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狛里の心

政治家になるのは男性が多い。

そもそも国家は領土(富や資源)の取り合いから始まったのだから、それは当たり前の事で。

力を持つ者が領土を広げ国を持つ。

それは女性にはできない事。

だから政治家は男性である方が自然なのだ。

しかし近年、政治家が自ら戦う事はほぼあり得ないし、女性の方が良いと思われる所も無いではない。

それでもやはり、国家運営は男性の方が向いていると言える。

世には男の世界と女の世界があるのだ。

本能に逆らって生きられるのはおそらく人間だけだろうけれど、必要以上に理性で本能を抑えても不幸になるだけだよね。


恵美の家庭教師?というか特訓には毎日付き合っていた。

どうせ暇だし、恵美が強くなるのは見ていて面白いからね。

読書モード時間分しか推し活モードが使えない枷をかけた事で、推し活モードもレベル相応には使えるようになった。

「今だし!」

「おっ!ちゃんと殺気を感知できるんだな」

推し活モードの発動条件を使う事で、殺気や危険を知る事もできるとか。

我ながら良い条件を付けたものだ。

「後は推し活モードから読書モードへの連携だな。算術能力を使って読書モードへの流れも計算できれば完璧だろう」

「それがなかなか難しいんだし。まだ使っていない魔法も沢山あるし、使用データが不足しているし」

「尤もだな」

とは言えかずみの大冒険は分厚い本だ。

全ての魔法を試していくのも、一人でやるには危険が伴うしさせられない。

しかし俺が付いていられるのも今日までだ。

明日は休んで、明後日からはボディーガードの仕事。

「セバスクンに見ていてもらうからテストしちゃ駄目?」

「駄目だ。業火の咆哮ハウリングも、おそらく今は更に威力を増している。この辺り一体で大爆発を起こすぞ」

魔法を覚えたてなのに強力な魔法が使えるのはヤバい。

力をコントロールできない狛里くらいヤバい。

いやそこまでじゃないにしても、一霊四魂の荒魂を発動した天冉くらいヤバい。

別の意味も含まれるけれど。

「うー‥‥。分かったしー」

「こっちの仕事が終わったら、来月一日に又来るから」

「絶対だし!」

「はいはい」

俺の休みよさようなら。

「とにかく、読書モードを続けておいてくれ。ここまで貯金が貯まれば貯まるほど強くなっている傾向にあるから」

「うん、そうするし。どうせいつもの読書時間に読書モードで他の本を読んでるだけだし」

それが良いのかもな。

本を読めば読むほど賢くなるし、知力が上がればMPも上がるのは定番。

今更ながらこういう方法で強くなる事もできるのかと思った。


さて二日後、俺たちはいよいよボディーガードの仕事をする。

これはこれで何気に楽しみと言うか、やっぱり各国のトップに会えるのはテンションが上がる。

俺たち三人は空港に併設されたホテルで、それぞれのボディーガード対象がやってくるのを待っていた。

「ロシアのスター・リング大統領が来られました。新巻鮭さん、よろしくお願いします」

「は~い!それじゃぁ~行ってくるわねぇ~」

「行ってらっしゃいなの‥‥」

「よろしく頼む」

正直色々不安はあるけれど、頼むから国際問題に発展するような事はしないでくれよ。

一応影には一寸神を忍ばせて様子は見られるようにしている。

何かあればやめさせないとね。

天冉は案内の者に付いて部屋を出ていった。

ホテルから出た所で、どうやら本人とご対面のようだ。

なるほど、流石はロシアの大統領、貫禄がある。

ただ名前をパクったであろう人物とは違い、俺が生きていた頃の大統領に似た容姿をしていた。

写真よりも想像できるからって事だろう。

みたまの知識から生まれた世界だしそんなもんだ。

「こちらが四日間、ボディーガードを務める新巻鮭天冉でございます」

「よろしくねぇ~」

天冉に敬語を使えと言っても無理だからな。

こんなんでどうやってお姫様なんぞをやっていたのやら。

「プロのデンジャーだそうだな。しかし‥‥ちゃんとやれるのか?」

見た目で判断すれば不安にはなるか。

「はい、大丈夫だと思います」

案内の者も苦労しそうだ。

「私は一応何でもしっかりと確認しておきたい質でな。おい、新巻鮭といったな。ちょっとホテルにある闘技場で私と手合わせしてくれ」

えー!いきなり?

つかホテルにある闘技場ってなんだよ。

この世界ではそれが普通なのか?

「私とぉ~?それは構わないけどぉ~、勝っちゃっていいのかしらぁ~?」

コレはなんとなく俺に言っているように聞こえた。

しかし俺が返事をする前にリング大統領が答える。

「勝てるものならな」

少しの殺気を感じた。

『天冉!任せるけど怒らせないようにな』

『は~い!』

一応テレパスでそう伝えはしたけれど、負けた方がいいのだろうか。

でもわざと負ければ多分バレると思う。

「プロのデンジャーで私のボディーガードだ。私に負けて死ぬなんて事はないよな?」

「お手柔らかにお願いねぇ~」

言葉は柔らかいのに、天冉の顔は笑っていない笑顔だった。


闘技場に移動すると、早速手合わせが始まる。

本当にホテル内に闘技場があったよ。

俺の知らない世界はまだまだありそうだ。

生前の日本にもあったのかも知れない。

いや、それは無いな。

「それでは行くぞ?」

「いつでもどうぞぉ~」

案内の者も仕方なく見届けるしかない。

でもこの世界ではよくあるのかもしれないな。

特に止めたりもしなかったし。

さてまずはリングが軽いフットワークで天冉に近づいてゆく。

天冉はそれをただ自然体で見つめていた。

この世界の魔法に付いては分からない事も多い。

まずはそれを見極める方が良いと考えたか。

逆に魔法によっては先手必勝のものもあるだろう。

果たしてリングの魔法は‥‥。

しかし特に何かをするでもなく、普通に体術で天冉に襲いかかる。

体術と言っても、当然念力を使って体の強化はしているけれどね。

それを見て天冉も悟ったのか、同じく身体強化のみで立ち向かった。

パワーは当然天冉が上なのだけれど、流石にプロデンジャーに手合わせを求めるだけあってリングは戦闘技術が高い。

剛の天冉と柔のリング。

但し力の差は歴然で、リングの技は何の役にもたたなかった。

「力を利用しても関節を決めても意味がない?」

「もしも今のあなたが全てならぁ~、私には勝てないわねぇ~」

天冉がそう言うとリングは距離を取って戦いをやめた。

「力は確認させてもらった。護衛として十分役に立つと理解したよ」

「そう~。納得してもらえて良かったわぁ~」

俺はこの程度で済んでホッとしたよ。

「日本にはお前よりも強いのがいるのか?」

「そうねぇ~。あと二人は最低いると思うわよぉ~」

一霊四魂のオリジナルを使われたら、ルールによっては分からないけどね。

ただ狛里には勝てないとは思うけれど。

「日本はまだまだ侮れないな‥‥」

リングの呟きは、天冉には聞こえてなさそうだったけれど、俺にはちゃんと聞こえた。

ロシアは隙を見せると常に敵になり得る国だけれど、隙さえ見せなければ問題ない国でもある。

それはこの世界でも同じかもしれないと思った。


天冉が戦っている間にも各国のトップは続々と日本にやってきていた。

「イギリスのパーマ・ストーン首相が来られました。あ、こちらは安さんでしたね」

ドアの向こうにアーニャンの姿が見えた。

目があったので軽く手を振っておいた。

それにしても、各国のトップの多くは男性だな。

女性の名前はここまで一・二名って所か。

男女平等とかって云われていても、やはり適材適所ってのは存在する訳で。

国家運営は男の領域という気がする。

やはり本能的に向いているのだ。

家庭、又は地域は女性の領域という気がする。

何を重視するか、本能からくるものは根本的に違うのだよ。

どちらが正しいという訳ではなく、そうやってバランスは取られているのだ。

「中国の牛拓斗(ぎゅうたくと)総書記が来られました。萬屋さん、よろしくお願いします」

次は狛里か。

天冉よりも心配だよ。

「それじゃ行ってくるの‥‥」

「頼む」

いやホントマジで頼むぞ。

一寸神は付けておくけれど、人類史上最も人を殺したあの人の名前に似ているからな。

マジで悪い奴だったら狛里が何を仕出かすか分からない。

場合によっては世界が終わる。

そんな事になったら、俺の責任ってどうなるんだろうなぁ。

つか生きて帰れるのだろうか。

ガクガクブルブル。

とにかく狛里は一寸神で監視だ。

さて牛くんはどんな人なのだろうねぇ。

「よろしく頼むんだな」

「よろしくなの‥‥」

見た目はなんとなく、俺が死んだ頃の総書記に似ている。

割と穏やかそうで、とりあえず狛里とは普通に挨拶を交わしていた。

それ以降特に何かを話す事もなく、案内の者たちに付いて駐車場へとやってきた。

ここからは自動車に乗ってホテルに向かう。

特に会話はない。

熊さん‥‥じゃなかった、牛総書記と狛里は、自動車の後部座席に並んで座った。

特に会話は無かった。

自動車が走り出すと、ようやく牛総書記が狛里に話しかける。

「護衛、しっかり頼むんだな」

「分かったの‥‥。任せるの‥‥」

「ちっちゃいのに偉いんだな」

(うし)ちゃんも偉い人なの‥‥」

こら狛里!

友達じゃないんだぞ。

うしちゃんは駄目だろ。

「よくクマって云われるんだな」

「確かに似ていて可愛いの‥‥」

「君も可愛いんだな」

「ありがとうなの‥‥」

なんか普通に話してね?

やっぱり可愛いは正義なのだろうか。

いやしかし中国のトップだ。

デンジャーとしてもおそらくトップクラスに強い。

強いからこその余裕なのだろうか。

何にしても割と相性は良さそうで、俺はホッと胸を撫で下ろすのだった。


さて次は俺の番か。

アメリカの大統領は最後にやってきた。

流石はナンバーワン。

重役出勤だね。

「こちらがアメリカのスペード大統領です」

案内の者に紹介され、俺は軽くお辞儀をした。

見た目は名前から連想される大統領にそっくりだった。

「護衛させていただきます。策也・此花と申します。よろしくお願いします」

「ああ。しかし見た所かなり貧弱そうな護衛だな。これで俺が守れるのか?」

大統領は少し鼻で笑った。

カッチーン!とはこないよ。

見た目で侮られるのは慣れているし、むしろその方が仕事には好都合な事も多い。

特に感情を出す事もなく俺は答えた。

「はい、確実にお守りいたします」

そうするとスペード大統領が、今度は少し鋭い気を持って話してきた。

「守るだと?俺はデンジャーとしてもアメリカで五本の指に入る強さを持っている。プロだかなんだか知らんが、護衛を付ける意味はないだろうさ」

そんなに強いんだ。

でも五本の指に入るって事は、おそらく強さは四・五番目って所か。

ならばさほど強い訳ではないのかもしれない。

「お前今、俺の事をさほど強くないと思ったな?」

えっ?もしかして心が読める?

「やはりそうか。表情を見ていたら分かるんだよ」

えー!俺ってそんなに表情に出るのか。

バレているなら嘘をついても仕方がないな。

とは言えぶっちゃけて言う訳にもいかない。

「ご想像にお任せします」

本当にお偉いさん相手は俺にはきついよ。

これなら戦闘の方がまだマシだ。

「ふむ。お前、此花とか言ったな。ちょっと俺と手合わせしないか?」

また手合わせキター!

国のトップって奴は、戦闘が好きなのだろうか。

分からなくはないけれどね。

そもそも国家とはそういった所から始まった訳だし。

でも、俺も実際にアメリカの上位デンジャーの力は体感しておきたい。

ならばやってみるか。

「私で良ければ」

「よし!決まりだ」

そんな訳で結局俺も、ホテルの闘技場で手合わせする事となった。

だからなんでホテルに闘技場があるんだよ。


闘技場に移動して、俺たちは向かい合って立っていた。

さて、どんな能力を使ってくるのか。

リング大統領は体術のみで戦っていたけれど、スペード大統領もそうするとは限らない。

能力によっては油断できないぞ。

「それでは始めるか。俺はしっかりと魔法を使っていくぞ!」

「はい」

やっぱりこの人、相手の心が読めるみたいだな。

割と厄介かもしれん。

スペード大統領がいきなり仕掛けてきた。

真っ直ぐに向かってきてパンチを繰り出す。

俺にとっては避けるのも容易いが‥‥。

少し右へと体を移動する。

当然それは読まれており、パンチは追いかけるように付いてきた。

食らっても良いけれど、どんな効果が付与されているかも分からないし。

俺は体を後ろに引いてかわした。

「ん?よく今の攻撃をかわしたな?」

「心が読まれていると分かっていれば、対処も容易いですよ」

常人なら容易くはないだろうけれど、俺には全く問題がないんだよな。

何故なら、俺には思考が沢山あるんだから。

読まれていると思われる思考で俺はエロい事を考え、他の思考で戦闘をする事にした。

スペード大統領が戸惑っているのが分かる。

普通思考なんて一つしか無い訳で、それ以上は流石に読まれないか。

俺はエロい妄想に浸っているように見せかけ、スペード大統領へと距離を詰めた。

「なんだこいつ?気持ち悪いぞ?」

「こんな状態だと普通は戦えませんよね?でも俺は戦えるんですよ」

俺はスペード大統領の顔面を殴る直前で寸止めした。

それを見てからすぐに反撃してくるけれど、俺はそれよりも早く離れた。

俺、先の未来を見られるんだよね。

つか妄想しながら戦うのって、割と面白いな。

夕凪(ゆうなぎ)の気持ちが少し理解できた。

ちなみに夕凪ってのはティアマトの魂を持つ俺のゴーレムで‥‥。

詳しくは一作目を見てねw

「考えている事と喋っている事が違うだと?」

この人本当に人の心が読めるんだ。

どういう条件か知らないけれど、相当厳しい条件だと思うんだよね。

いや、人の心が読めるってのは、常に良い事ばかりではない。

それにそんな事、あまり公にして良いものでもないだろう。

周りの人間はきっと避ける。

「俺の負けだ。お前の心の声が聞こえなくなった」

ふむ‥‥。

嘘を言っている風ではないな。

俺は嘘を言っていたらなんとなく分かるんだよね。

心が読めなくなったのは本当のようだ。

おそらく心を読む為に必要な条件が失われたのだろう。

例えば、初めて会った者の心が三十分だけ読めるとか、或いはもう心を読む必要が失くなった場合、『聞こえなくなった』と宣言すればそうなるのか。

答えは分からないけれど、スペード大統領が負けを認めたのだから良かった良かった。

でも俺は、常にエロい妄想を一応続けるのだった。


宿泊ホテルまで送った後は、俺も近くの部屋に泊まる事になる。

流石に超VIPが泊まるホテル。

しかも近くの部屋だから、俺の泊まる部屋も並ではなかった。

何かあれば直ぐに駆けつけられる所にいなければならないとは言え、ここまでの部屋を用意してもらえるのか。

プロのデンジャーやべぇな。

狛里や天冉も同様で、狛里はベッドで飛び跳ねて喜んでいた。

『ふかふかベッドなの‥‥。本気で跳ねたら雲の上まで行けそうなの‥‥』

コレコレ、マジでやっちゃ駄目だぞ。

ホテルが爆発してテロだと思われるからな。

それにしても、ホテルを分ける必要ってあるのかねぇ。

一ヶ所に集めていれば、守るのも楽なのに。

各国首脳が同じホテルだと問題もあるのかな。

とにかく仕事だ。

俺は辺りを確認した。

んー‥‥、特に何も問題は感じないな。

まあ日本だからなぁ。

日本は世界の中で特に治安が良い国だ。

俺が死んだ頃は外国人により治安がかなり悪化しそうな気配はあったけれど、みたまが亡くなった頃は平和で良かったんだよね。

イラン人が偽造テレホンカードを売ったりして社会問題になって、それでみんな国に帰ってもらったんだ。

そしたら治安も良くなって、丁度そんな時の日本がこの世界はモデルになっている。

尤もそれから月日は流れているし、外国人の問題はやはりあるけれど、今の地球よりはきっとマシな世界ではあるとなんとなく俺は思った。

結局この日は何事もなく、俺たちはゆっくりとホテルのスイートルームを楽しむのだった。


次の日は自動車でサミット会場へと向かう。

俺はスペード大統領の横、後部座席に座って護衛だ。

拳銃で狙われても防弾ガラスは突き破れない。

自動車が大きな事故にでも合わない限り、身が危険にさらされる事は普通ありえないはず。

とは言え人が集まる所を通る時は警戒した。

スペード大統領を応援する人たちが、ホテルの出口付近に一目見ようと集まっていた。

それに対して、スペード大統領は手を振る。

アメリカの大統領を見られる機会なんてなかなか無いからな。

集まるのは分かるけれど、人が多いと殺気を探るのが少し面倒だよ。

日本だから滅多な事は起こらないと思うけれどね。

特に何事もなく出口付近は通過して、一般道を走り出した。

この日この時は一般車両は通行止めだ。

流石にここまでやるんだね。

これなら交通事故も起こらないか。

俺の出番はなさそうだった。

そんな時、スペード大統領から不意に話し掛けられた。

「日本は世界一の治安だと聞く。しかしこの国にもあのような不逞の輩がいるんだな」

見ると道には、オーガ系外国人たちがスペード大統領への抗議活動をする為に集まっているようだった。

「アレは外国人ですね‥‥」

治安の良い日本でも、やはり外国人の問題はそこそこあるんだよ。

前に獣人系外国人の強制送還に協力したけれど、当然それが全てではない。

「我が国アメリカには、不法移民が沢山入ってきていてな。日本とは比べ物にならない大きな社会問題となっている」

「はあ‥‥」

地球のアメリカとこの辺りは同じだな。

「俺はこれから不法移民を全て追い出すつもりだが、日本もソロソロ気をつけないと‥‥。一気に来るぞ?」

スペード大統領は日本を心配してくれているのだろうか。

とは言え、俺に言われてもどうしようもないんだけれどね。

「ご忠告ですか。ありがとうございます」

「君たちがいれば、やる気になれば対処は可能だろうけどな」

この世界はまだマシか。

デンジャーがいれば強制もできる。

でも、外国人にもデンジャーはいるんだけれどね。

そんな話をしている間に、自動車はサミット会場へと到着していた。


さてサミット会場に着いた後、俺たちデンジャーは会場周辺のパトロールだ。

護衛として集められたデンジャーたちも、会場内には入れない。

デンジャーの中には、色々な魔法を使う者がいるからね。

大切な首脳同士の会話は、聞かれるとマズイものだってあるのだ。

尤も俺が本気になれば余裕で聞く事も可能だけれど、知らない方が良い事もあるだろう。

俺は普通にパトロールする事にした。

いやしかし、こんなパトロールを狛里や天冉が素直にやれるとは思えない。

天冉はともかく狛里は直ぐにサボりたくなるはずだ。

何処かで眠っているかもしれない。

俺はテレパスを繋いで一応確認する事にした。

すると直ぐに何やら狛里の声が聞こえてきた。

『今日は策也ちゃんと天冉ちゃんが夫婦の設定でいくの‥‥』

‥‥、なんだかとっても物騒な話が聞こえてきたんだけれど。

これは狛里の妄想だな。

パトロールなんて暇だから、妄想で時間を潰す気か。

それはそれで悪くない対応だけれど、テレパスに声が漏れてるのは迂闊だぞ?

ちょっと気になるじゃないか。

『私は二人の間に入るJCなの‥‥』

二人の間に入るJC?

どういう役なんだ?

『天冉ちゃんから策也ちゃんを奪うの‥‥』

それはいけない。

天冉の旦那を奪うなんて、危険過ぎる。

『私の方が色気で勝っているの‥‥』

JCって言うから、自分の事をよく分かっていると思ったけれど、全然分かっていなかったか。

でもそんな狛里に俺は色気を感じてしまう設定なのか?

『策也ちゃんに胸を揉み比べてもらうの‥‥』

なんだそのトンデモ展開は?!

というか、狛里に揉めるだけの胸はないじゃないか!?

逆にどうやって揉んでるのか気になるぜ。

そんな事を思っていると、薄っすらと映像が浮かび上がってきた。

いやちょっと待って。

見てしまって良いものだろうか。

しかし次の瞬間、俺が思いっきり狛里に殴られている映像が見えた。

『策也ちゃん、ドスケベは禁止なのー!‥‥』

吹っ飛ばされた俺は、地面を転がり続けた。

しかし直ぐに平気な顔で立ち上がる。

『流石は策也ちゃんなの‥‥。私の全力パンチでも死なないのは策也ちゃんだけなの‥‥』

狛里は満面の笑みを見せた。

そりゃ、狛里は世界が生んだバグ。

最強の魔神だからな。

その全力攻撃で死なないヤツなんてなかなかいない。

俺も力では負けているけれど、一応狛里の上司だから死なないだけで。

つか世界の神だからね。

そんな事を思っていると、映像は森の中へと切り替わった。

何処かで見た事があると思ったら、これはイスカンデルにあるあの森か。

森には狛里と、両親らしき人の姿が見えた。

魔獣と戦っているようだ。

両親も強くて、虎魔獣にやられるような感じはしない。

しかしおそらくこの映像は、両親が虎魔獣に食われた時のものだと感じた。

アレ?母親だけじゃなく、狛里もカチューシャを付けているな。

母親の付けているモノと比べるとシンプルな感じがするけれど、俺にはなんとなく魔力を抑える為のものだと理解できた。

戦闘の最中、狛里が付けているカチューシャが突然壊れた。

どうやら狛里の魔力を抑えきれずに壊れてしまったのだろう。

すると次の瞬間、狛里の魔力が辺りに一気に開放された。

『しまった!狛里の魔力に絶えられなかったか?!』

『狛里!戦いをやめて逃げなさい!』

次の瞬間、両親は虎魔獣に丸呑みにされていた。

一体何が?

何が起こったんだ?

そうか‥‥、狛里の魔力によって、両親の体が一瞬動かなくなったのか。

ボーゼンとする狛里。

それを見て逃げ出す虎魔獣。

そして景色は、萬屋の庭へと移動していた。

狛里がニョッキニョキとしている。

誰かを召喚する所のようだ。

『もう‥‥大切な‥‥人が死ぬのは‥‥嫌‥‥。私よりも‥‥強くて‥‥、私の魔力にも‥‥負けない‥‥死なない‥‥家族が‥‥欲しい‥‥』

狛里は思っていたんだろうな。

両親が自分のせいで死んだんだと。

だから『強すぎる』自分が悪いと、ずっと考えていたのだろう。

だから俺が‥‥、召喚されたのか。

見えていた映像は、消えた。

ちょっと話をしようとテレパスを繋いで、なんとなく妄想を聞いていたら、狛里の記憶に触れてしまったようだ。

見ちゃ‥‥、駄目だったかな。

でも、なるほど狛里の気持ちは分かったよ。

何故力で人を殺したくないのか。

何故強すぎる力を好ましく思っていないのか。

とりあえずこの事は心にしまっておこうと思った。

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