楽譜08.ノワール・ネージュ
イロハとソナタが雪原の戦闘を行っている頃、セレナーデとヘードネはオン源楽譜を探していた。目立った情報は無く、頼りなのはオン源を観測機のみだった。
「ねぇー楽譜ないのー」
「反応がねぇんだ、探すしかねぇだろが」
「ぶー雪飽きたー」
幼い子供に長時間の移動はやはり苦痛だったようで、ヘードネは座り込んでしまった。しかし、セレナーデには予想済みだった。
時間は正午丁度良い休憩を挟もう、目の前に丁度良い大木が転がっていた。木は二人が座れるぐらいの大きさだ。
「ちんちくりんそこに座れ」
「んー?あの木?」
「そうだ」
木に被っていた雪をはらう。雪の影響で木が少し湿っていた。その上に女児を座らせるわけには、いかないので、セレナーデはポケットからハンカチを取り出し、ひらりと木の上に置いた。
「ハンカチの上に座れ」
「セレナーデは?」
「俺は良い」
木に腰を掛けた二人は、疲れていた足を休める。雪の中の移動はやはり慣れない。男のセレナーデも疲れは溜まる。
腹は空いてはなかったが、食事をしなければ、夕方までの体力がもたない。
懐からパンを取り出し、一つをヘードネに与える。
「シュトーレンだ!」
「茶が欲しくなったらいえ」
「うん」
シュトーレンとはクリスマスなどで、当日までに少しずったべる菓子パン。保存性が高く、中身にはドライフルーツやナッツが入っており、ヘードネのお気に入りだ。
「あめぇ」
「甘いねぇ」
パクパクとシュトーレンを食べ進めるヘードネを横に、セレナーデは、甘くなった口の中を薄めるように、コップと一体になっている水筒に紅茶を注ぎ込む。
冷たい空気の中で、くっきりと白い煙がふわふわと上る。注がれた紅茶を一口飲み、ホッカイドウの空を見上げた。
「何でアイツなんだよ、テトラ」
やり場のない言葉をつぶやくが、もちろん何も返ってこない。
普段セレナーデはヘードネのことをちんちくりんと呼んでいる。
別に嫌いではない。語り手としての力は備わっているし、現にセレナーデは快楽の曲の作り手となった。仕方ない。シナヴリアの言う通りだ。しかし、現実が受け止められずに、ぼーっとしている時だった。
「セレナーデ!セレナーデ!」
「あん?」
通信機から、自分を呼ぶ声に耳を傾けると普段の冷静さがない。
シナヴリアの声だった。一体何なんだと、通信機に耳を当てた。
「なんだ?」
「セレナーデの近くで、膨大なオン源がある、多分イロハ達が戦闘をしてる!」
いつもおちゃらけれたシナヴリアが、そんなに声を荒げることか?と周りのものを片付けながら、話を聴く。
しかし、次に出された言葉が、まずかった。
「このままだと、オン源カタストロフィが発生する急いで向かってくれ!」
「…!了解」
オン源カタストロフィ、この言葉がどれほど重要なのか、セレナーデはもちろん知っている。このままでは、辺りの人間に大きな被害が及んでしまう。
「ちんちくりん、行くぞ」
「うん」
状況が悪い、オン源観測機を見ると、数分前は無反応だったが、画面上には黄色と黒のの背景で「オン源注意」と大きく表示ていた。
ヘードネを小脇で抱え、目的地まで走り出す。走るだ度に雪が舞い上がり、視界が見えづらくなる。
「‥!」
観測機械を開いている方の手を持つと、更にオン源注意報が、騒がしいアラートが鳴り響く。これは、ただごとではない。と考えたセレナーデはヘードネを一度下ろした。
懐から楽譜を取り出し、オン源ミュートを取り外す。オン源ミュートを取り出したことによって、抑えられていたオン源が解放される。
「ちんちくりんやるぞ」
「うん」
ヘードネはセレナーデの左手に伸ばし、セレナーデはヘードネの紅葉のような小さな手を握り返す。
「ヘードネー•アルモニア」
マーチングバンドをイメージする、華やかな曲、ラッパからドラムの音が響き渡る。眩い光の中に包まれた二人は、快楽のドレスコードに換装した。
「面倒かけさせやがって」
セレナーデのドレスコードは優しい光のような黄色の軍服。
背中を靡かせる真っ白のマントが、彼の強さを表してるようだ。
「セレナーデ!伏せて!」
「なんだぁ!」
ヘードネの彼への言葉に、感じたことのないオン源の気配にヘードネの警告通り、体制を床に伏せた。
伏せたのと同時に轟音が雪原一帯から、聴こえ反射的に耳を塞いだ。恐れていた最悪の事態が起こった。
「セレナーデこれって」
「オン源カタストロフィが起きたか」
最悪の事態。オン源は人々の生活の資源、生成方法も音楽があれば、得られる大変便利な資源だ。
しかし、オン源は不定期に災害のような、爆発の現象が起きる。それが、オン源カタストロフィなのだ。
「急ぐぞ!」
「うん!」
オン源カタストロフィは、まだ謎の多い現象。共通していることは、観測機が過剰なオン源が一気に生成され時に起こる。
先程のオン源カタストロフィによって、辺りの木々が薙ぎ倒され、瓦礫が散乱していた。瓦礫を掻い潜るようにセレナーデは中心地へ急ぐ。
「なんだよこれ」
オン源カタストロフィの中心地では、辛うじで立っているイロハ、真っ赤な制服を纏う政府の人間が、相対していた。
イロハは耳から血を流していた。セレナーデはイロハが急に組織の一員になったことが、気に食わなかった。しかし、語り手のテトラのためにも、助けるしなかった。
「喜びの楽譜ここで燃やし尽くす!」
二人の戦闘に横槍を入れる形で、政府の人間が入る。ここで、喜びの楽譜を失うのは、組織の損害が甚大だ。
セレナーデは足に力を入れて、全速力でイロハの元へ駆け寄る。セレナーデの武器は多彩な爆弾だ。
「ヘードネー・プロト」
ヘードネーから想像された曲、セレナーデの動きが、作り手と語り手の心が、ピッタリとパズルのピースのようにハマった。
ヘードネー・プロトは小型爆弾の集合体。一つ一つの威力は低いが、イロハを敵から避ける分には十分な威力だ。
「おい!生きてるか!」
爆発直後に敵から、離れイロハに呼びかけるが、何も応答がない。周りを見れば状況は最悪だった。
「そこをどけ!」
「邪魔すんな!」
一人を守っての戦闘は、相性が悪い。ここは逃げることに集中しよう。
相手の攻撃を交わしながら、逃げの道を交錯する。
避けては、追ってその繰り返しにいよいよ、うんざりし始めたセレナーデ。
語り手のヘードネはまだ幼い子供、いつ曲の想像が途切れてもおかしくない。
「シナヴリア早く来いや!」
我らシナヴリアが来たら、戦況が有利になる。本来セレナーデはワンマンで、楽譜の曲を奏でることを得意としている。他人を守りながら奏でる曲は彼にとって、窮屈な気分になっている。
幾度のコードを出し続けて、息が上がるセレナーデにヘードネも曲の創造が減っていく。
「疲れた〜」
「勝手にやめんな!ちんちくりん!」
「いや〜」
ヘードネの疲れも蓄積され、戦況が相手へ傾く。しかし、それは時間を大きく稼いだことを表す。
すると、森の中駆けるけるように派手な楽器がどんちゃんと鳴り響く、レーテの基地、ラッキートレインがセレナーデの前を通る。
「ごめん!遅れた!」
「遅いんだよ!」
「これでも、最速だから許して!」
謝罪と同時に現れたのは、我らのリーダーシナヴリアだった。やっと、終われる戦場にセレナーデは大きく息を吐いた。
汽車は汽笛を上げて、発車する。敵地から離れる列車は、政府の人間達を払うように前へ進んだ。
「で、楽譜はあったのかよ」
「いや、政府に取られた。楽譜の持ち主も俺が到着した時には、死んでいたよ」
今回の目的である、楽譜はやはりホッカイドウに存在していた。
しかし、シナヴリアが到着する頃には、政府に楽譜が渡っていた。完全敗北だ。
「多分、アイツがここに来なかったのも、目的の楽譜が、得られたからだろうね」
「んだよ、今の状況がマシでも、言いたいのか?」
「そうとも言えない、政府が今まで大人しかったが、急に活発化になった。大きな戦いもそう遠くない」
政府とレーテの戦い。今までの小競り合いとは、全く違う。現にこの短期間で、オン源カタストロフィや楽譜の観測。
シナヴリアは今後のことを考えながら、先頭車両へ歩き始めた。
本日も観ていただきありがとうございます。今回の戦いどうでしたか?私は凄く楽しめました。引き続き観ていただけますと、幸いです。