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02.家事代行

 運気とは存在する。形而下されるわけじゃないが、感覚的に存在する。勘の鋭い人ならば、人の身体に纏わり付いたオーラと称する。スピリチュアルとは、その最たるものだろう。そこまでいかなくても「今が巡りが良いな。悪いな」と第六感を働かせる人は、ちらほらいる。

 三女の幸枝は自由奔放だが、この第六感は冴えている。だから普段、身勝手な彼女もこの感覚を察知した時には、周りに気遣いを見せるやさしさがある。お父さんはお義母さんが亡くなってから、巡りが悪い。

「お父さん。お帰りなさい。お仕事お疲れ様。ご飯出来てるよ」

「お父さんの好物の、みたらし団子買っといたよ。よかったら食べて」

「お風呂掃除しといたよ。お父さん、一番風呂よかったらどうぞ」

 幸枝は、自分の勘の鋭さを表立っては吹聴しない。当然だ。大多数には理解不能なのだから。だから、表立たずこの力を使う。思いやり、という言葉にすりかえて。けれど彼女の第六感から繋がる想いは、今回は力及ばなかった。父さんの運気の巡りは、思ってた以上に悪かった。お父さんは、癌を患った。胃癌だった。

 お父さんの悪運を(おもんばか)って幸枝は心配りをしたが、世話焼き、という気遣い以上のことは出来ない。自分は変えられても人を変えられない、のと一緒だ。お父さんはお義母さんへの悔いと懺悔、そして自身の病気で、陰鬱な負のスパイラルに陥り、自分で自分の首を締め上げているようだった。

 お父さんは幸いにも早期発見だったが、罹った病院も悪かった。「万が一も有り得ますので」として、全身麻酔の開腹手術で胃を全摘出した。部分切除でもなんとかなったろうに。完全に干からびたお父さんはもう、いつお迎えが来てもいいぐらい痩せ衰えていた。

 幸枝は決めた。お義母さんの亡くなった今、家族を守る代わりが必要だということを。これまでワガママが通せていたのも、お義母さんに甘えていた自分がいたからだ。変わろう。自分の為じゃなく誰かの為に。そうだ。家族を私が守るんだ。

 お父さんが退院した次の日から、率先して家事を手伝うように変わった。そうすると、会社勤めで家事との両立の難しかった長女の貴実子に、気持ちに余裕が出来た。

 受験勉強との両立の難しかった次女の園美も、集中して勉強出来る時間を、与えてやることが出来るようになった。

 四女の和葉もお母さんが亡くなって、お父さんも患って、落ち込んでいたが、息を吹き返したかのように見る見るうちに、やんちゃに舞い戻った。異母姉妹の一番下の彼女は一家のムードメーカーで、和葉の再生が荻原家のムードを一新するカンフル剤となった。

 幸枝は自分が思い遣って行動を起こしたことによって、数珠繋ぎで姉妹達のムードを変えることが出来るようになった。ちょっとした心掛けが、小さな水飛沫(みずしぶき)から大きな波紋へと変わっていった。そうして青息吐息だったお父さんも、子供達四姉妹の明るさで、一歩ずつだが踏み出していった。

 こうしてお父さんは食欲も出てよく寝れるようになった。嘗ての好奇心旺盛で活発な(なり)に、舞い戻って来ていた。

 お義母さんが亡くなって、お父さんも患って、嘗て陰気だった運気は陽気へと針が触れるように様変わりした。

 こうして荻原家は幸枝が家事を中心に担うようになって、父さんと四姉妹で新たな門出を迎えることとなった。

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