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01.葬式

 (ひつぎ)を積んだ霊柩車が、家から火葬場まで向かう所。親戚や近隣の方々が、車両を取り囲み合掌する。出発の合図として、クラクションが鳴る。「ファーン」

 位牌をもち霊柩車の助手席に乗り込んだお父さんは、唯でさえ線が細いのに、義母が亡くなった心労で、骨と皮になったかのようだった。憔悴しきったお父さんは、干からびていて、明らかに潤いが足りてない。これまで目立たなかった口の脇に出来た(いぼ)が、一際目立っている。元々猫背だったが、S字の脊椎の傾斜角はより前屈みに歪んでいる。

 火葬場までの道のりの同行車に、長女の貴実子と次女の園美が一緒に乗っていた。

 園美は姉に言った。

「お姉ちゃん。お父さん、どう思う?」

「どう思うってなにが? どうもこうもないでしょ。沈痛な思いよ」

「そうか。そうだよね。やっぱり落ち込んでるよねぇ」

「当たり前でしょ。何を今更……」

 貴実子は呆れ気味に、ハァー、と溜め息を吐いて続けた。

「お父さんはね。家族のことを何よりも大切に思ってくれる人だったけれど、取り分けお義母(かあ)さんには格別な思いを寄せていたのよ。子供達を目に入れても痛くないって親御さんはごまんといるけど、お父さんは子供の私達より、お義母さんを一番に愛していたわよ。誰よりも」

 貴実子は諭すように続けた。

「お父さんはね。自分の骨はまず、お義母さんが拾うものだと思ってたのよ。それだけ、全幅の信頼を置いていたのよ。しかしこんなことになったでしょう。やり切れないのよ。やり切れないの」

 義母の遺影を持った貴実子は上半身を捻って、園美を見た。

「園美。いい機会だから教えておくわ。私達のお母さんね。生みの親。産後鬱だったそうなの。詳しい事情は聞いてないけれど、確か? あなたと幸枝を立て続けに産んでね。それで逃げ出したそうなの。離婚届だけ残して、私達置き去りにして。お父さんが帰宅した時には、もう、もぬけの殻だったんだって」

「…………」

「だからお父さん。亡くなったお義母さんに前のお母さんの像を、重ね合わせてたんじゃないかな。だから、和葉も増えて四姉妹の子供達より、お義母さんを何よりも思っていたのよ。絶対的な無償の愛を」

「…………」

「私、長女でしょ。だからあなた達より一番近くで父さん見てきたけれど。お父さん。子供達とお義母さん、天秤に掛けるような場面が仮にあったとしても、絶対お義母さんが一番だって、何となく言わなくても分かったものね。私感の推量だけれど。お義母さんには勝てないんだな。お父さんにとって一番の家族は義母さんなんだなって」

「…………」

「だから、ダメなのよね。もう堪んなくてね。お父さん見てると。可哀想で。あんたみたいに私、楽観的じゃないから。同調するしか出来ないのよ。一緒に泣くしか出来なくて」

 貴実子は涙を浮かべた。

「お姉ちゃん……」

 園美は何て声を掛けらたらいいか分からなかった。

「園美。ごめんね。ごめん。泣き虫なお姉ちゃんでごめん。けど、義母さん亡くなって。お父さんもあんな具合で。お姉ちゃん、一番の長女なのにね。しっかりしないと駄目なのにね。ごめんね。ごめん」

 貴実子は涙が(あふ)れ返った。遺影を隅にやり、園美の膝の上で泣いた。園美はどうしてみようもなかった。

 お父さん同様、窶れた姉の背中を摩って、ありったけ泣かせてやることぐらいしか園美には出来なかった。

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