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04.ジュジュ

「ジュジュ。待てー」

 そう言って、和葉は自らが投げたボールを追うボーダー・コリーのジュジュを、今度は和葉が追う。追い掛けっこだ。そうしてジュジュはボールに追いつくと、Uターンして和葉の元へ戻ろうとする。すると、和葉も走り出しているので、勢い余って打つかるかのようにご対面となる。

「ハァハァハァハァ」

 寒空の下ボーダー・コリーのジュジュは息遣いを荒くして、ボールをしかと(くわ)え、(よだれ)を垂らしている。そんなジュジュを溺愛して顔や頭を撫で回すので、和葉の身体もベタベタだ。

 丁寧に芝生を刈り取られた公園の広場で、父と貴実子と幸枝に見守られながら、縦横無尽に目一杯、ジュジュと和葉は(たわむ)れている。

 家事全般を担っている幸枝は涎でベトベトになった和葉の格好を見て、洗濯機に掛ける前にまず手洗いだな、とこの後の予定を考えている。

 持ち家の一軒家から歩いて五分と掛からない広場と松林が売りの公園は、受験生の園美だけ残して家族全員で集っている。幸枝は昼の二時を回ろうとした所で、もうそろそろ夕飯の支度をしに、一足先に家に戻ろうか、と思っていた。

 和葉が「飼いたい」と言い出した(貴実子が仕向けた?)犬の飼育は、車で五分と掛からないアウトレットモールのホームセンターに、家族全員で赴いた。その館内の一区画のペットコーナーで、「キャンキャン」とクリアケースの中で吠えて、自己主張する子犬達の中、一匹だけお客の私達にも目もくれずぐっすり眠りに付いている犬がいた。

 その大人しさを見て、「この犬ならいい」と園美と幸枝は声を揃えて、雌のボーダー・コリーを指名した。それがこのジュジュだ。

 園美と幸枝は妹の和葉と姉の貴実子の半ばゴリ押しで、犬を飼うのに白旗を上げたが、その変わりに「どの犬にするかは私らで決めさせて」と、結託して同意した。

 園美はのんびり屋。幸枝は大人しく、キャンキャンと(わめ)き散らす元気一杯の犬の同居には難色を示した。そこで二人して「一番大人しそうなのにしよう」と、口裏を合わせていた。

 そこでペットコーナーではしゃぎ回る犬が大多数を占める中、我関せず、とぐっすり眠る子犬に白羽の矢が立った。

 この子は大人しくて、貰われていく帰りの車中でも、目を覚すことなくぐっすり眠っていた。

 早速家族会議が行われた。大雑把だが基本的には和葉が面倒を見て、監督責任者にお父さん。経済面と、最高責任者は貴実子、という(てい)がなされた。

 そして名前はどうしようか? となった際、お父さんは、

「荻原家は草木に(なぞら)える名前を皆、付けているから子犬もその方がいいな」

 とした。そうすると和葉は、

「キキは?」

 と言ったが、どこかのキャラクターでそんなのいたかもね、と却下された。そこで最高責任者の貴実子は、

「お父さんの快気祝いも兼ねてるから、お父さんの名前を頂いて『ジュジュ』はどう?」

 とした。お父さんは面映(おもは)ゆいのかほっぺを赤らめていたが、異論は出なかったのでジュジュ、に決まった。

 さぁーて、そのジュジュだが、大人しかったのは帰って来るまでの話。一頻り眠るとやんちゃ坊主で手の付けようがない。目覚めている時は常に全力で駆け回り、よく食べ、よく出す。そして疲れきったらぐっすりと寝て、また全力と、その繰り返し。

 ペットシートの替えを買いにお父さんはホームセンターに立ち寄り、ボーダー・コリーの経緯(いきさつ)を伝えると、荻原家の皆が買い求める前までは、売り場一の元気者。居合わせた際は疲れ切っていて眠りこけていたんだと。

 こんな塩梅で、真ん中二人の目算は外れたが、それでも荻原家に明るい風を運んでくれるジュジュであった。

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