楽譜09.あるがまま
列車が走っている感じがする。あれ?いつの間に列車の中に居るんだろう。
部屋の窓から差し込まれる光に瞼が開く。
「あ、イロハ起きた」
ぼんやりと視界が徐々にクリアになっていき、目に入ったのは、空色の瞳だった。私は寝ていたのにテトラは平気そうで良かった。寝ていた状態をまずは、起き上がる。
「起きたよ、何で私寝ているの?」
起きて早々さっきまで、雪原に居たのに今は、自分の部屋。しかし、意識を失う前の不快な痛みはなかった。
「覚えてない?そっか初めてだったから」
「テトラ、毎回思うけど説明もう少し頂戴」
組織に入ってから、理解力は研ぎ澄ませているけど、説明がほしい。すると、テトラは私が何も知らない、ド新人だったことを思い出したようで、「あっ忘れてた」と小さく零す。
「ごめん、説明が足りなかった。イロハはオン源カタストロフィ巻き込まれたんだよ」
「巻き込まれたねぇ、オン源カタストロフィって何?」
やっぱホッカイドウで起きたから爆発のような、現象は偶然だったのか…あの時は耳鳴りはするわ、視界が回ったりと散々だった。
「そのことは俺が説明するよ〜」
このパターンに何か覚えがあったが、ここは綺麗にスルー。流れるように部屋に入ったのは、シナヴリアだった。
「リーダー、しーっだよ。イロハ起きたばかりで混乱しているよ」
テトラは人差し指を口の前に出し、静かにするように促した。しーってちっちゃい子のイメージがあるけど、テトラもやるんだ。と無駄な考えが巡る。やっぱりテトラは私よりも幼いのか?と思ってしまう。
「ごめん、ごめん、俺もちょーびっくりしてるからさっ」
「私もあの戦いでびっくりしたので、教えてくれると助かります」
「おっけー!イロハのために教えるよ、オン源カタストロフィは簡単に言うと、オン源の災害なんだ」
災害?今まで、大雪と大雨で災害の経験はあるけど、爆発のような災害なんて、今まで聴いたことない。記憶を巡るが、オン源カタストロフィにピンと来ない。
「そんな災害聞いたことないですよ?」
「そりゃあ普通の人に知られたら、大変だからね」
大変なの?災害って人の命に関わるから、情報源は大切だ。インターネットの情報が重宝される時代なのに、わざわざ規制する意味とは?だが、シナヴリアの回答は私の想像を覆した。
「オン源カタストロフィは人的な災害なんだ」
人的な災害、つまり自然災害ではない。かつて囁かれていた人工災害は架空とされていた。しかし、それが本当なら、恐ろしい。それが私の目の前で起こったことが信じられない。
「人的ですか、方法が知られるとテロ組織とかも動きそうですね」
「オン源カタストロフィは、機密情報だ。これを知っている人間は政府ぐらいだ。今回の原因は多分、イロハの曲と政府側の曲の影響だろうね」
私はあの時知らなかったけど、政府の人は皆オン源カタストロフィを知っていた。日付が浅かったとはいえ、何も知らなかった自分が今はただ、悔しい。この戦いは私はおんぶにだっこだった。
「あの時のイロハは相手の曲を聴いて、動きを読もうとしたでしょ」
「はい、それじゃないと勝てなかったので」
私の力はソナタには、及ばなかった。ギリギリの戦いだった。実力もコードも動きもだ。悔しさのあまり、布団を持つ手が強くなる。
「イロハもこの世界に入って、一夜だ悔しがることはないよ、謝るのは俺だ本当に申し訳なかった」
頭を下げる姿に私はシナヴリアの謝罪に心苦しくなった。何も知らなかったじゃダメなんだ。
「イロハの力を誤っていた。オン源カタストロフィは、コードの過度発動による、オン源生産で起こる現象だ。リーダーである俺の責任だ」
「シナヴリアさん謝らないで下さい」
そんな、悲しい顔をしてほしくない。狭い世界から連れ出してくれた組織には、感謝しかない。もちろん、今回の戦いで悔しい気持ちはある。それでも、私は今の時間の何倍も幸せなんだ。
「私はこの世界に入ったことを何も後悔してません。でも!負け続けるのは嫌なので、鍛えてください!」
あの戦いは途中中断した。ソナタの曲は全部聴いてない。今度は絶対全部の曲を聴くんだから。
「俺もまだ語り手の力が足りない。特訓したい」
私に賛同するようにテトラも特訓を申した。その気持ちに私は心が弾んだ。あの戦いで辛かったことが多い分。今はとても良い気分だ。
「おーけだ!二人とも意欲的なはおじさん頑張るよ!」
シナヴリアさんの表情は曇った表情は無くなった。親指を立て快く了解してくれた。にしても、おじさん?顔を見る限り若く見えるのだが、気のせいにしておこう。
「もちろんです。それと、最後まで曲奏でられなくて、ごめんねテトラ」
目覚めてから、直ぐに謝りたかったけど、タイミングを逃して今になった。ハプニングとはいえ、一生懸命創造してくれた曲を中断したんだ。謝って当然だ。
「大丈夫、俺もごめんイロハを危険な目に合わせた。今度は上手くやる」
「うん、一緒に頑張ろう」
これからまた頑張ろうという意味を込めて、テトラに手を差し出す。握手に迷っているテトラに私は、彼の手を包み込むような形をした。ひんやりとする手はなんだか、心地良かった。
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イロハたちが休息を取っているころ、政府の人間たちの戦闘機内では、空気が凍り付いていた。
「貴様、今なんと言った?」
「喜びの楽譜を逃がしました」
静かな怒りを見せているのは、戦闘機の隊長座に就く彼女。任務失敗の言葉を発したのは、イロハと戦闘したソナタだった。
「覚悟は出来ているな?」
決して、敗者は認めない。この厳格なルールが政府こそ絶対的な地位を確立している。肉が砕ける音が響き渡り、他の隊員は哀れな目でソナタを見つめる。
「…」
それは、リピの語り手も、ソナタを心配する様子が無く、殴られ続けている姿を見続ける。二人の関係は作り手、語り手であるはずが、何も深い関係を感じない。
「まぁ良い。貴様が騒ぎを起こしている間にこちらは、アネシスの楽譜を手に入れた。」
目的が遂行された後なので、、隊長は意識を失わない程度の制裁で終わらせた。
「隊ちょーう!次レーテと戦うなら、僕にやらせて」
大きく手を上げたのは、この場に似合わない雰囲気を持つ人物。しかし、他隊員とは違う。真っ赤な隊服と紅蓮色の髪色とツインテールの少年は、実力が高いことを示す。
「許可する。ソナタ貴様はレシタルの下につけ」
「承知しました」
ソナタはレシタルと呼ばれている少年の部下に大人しくなった。上官の命令。年下だろうと関係ない。
「やったー!ソナタが僕の部下になった!嬉しい!」
ぴょんぴょんと跳ねる姿は、嬉しさの表現。だが、忘れてはならない。政府は冷たい氷のような者と言うことに。