界の事は、この世界の人間の問題なんだから。
「日本の近衛晋堂総理はその辺り分かっている。しかし自分の後に続く者がいないと嘆いていたぞ」
大統領はそう言って背を向け、飛行機の中へと入っていった。
俺に総理になれっていうんかーい。
でも話が本当であれば、乗っ取られる可能性が無いとは言えない。
仮に乗っ取りが上手く行かなくても、文化的に侵略されれば、そこはもう日本とは言えないのだ。
生前の地球では、ムスリムによって文化侵略がかなり行われていた。
国名は残っていても、後十年もすれば別の文化圏になったであろう国がいくつもあった。
多様性が大切と言いながら、多様性は失われていく。
そして侵略するような文化が最後には残って、世界は混沌としてゆくのだ。
まあ、俺がこの世界にいる間は、そうならないように多少は気に留めておくか。
穏やかな人々が攻撃的な文化によって駆逐されていくのは見たくないからね。
何にしても、こうして俺の護衛任務は終了した。
ようやく護衛の仕事が終わって、いよいよ俺たちはグレートアイランドに挑む。
日本のピンチを聞かされた後にゲームに没頭するってのはどうかと思うけれど、仕事だから仕方がない。
そんな訳で次の日、俺はしばらく会えなくなる恵美の所に出向いていた。
「えー!しばらく来られなくなるのー?嫌だし!嫌だし!せっかく今良い所だし!」
「そうは言っても仕事だから仕方がないんだよ」
恵美に『仕事でしばらく来られなくなるかもしれない』って言ったら、子供のように駄々をこねられた。
「仕事ってなんなのよー!そんなの断ればいいし!どうせ大した仕事じゃないし!」
「結構大変で面白そうな仕事なんだよ。知ってるか?グレートアイランドってゲーム。まだ誰もクリアしていない幻のゲームだ。デンジャーが作ったらしいRPGをクリアして、報酬を持ち帰ってきてほしいって頼まれたんだよね」
あの漫画の原作とソックリの話だし、このゲームはきっと危険で面白いはずだ。
この世界に来たんだから、これは外せないよね?
「えっ?グレートアイランド?私もやりたいし!連れてって!連れてって!連れてって!」
「ちょっ!」
まさかそう来るか。
でも恵美なら、十分ついて来られるだけの能力はあるよな。
危険だけれど何かあれば俺たちでフォローできるだろうし、実戦は鍛えるのにも丁度いい。
恵美が男ならもっとやる気も出るんだけど、女なのでそこまで鍛える必要もないって気持ちも無いでは無い。
「連れてってほしいし!面白そうだし!」
「でも会長が許さんでしょ?」
「大丈夫だし!私には逆らえないし!」
そうなのか。
実際問題、連れて行く事は可能なんだよなぁ。
このゲーム、最大四人まで同時プレイができる訳で。
これも何かの縁かもしれない。
「分かった。会長の許可が取れるなら連れて行くよ。但し命の危険があるゲームだから、俺の言う事は必ず守ってもらう。できるか?」
「できるしできるし!やたー!」
これでいいのかねぇ。
そんな訳で明日からの仕事には、恵美が一緒に来る事になってしまった。
そして次の日の四時前。
日の出もまだの暗い時間、恵美は萬屋へとやってきた。
「それじゃ説明するぞ。四時になったらそれぞれのコントローラーに魔力を送り込む。するとゲームフィールドに飛ばされるはずだ。そこでゲームの説明を受けたら、スタート地点でみんな待っていてくれ。後は四人揃ってからどうするか伝える」
同じスタート地点なのか、四人が直ぐに集まれる保証はないけれど、その時は俺が全力で探せばなんとかなるだろう。
問題は恵美だけだし、探索魔法を使えば十キロ四方圏内なら簡単に見つけられるはずだ。
「そんなのでゲームができるの?」
「多分な」
一応ゲリゲロには確認済みだし、原作もそうだったはず。
正直原作の記憶はあまり残っていないんだけれど、もっとしっかり読んでおくべきだったかな。
「もうすぐ四時なの‥‥」
「行きましょうかぁ~?」
「そうだな。俺は少しだけ遅れて行くから、まずは狛里と天冉、続いて恵美、そして俺が行く事にしよう」
「ドキドキするし」
俺も割とドキドキしている。
異世界に来て更に異世界に行くのか。
俺はなんとなく笑みがこぼれた。
「いくの‥‥」
「それじゃあねぇ~」
狛里と天冉はそう言って、コントローラーに魔力を注いだ。
すると直ぐに姿が消えた。
「おお!説明の通りだな」
「じゃ、じゃあ、次は私の番だし」
「おう!行ってらっしゃい!」
「うん」
恵美は頷いてから魔力をコントローラーに注いだ。
嫁隊と同じように、直ぐに姿は消えた。
後は俺だけか。
一応最終確認だ。
萬屋は完全に閉めてあるし、特に火元もない。
何かあった時の為に固定結界は張ってある。
よし、行くぞ。
俺もコントローラーに魔力を注ぎ、そしてゲームの世界へと旅立つのだった。
次の瞬間、俺はゲームの世界に来ていた。
ゲームの世界と言っても、原作同様世界の何処かにある島に瞬間移動したのが分かる。
狭い建物の中のようだ。
扉が見えたので、そこから出ようとすると、小さな妖精らしきモノが目の前に現れた。
「グレートアイランドへようこそ。えっと‥‥、初めてのプレイヤーですね。チュートリアルを聞く事ができますがどうしますか?」
チュートリアルはスキップする事もできるのか。
となると、おそらくその情報はゲーム内でも得られるのだろう。
だけれど皆には説明を聞くように言ってあるし、聞かずに行けば一番に外に出る事になる。
待つくらいなら聞いておくか。
「聞かせてくれ」
俺はしっかりと聞いて行く事にした。
「それでは説明しますね」
こうして俺は妖精から、ゲームのやり方とクリア条件を聞いた。
ザックリ説明すると、まずゲームをするにあたり、ハートのブレスレットがプレイヤーに与えられる。
その時、二つの魔法が使えるようになる。
一つは『プリット』で、もう一つは『パラリン』だ。
何処からかパックたような設定だけれど、ここでのツッコミはやめておく。
プリットを唱えると、手にはカードコレクション用の収納ファイルが現れる。
このファイルに記された番号の付いたカードを全て集めるのがこのゲームの目的であり、クリア条件だ。
パラリンは、アイテムをカード化したり、カード化されているアイテムを元に戻すのに使う。
カードには大きく分けて四種類あり、『モンスターカード』『マジックカード』『トラップカード』『アイテムカード』となる。
モンスターカードは、倒したモンスターをカード化したもので、使用すればモンスターを召喚し誰かを攻撃させる事ができる。
マジックカードは、攻撃以外にも色々な魔法があり、ゲームを優位に進める為に使える。
トラップカードは、相手のマジックカードに対するカウンターなどに使える。
アイテムカードは、お金やマジックアイテム、武器防具などがカード化された物で、元に戻す事で使用が可能となる。
漫画の原作にあるゲームよりは単純化されていて、簡単な印象かな。
その他細かい事も色々あったけれど、そこは妖凛ストレージや魔法記憶にあるので、その都度思い出せばいいだろう。
俺はチュートリアルを終えて、部屋のドアから外に出た。
そこは広い空間となっていて、今出てきたドアと同じモノが円状にズラッとならんでいる。
他のドアからは他のプレイヤーが出てくるのだろう。
真ん中には螺旋階段があって、そこから下りられるようになっていた。
俺は階段を下りた。
すると下りた先に、みんなの姿があった。
「策也ちゃん遅いの‥‥」
「いや、ほんの一分程度しか違わないじゃないか?別に何処にも時間をかけてないぞ?」
「チュートリアルなんて聞かないわよねぇ~」
「そうだし。後で策也に聞けばいいし」
こいつら‥‥。
となると三十分くらいは待っていたって事になるか。
「はいはい。じゃあ結局チュートリアルを聞いたのは俺だけだから、俺がみんなに説明すれば良い訳ね」
「よろしく頼むの‥‥」
「妖精さんの話は眠くなるし」
「とりあえず、この場所からは離れましょうかぁ~。この場所にいたら気持ち悪い視線にずっと晒される感じで嫌なのよねぇ~」
天冉の言う通り、確かに誰かに見られていた。
殺気はないけれど嫌な感じはする。
「よし!ゲリゲロとの待ち合わせは‥‥、おそらくあそこに見える町だろう。時間もあるし、とりあえずはこの場を離れよう」
「そうするの‥‥」
「分かったし」
「それじゃあ~あの森にでもぉ~」
皆は頷いて、一斉に森へ向かって走りだした。
スピードは恵美に合わせる。
流石に俺たちのペースだと付いては来られないだろうから。
「加速装置!」
「えっ?」
そんな風に思っていたけれど、恵美は魔法を使って俺たちの通常スピードよりも速く走り出した。
読書モードにあるかずみの大冒険魔法は、俺も全部は把握していないんだよな。
こういう魔法もあるのか。
俺たちはいつもよりも少し速いペースで走った。
森に入った所で嫌な視線は消え、俺たちは走るのをやめた。
「この辺りで良いだろう。とりあえずみんなに、チュートリアルの話をしておく」
俺はそう言って、まずはみんなにゲームのやり方を伝えた。
つかなんでみんなチュートリアル聞いてないんだよ。
余計な手間が増えるだけなのに。
それでもなんとなくコレでいいのかなと思った。
みんながあーだこーだと言いながら、楽しそうに聞いていたからね。
「という訳だ。じゃあとりあえず、みんなパーティー登録をするぞ。プリット!」
そう言って俺はカードファイルを出す。
そして表紙を開いた所にあるタブレット端末の画面のようなのを操作した。
近くにいるプレイヤーの名前が出る。
それらにパーティー加入の招待を‥‥出そうとしたんだけれど。
「恵美?もしかして名前変えた?」
ファイル画面には、狛里や天冉の名前以外に『かずみ』という名前があった。
「えっ?普通RPGなら名前を変えるし。せっかくかずみになれるチャンスなんだから、当然そうするし」
言われてみれば、確かにRPGって名前を変えるよね。
でもそうか。
こういう時こそなりたいキャラになるべきなのか。
って事は‥‥。
「もしかして恵美。お前の喋り方がおかしいのは、かずみの影響だったりするのか?」
初めて会った時から、変な萌えキャラ的喋りをする子だと思っていた。
でもわざわざ聞く必要もないと思って聞いて来なかったんだけれど‥‥。
「そうだし!私はこれで完全なかずみだし!」
恵美は嬉しそうに答えた。
ああ、やっぱりそうなのね。
だいだいこんな変な喋りをする奴、現実にはいないよな。
ね!‥‥。
ネ申す俺は、神やで。
まあそんな事はどうでもいいや。
俺はみんなとパーティーを組んだ。
「パーティー名は何にするかね」
「当然『狐撲暁隊』だし!」
‥‥。
「一応聞くけど、それは何故だ?」
「かずみの大冒険で、かずみのパーティー名だし」
だよねー。
でも狛里も天冉も反対する気はないみたいだし、それで良いか。
俺はファイル画面を操作し、パーティー名を設定した。
「よし!俺たちは狐撲暁隊だ!」
「おー!」
「おお?‥‥」
「はいはい~」
狛里と天冉の士気は今一上がらなかった。
それでもとにかく一応の準備は整った。
訳だけれど、まだ一つ俺には懸念すべきモノがあった。
それは、恵美の能力の事だ。
この世界ではおそらく、今後ファイルを出した状態で他のプレイヤーとやり取りする事になる。
戦闘もあり得るかもしれない。
しかしそれだと、読書モードを発動した状態で戦う時どうなるのだろうか。
本とファイル両方を持って戦うのは難しいだろう。
しかもファイルの中からマジックカードを取り出して使うには手が足りなくなる。
その辺りどうするべきか解決しておく必要があった。
「恵美。所で読書モードとファイルの両方を使う時はどうするんだ?」
恵美は考えていなかったようで、目を丸くしていた。
やはり何も考えていなかったか。
「えっと‥‥。どうなるの?」
いや俺に聞かれても。
「とりあえず試してみるしかないだろう。まずは読書モードで本を出してみてくれ」
俺の言葉に恵美は直ぐに本を出して見せた。
「読書モード!」
「じゃあ次は、そのままファイルも出してみてくれ」
恵美はそのまま呪文を唱える。
「プリット!」
すると本は消え、ファイルが手元に現れた。
やはり同時には使えないのか。
これは結構面倒なゲームになるかもしれない。
そう思ったのだけれど、恵美は何故か驚いていた。
それに気がついてよく見てみると、ファイルが少し分厚くなっているように見える。
そして表紙には何かが書かれていた。
見ると‥‥。
『かずみの大冒険魔法ファイル』
‥‥。
恵美は直ぐにファイルを開いて中を確認した。
俺も後ろから覗き込む。
今はまだファイルには何も入っていないはずだけれど‥‥。
ファイルの前半、分厚くなったその部分には、かずみの使う魔法のカードで埋め尽くされていた。
しかもカードの枚数を表示する部分には、『∞』のマーク。
んー‥‥。
これはアレか。
恵美の魔法がこの世界仕様に変えられているという事か。
でもこれなら、発動までの時間が本来よりも短縮できるんじゃね?
カードを抜き取って使わなければならないので手が必要にはなるけれど、大魔法も発動までの時間が早くなるのはメリットだろう。
いっそ恵美の能力は、こっちの仕様に変更した方が良いかもしれない。
「わー!これ!なんか面白いし!」
本人もなんか喜んでるし、相性も悪くないかもしれない。
「恵美。読書モードの仕様、こっちに変えたらどうだ?メリットもデメリットもあるけれど、この世界で訓練するならその方がいいし」
俺がそう言うと、恵美は即答した。
「うん!なんか格好いいし!呪符魔術‥‥ならぬ、トレカ魔術だし!」
「確かに」
なんか割と格好良くね?
あのカードゲームアニメのように『俺のターンドロー!』とか言いながら使うのも面白いかもしれないぞ。
「ちょっと試しに使ってみるの‥‥」
「うん!ちょっとやってみるし!」
狛里に勧められ、恵美は火の玉ボールのカードを取り出した。
そしてそれを前に突き出して唱える。
「火の玉ボール!」
するとカードが瞬時に魔力を集め火の玉となり、前方へと打ち出された。
「あらぁ~。かなり魔法の起動が早いわねぇ~」
全くだ。
これはおそらくこのゲームの仕様が影響しているのだろう。
これなら十分使えるし戦える。
「これで行くし!」
恵美はハッキリと決めた。
こうして恵美の魔法は、まだまだ完全体で無かった事が幸いしたのか、新たな形へと進化するのだった。




