第九話「裏切りの影」
迷宮を突破した田中一郎は、さらなる試練が待ち受ける場所へと足を踏み入れた。しかし、彼を待っていたのは、単なる挑戦ではなく、予想もしなかった裏切りの兆しだった。
田中とエリスが辿り着いたのは、古びた神殿のような場所だった。その広間には、無数の石柱が立ち並び、中央には大きな祭壇が置かれている。そこから漂う重い空気が、田中に緊張感を与えた。
「ここが最後の試練の舞台です。」エリスが静かに言う。
「最後の試練…?」田中はその言葉を呟きながら、祭壇に近づいていった。
「そう。この試練では、あなたの選択と信念が最も試されます。しかし、この試練には一つ、注意すべきことがあります。」エリスは厳しい表情で続けた。
「何だ?」
「この試練は、あなたの信頼している者が裏切る可能性を秘めている。」エリスの言葉に、田中は驚きと疑念を抱く。
「裏切り…?」
その瞬間、祭壇の上に光が現れ、異次元のような空間が広がり始めた。そして、その中から現れたのは、田中が最も信頼していた人物、エリス自身だった。だが、その姿は何か違和感を覚えるものだった。
「エリス…?」田中が声をかけると、エリスの顔に微笑みが浮かんだ。
「そう。私はエリス、あなたのサポート役としてここにいますが、実は…あなたの試練を見守る者ではないのです。」エリスの言葉に、田中の心が一気にざわついた。
「お前、俺を騙していたのか…?」
「そうです。」エリスの微笑みが次第に冷たく変わる。「私はあなたの力を試すため、あなたを導いてきました。しかし、試練の真実は違う。私は神に仕える者として、あなたを神の力に導く役目を担っていました。あなたが覚醒すれば、私にはもう必要がないのです。」
その言葉に、田中は言葉を失った。信じていた者が裏切り、彼にとって最も重要な人物が敵になったことを受け入れることはできなかった。
「でも、どうして…?」田中は震える声で問いかける。
「神の力は恐ろしいものです。それを持つ者には、真実を知る覚悟と、覚醒後の支配を試みる者たちが現れる。あなたが選ばれることで、あなたの力は世界を変えるかもしれません。だからこそ、私はあなたを導くことができた。しかし、今やあなたが私の役目を超え、神の力を持つ存在になれば、私は自分の役割を全うしなければならないのです。」エリスは冷徹な目で田中を見つめた。
「嘘だ…」田中は無意識に後退りながら言った。
「それが試練です。真実を知ることこそが、神に近づくこと。あなたが選ぶべき道は、もはや私が決めることではありません。」エリスの声が響く。
突然、周囲の空間が揺れ動き、田中の目の前に異形の影が現れた。それは、田中が過去に自分の恐れとして見ていた存在であり、エリスが示した裏切りの具現化だった。
「これは…試練だと?」田中は咄嗟にその影に立ち向かう準備をした。
「そう。」エリスは冷ややかに言う。「あなたが選ばれし者として、すべての真実を受け入れる覚悟を決めるか、もしくはその力を使って私を打ち倒すか。それが、あなたの最後の選択です。」
田中は握りしめた拳を強く震わせながら、前に進んだ。その背後で、エリスの冷徹な視線が彼を見守っている。
「俺は…俺は裏切られたって、負けない!」
その瞬間、田中の内なる力が爆発的に解放され、異形の影を粉砕する光が溢れた。光の中で、田中は何かを感じ取った。それは、神の力を使うための本当の覚悟だった。
エリスが再び姿を現し、静かに語りかけた。
「おめでとうございます。あなたがその試練を超えたことで、さらに神への道が開かれました。」
田中はその言葉を聞きながらも、心の中に確かな不安を抱えていた。これから先、誰が敵で、誰が味方なのか…その答えはまだ見えなかった。
次回予告:
田中は今後の試練において、さらなる選択を迫られる。しかし、次に待ち受けるのは、神そのものとの対峙。