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オンボロな『ほこら』を壊したらイケニエからリア充になりました

作者: 爆微風

 誰もが関心を持たず、誰も知らない(ほこら)


 公園の中央に、いつから存在するのかもわからない(ほこら)あった(・・・)


 不自然に手入れされてないままのその公園にはイビツな石積みの広場があって、ど真ん中にオンボロなソレ(・・)があった。


 過去形である。

 オレが壊してしまったからね。


 いやぁ、ちょっとムシャクシャしてたからなんだけど、落ちていたコーヒーの空缶(アキカン)を蹴っ飛ばしてしまったんだよね。

 それが当たっただけなのに、まさか(ほこら)の木組みが音もなく崩れてしまうとは思わなくて。


 そして── その(ほこら)こんなモノ(・・・・・)が封印されていたなんて。

 教えといてくれたって良かったんだよ、お爺ちゃん……。



「誰も入らない公園に向けてだったし、トドメ刺しただけだ。いつか大風でもあれば壊れていたハズなのに。なんでオレが公開処刑(イケニエ)にならなくちゃならないのさ……」



 近所であり通学路にある『公園』。

 なのに誰も入らないし話にのぼらない場所だ。

 昔からそう。

 視界にも入っていないのか、絶対に誰も近付かないし、何か開発されるという気配もない。


 この『(ほこら)』もそういうモノなのだろう。


 オレのお爺ちゃんが昔『幽霊(ゆうれい)は見えないがワシ神職でな、偉かったんじゃよ』などと言ってふざけながらに語っていたのを覚えている。



 この町の(ほこら)語ってはいけない(・・・・・・・・)



 ソレがどこにあるのか解らないというのに、だ。

 怖がらせたいんだろうかと思えば、全く真面目な言葉で、その後は無かった。

 さんざんフザケて(ウソ)ばかりだったくせに、コレだけは本当(ホントウ)だったなんて。


 ウソなら、良かったのに──。



「ニエになりたくないのなら、信仰を集めよ」


「それって他人の色恋沙汰に手を貸せとか、そーいう意味だろ。無理だ、陰キャ舐めんな」



 オレの横、学校一のクール系美少女で幼馴染みの『萬屋(よろずや) 有乃(あるの)』がすらりとしたスタイルを強調するようなポーズ…… どうやら遠く見える電気屋の店頭テレビに写ったモデルの真似をして立っていた。

 シンプルなブレザーだけに、彼女のスレンダーで整いまくった身体が強調されている。


 いや、現在の彼女の『中身(ナカミ)』は彼女ではない。



「いんきゃ…… 陰気な性格(キャラクター)か。ちゃんと(われ)と話せておるではないか。(われ)が制しているとはいえ、この身体の持ち主にも『意識がある』のは、理解しておるな?」


「いやだから、なんで幼馴染みとの仲を壊されなくちゃならないんだよ。ただでさえ、今は顔を合わせられないのに……」



 意識がある女の子に『取り憑いている』のは自称神様の『チル』だが、彼女(アルノ)憑依(ソレ)を許したワケじゃない。

 ちょっと始まりが特殊過ぎて、説明がめんど…… 難しいんだ。



 オレが(ほこら)を粉砕(無音)した。

 ↓

 ヒグマみたいな化け物、チルが飛び出してオレを呪い殺そうとした。

 ↓

 しかし、ちからが足りない。

 計画変更と小さく呟いたチルは、オレの願いを…… 自身が(つかさど)り請け負うのは『恋愛成就』だと言うので『恋を叶えてやろう』と言い出した。

 ↓

 オレは逃げ出した。

 しかし、回り込まれてしまった。

 ↓

 恋だなんて、失恋したばかりのオレの『地雷』だ。

 そんなの砕けたばっかりだ、と自虐的に言葉を吐いて…… そのスキに取り憑かれて、読み取られた。

 ↓

 失恋の『相手』も『状況』も知られてしまい、帰宅時間帯だったのでアルノは簡単に見付かって…… いかんまた吐きそう。

 ソレは置いといて、だ。


 オレの願いを叶えるコトが『信仰』に繋がるのだと言い張って、オレを操って探索して。

 見付けたら今度は彼女に取り憑いて公園まで連れて来やがった、という流れだった。



「だから『信仰を集め』、我がちからを…… 元のほどとは言わぬ、自由を利かせられる程度に増やせたならば、祠を粉砕した罪を問わぬ、と申しておるであろ?」


「オレはフラレたんだよ。気がないって言われたばかりだってのに」


「……言っていない、と申しておるが?」


「そんな、ハズはない」



 一昨日だ、幼馴染みと同じクラスだというだけで周囲からの視線が生温(なまあたた)かくて、細かく見られてしまっていたのに。

 その日あった『席替え』で隣になって、最近しゃべってもいなかったのにまるで、恋人みたいだと周囲からあおられて。


 アルノが……。



『ケースケ怖がりだから…… 恋人は無理じゃないかな』



 と評価(ひょうか)して、その後…… オレを……。



『◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯』



 その言葉(・・)を耳にしたオレはその場から逃げ出し、その日は休んだ。



「『貴様に気がある』のも間違いない。吾の儀式(ぎしき)の条件に合致している(・・・・・・)。キサマに(えん)があるからこそ、こうして(あやつ)るコトが叶っているのも証拠だな? 何にせよ、この有乃(あるの)とやらも我が『(たましい)(かさ)』は重かろう。(きし)み壊れぬとよいが」


「そんなの、全部ウソだ。だまされないぞ」


「この娘にウソなどないな。ホレホレ、さっさと告白せんか」


「それに、なんで他人を挟んでまた告白しなきゃならないんだよ。くっ…… 殺せ……」


「ふうむ、吾がおるのがいかんのか? だが娘はちゃんと聞くから、と言っておる。よしよし、では解放してやろう。だが、逃げ出すならば(たた)るぞ? いいな……?」



 アルノの声でそんな不穏な言葉を話さないで欲しい── 普段の彼女は目付きこそ鋭いが、完全にマイペースで行動力の権化なのにフワフワした女の子だから。


 現在地は公園の中だが、大通りに面しているんだ。

 通り過ぎるみんなはやはりこちらを意識もせず、視界に入っていないかのように振る舞っているとはいえ…… ココで告白とか『公開処刑』だよ。


 アルノは(にぶ)いのか、それともチルに騙されているのか……?



「……っ、はぁ。ケースケ。わたし、気がないなんて言った?」


「いや、誤魔化さなくていいよ、べつに……」


「言ってない言葉をわたしのせいにしないで。わたしは、ケースケのコト、キライじゃない」



 波打つさらさらロングヘアが、彼女の気迫を伝える。

 自由を取り戻したばかりのハズなのに、アルノはオレを見つめていた。

 いつも表情が動かないのに、頬を赤らめていて驚いた。



「わたしの言葉を『曲げないで』」


「アルノ……」



 言葉を曲げないで?

 彼女の言葉はオレにとって衝撃的過ぎたから、思い出すのもツラいんだけど。



「ケースケとの仲、壊すつもりなんてなかったし」



 真剣な目、興奮した頬、普段見ない彼女の表情に、それが(ウソ)でも悪戯(イタズラ)でもないと判断して、オレは記憶を引っ張り出した。


『オレとちゃんとお付き合いしてくれないか』


 そう告白したものの、返事は……。



『ケースケ怖がりだから…… 恋人は無理じゃないかな? ホントはキスするどきょー、ないクセに』



 無理、という拒否と忌避の混じるモノだった。

 彼女は知っていたんだ、オレが彼女に向けて好意を持っていたコト。

 そして、昔ではあるけど、寝ている彼女にキスしそうになったコトを。


 ソレはオレたちだけにわかる『暴露(ばくろ)』で、拒絶だ。


 元々が無口で口下手なアルノだからこそ、この発言は威力絶大で、周囲から慰めるようななんとも言えない視線が刺さる。

 だから逃げて、その後どうやって帰ったかの記憶はあやふやだった。


『ホントはキスするどきょー、ないクセに』


 思い返すと恥ずかしさと苦しさで吐きそう、だけど、アルノはその言葉でオレとの仲を壊すつもりなんてなかったと言った。

 なら、と思いきって確認する。



「あの時っ、暴露したんだよね? オレがアルノにキス、しそうになったコト」


「うん、でも、わたしはケースケのコト、好きだから」


「……! そ、そ、それは?」


「わたしからの告白、だよ? ケースケを追えなかったから、やりなおし」



 耳まで赤らめて── アルノは少しうつむいた。


『ケースケ怖がりだから…… 恋人は無理じゃないかな? ホントはキスするどきょー、ないクセに』


 その姿に、あのセリフが木霊(エコー)した。



「じゃあ、恋人は無理ってのは──?」


「? わたし以外のヒトじゃあきれられて、恋人は無理じゃないかな?」



 言葉が、足りなかったんだ。

 なんだ、そうか、そういや彼女は口下手だ。

 言葉足らずなんて日常なのに、緊張していてそれを失念していた。


 なら、その後もか?

 普段とは違う様子と口調なのは今と同じだ。



「そっ、か。いつもならケースケだけはちゃんと伝わるからってまたヌケヌケだったね、ゴメン」


「いや、こっちこそゴメン。めっちゃキンチョーしてたんだよ。じゃあ、『キスするどきょーないクセに』ってのも?」



 お互いに頭を下げ、詳しくと促した。



「ずっと前の冬休み、コタツで寝かけてた。並んでたケースケがもぞもぞするから少し目を開けたの。そしたらキスするような素振りしてて」


「す、ストップ、そこはいいから」



 オレは、だけど頬にすら触れなかった。



「言わせて。それからずっと、わたしはケースケを意識し続けてたんだよ。『長い方が好き』というから髪も伸ばしてたし…… ケースケ、わたしの髪の毛触るの好きだって言ったの覚えてる?」


「うん、もちろん、スベスベでキレイだって、思ったから……」



 小さい頃、普段からマイペースで飛び歩いて、気になったら突き進むばっかりで、女の子らしさがなかったアルノ。

 だけど、その黒髪は艶々で美しくて、オレが見とれたひとつだった。



「わたしなりに努力、してたよ。なのに、三年も待たせての言葉(コクハク)が教室で、なんて。わたし怒ってたんだよ?」


「そっ、か。『おこ』だったから」



 それが彼女が言葉少なくなった理由。

 まとめると、内心ではもうオッケーという気持ち、つまり。


『ホントはキスする度胸()ないクセに(こんな場所で告白?)』


 という反応だったのか。



「そしたらケースケ逃げちゃうし。友だちはみんな無口になるし。今は『言葉が足りなかった』と気づけたから説明しとく」


「もう説明はいらないよ」


「でもね、後悔してた、から…… 次にふたりきりになったら自分から告白と謝罪をするつもりだったよ。なのにケースケ、毎日逃げるんだもん」


「だって…… いや。ゴメン」



 またオレは謝るが、彼女は首を振っていいよ、と微笑む。

 そして肌が触れそうな距離まで近づくと、唇を耳元に寄せた。



「ケースケはずっと、わたしだけしか見てなかったからいいよ。いつもわたしだけに特別な視線だったから、スッゴク嬉しかったの。知らなかったでしょ……」



 そんなかわいい言葉を囁いた。



「そっ、ん、なの、当たり前だ……!」


「でも他の女子とわたしの差、自覚してないでしょ。目付きまで変わるんだよ? みんな分かりやすいって笑ってたの」


「えっ!? そんなに……?」


「ほらぁっ、気付いてない」



 だって昔からオレの一番なんだ。

 誰より好きだと胸を張って言える。


 アルノにフラレたと思い込んで、それでも好きだった。


 そこに残っていたのが異性感情としてなのか、愛玩動物的な何かなのかまでは判別できなかったけれど、可愛くて愛しくて、フラレてなお、誰のモノにもしたくなくて。


 オレは彼女と一緒に居られる時間が大切だった。


 無言で一緒に居るのが当たり前のようになっていたからこそ、フラレて感情はぐちゃぐちゃになったんだ。


 そこにまさかの両想い、そしてこんなにかわいい言葉をもらったら。


 自分でも体温が上昇しているのを自覚してる。

 囁かれた方の耳はたぶん真っ赤だろう。


 それを理解して、アルノが笑った。



「って、ケースケ、耳が真っ赤ぁ! わたしの声も好きなんだよね?」


「っ? おぼえてて、からかってるのか?」


「どう、かなぁ? んっふっふ……」


「オレは、アルノの声も、髪の毛のツヤツヤも、ほっとけないところも、笑顔も、ぜんぶ好きだから」


「……ケースケっ……」



 お互いに赤くなってるのにからかうもなにもないけど、だがオレたちはイロイロと忘れていた。



『話がまとまったようで何よりだの』


「……っと、そうだ。チル、様」


『無理に様なぞ付けずとも良い。(われ)はかなり満足しておる。おぬしらから立ち上る『信仰』の気配、かなりの美味であった』



 見上げた場所には、さっきまでの『ヒグマ』が消えていた。

 実は少し前から視界の端に見えてはいたんだが、大切な告白の最中に余所見(ヨソミ)なんてできないから。


 しかしそれは── クマのぬいぐるみにしか見えなかった。



「クマ(すけ)だ……!」



 それは、昔オレからアルノにプレゼントしたキーホルダー。

 お祭りの射的でゲットしたクマのマスコットに彼女が付けた名前だ。

 今も彼女の背負ったカバンの横、黒髪と共に揺れている。



『姿を借りた。どうだ、(あい)らしかろ? コレならば万が一、誰ぞに見られても矢で射られるコトはなかろうて』


「今は弓矢社会でも銃社会でもないんだけどな」



 外国の社会通念が混じってないか── チルはオレやアルノから知識をもらったそうだけれど、正直ちょっと不足気味じゃないだろうか。


 だけどアルノには効果的だったらしい。

 黒曜石みたいに光る瞳でチルを見て、拝むように手を合わせていた。



「チルさまのお陰でケースケに告白できました。ありがとうございます」


『うむうむ。その心や良し。おぬしら、これからも吾に尽くすが良いぞ』



 その言葉に、ふたりで見合せ、またチルを見上げた。



「これからも?」


『使命を与えたであろ。ちからを失った分、信仰を集めよと』



 確かに、憑依されていた最中にもそんなコトを語られたけど。



『答えは()のみだ。恋は成されたであろうが」



 そんな使命は受けられない。

 チルの言葉にオレはにらみつけ、だけど彼女に手を握られて驚いた。

 その柔らかさと熱に、金縛りにあったようだ。



「ケースケ、手伝お…… わたしたち、恩返ししなきゃ」


『うむうむ。良い心掛けだのぅ。アルノにはいずれ祝福を与えてやりたい』



 固まったオレとしてはちょっとうなずけないが『信仰』を集めろ、というのが『誰かの恋の手助け』というのが、なあ……。



『吾が自由を取り戻せたならば、祠を粉砕した罪を問わぬ、と申したであろ? 頬を桜色に染めたアルノのように、幸せな女子(おなご)を見守るだけよ。(いさか)いに割って入れなどは望まぬ』



 ウソだ── 取り憑かれた時、ゾワゾワとチルの意識が通り抜けて感じられた。

 その中には、世界を憎むような苛立ちもあったのだから。


 でも、アルノにこう願われて、傾いた頭を縦に振ってしまった。


 目を細めた笑顔のアルノには、ずっと敵わないままなんだから。



「わかったよ…… で、何人の恋を成立させたらいいんだ?」



 浮かんだぬいぐるみはまるっとした前足をアゴに当てて考える。

 爪もデフォルメされていて、まったく攻撃力と結び付きそうにない。


 あの(ほこら)が壊れた分というのはいったいどの程度になるのか。



『さてな。だいたい(・・・・)だが百組(・・)程度であろうか』


「ひゃ、ひゃく!?」


『二百人程度だ、喜ぶが良い! ぬしらの通う学舎には、その三倍は子供がおるであろう』



 いくらみんな青春真っ盛りだからって、まだ気持ちの通わないカップルなんてどれだけ居るのか?



「ごめんなさい、たぶんむり」


『……アルノがそう言うならば、半分で許してやろう』


「それでも五十組かよ、ムチャだぞ」


『ふ。為せば成る(・・・・・)っ、さあ明るい未来に邁進(まいしん)じゃあ!』



 手加減された神様のムチャに、彼女はまた微笑んだ。

 アルノの優しい笑みに、オレはやっとひと息つけた気がする。


 街の中は太陽のさよならメッセージで橙色(だいだいいろ)

 オレたちの長い影が並んでる、いつもの景色が嬉しくて。


 握ったままの手のひらが、とてもしあわせだった。



「一緒に帰ろ、まえみたく」


「ああ、ずっと一緒に、並んで帰りたかったんだ」



 あぁ、とてもしあわせだ。

 だから仕方ない、神様の縁結びを手伝うとしようか。






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