楽譜06.ハッピーハーモニー
ホッカイドウでオン源楽譜を探している私たちは、雪のような髪色を持つ青年、ソナタと出会った。
「それで、君たちは見ない顔だな、どこから来たんだ?」
「私はアイチからだよ」
「アイチか随分遠いところから…すまない」
話を遮るように古い機器から酷い音割れが聴こえ、思わず両手で耳を塞ぐ。
ソナタも慣れた様子で、機械のボタンをカチッと押す。機械の中で回転していた円盤の動きは、徐々に遅くなる。
「嫌な音を出してすまない。古い機械だから、許せ」
「大丈夫だよ、これで音楽の再生は止まったの?」
「あぁ止まったよ、この機械は初めて見るか?」
不思議そうに機械を見ていた私にソナタは、再生を止めた物とは別のボタンをカチッと押す。中身から薄くて、真ん中に穴の開いた円盤を取り出した。
「この円盤に曲のデータが入っている。この媒体で曲を再生しているんだ」
「信じられない。こんなペラペラの奴が?」
ソナタは私に円盤を手渡す。円盤の表面は真っ白で綺麗だ。
裏面は虹のように反射しているが、よーくみると、細かい傷が沢山あった。
「これってCDだっけ?」
シーディー?このペラペラな円盤をそう呼ぶのか?何かの略称かな、テトラは物事の知識が豊富そうだ。
「テトラは音楽の歴史好きか?」
「なんでだろう、ふと頭に思い浮かんだ」
なんとなくかい!テトラも顎に手を当て、何で分かったのか自分でも理解してなかった。テトラまだまだ掴めない。
「まぁ、歴史好きは知っている者が多いからな。数千年前は当たり前だったんだぞ?まぁ、これもオン源初期に出たものだから、年代物だがな」
「大事に使っているんだね」
CDと再生機械には、日焼けや所々細かい傷があった。でも、大きな破損が無く、ソナタが大事に使っていたことが、見てわかる。
「今じゃインターネットの方が便利だ。アナログの物は使い勝手悪いからな」
ソナタの言う通り、音楽はインターネットで検索すれば、出てくるから、ノイズがほとんどない。でも、私はソナタの気持ちがわかる気がする。
「使い勝手悪くても、それがいいんでしょ?私楽器屋の娘だから、手間とか大事に物を使いたい思い。わかるよ」
時代の流れに乗っても先人たちの物があるから、私たちが生きている。
アナログな楽器があったから今こうやって便利になったのだから‥
「それも、そうかイロハは褒め上手だな」
「もっと、褒めてもいいよ?」
茶化すようにソナタを見るが、彼の紫色の瞳は冷たく、射抜くような雰囲気に変貌した。この目は昨日さんざん見た。
奪い取る者の瞳。
私はすぐにテトラの手首を掴み、雪の中を駆け抜ける。走るたびに細かい雪が肌にあたり、ひんやりと冷たい。しかし、考えている時間はない。
「君たちと話せないのが、とても残念だ。目標確認」
走っている最中、後ろを振り向くと、ソナタの手には通信機が握られていた。もっと、ソナタを見ていればよかった。話の馬が合って、完全に油断していた。私の失態だ。
「君たちのことは、隊長から聞いていた。お引き出すのは、簡単だったよ」
「音楽好きなのは、嘘だったのね」
私たちの前は、政府の人間を取り囲む。多勢に無勢。不利な状況を話している間に持ち込まれた。正に袋の中のねずみだ。
「どうだろうな、リピおいで」
「はい。ソナタ様」
茂みの中から現れたのは、同じく真っ赤な隊服を着用した女性。長い灰色の髪色に毛先がパッツンと切り揃えられていた。 帽子が深く被られており、表情は見えないが、とても暗い印象だ。
「君たちの一対一の戦いを望む。多勢に無勢は格好が悪い」
「案外真面目くん?私は都合がいいけど」
「舐めた口だな」
「言ってな、テトラ行ける?」
「いつでも」
懐に隠していた楽譜を引き出し、オン源ミュートを外す。悪魔の封印が解かれるように、楽譜から無数の音符が溢れ出す。テトラの手を重ね重ね合わせる。
「「ハラ・アルモニア」」
眩う光が私たちを包み込みこむ。制服から、純白の隊服へ服装した。その姿は私達の相棒的存在を示す。
『イロハたちが換装した姿は、ドレスコード。二人が相棒的存在を示す格好だよ』
『なるほど、ドレスコードは他に何ができるんですか?』
『コードだ。曲が始まれば分かるよ』
って昨晩あまり説明がなかったけど、やるしかない。コードはまだわからないけど、始まった戦いは簡単に止められない。
「ドレスコードは纏えるようだな、こちらも行くとしよう。リピ!」
「はい」
やっぱり、この二人も楽譜を持っているよね。ソナタも楽譜を取り出し、オン源ミュートを外した。パイプオルガンの音が重く、力強い音が響いた。聴くだけで神に祈るように膝をついてしまいそうだ。
「「リピ・アルモニア」」
二人は抱き合い、光の中に包まれる。音楽も悲しい雰囲気だが、聴き惚れてしまう。
「さぁ、やろうか」
光が晴れた頃、隣に居た彼女の姿はなかった。ソナタはこの曲にふさわしいドレスコードだ。真っ黒な服と靴はヒラヒラのフリルがあしらわれていた。ソナタはこれが自分の姿だ!と大きく胸を張っているように見えた。
「イロハ早く!」
突然テトラが声を上げて、逃げるように伝えた瞬間。身体を横へ飛び込む。普通の地面なら、痛みがある。しかし、地面が雪なので、丁度良いクッションだ。
「避けられたか」
早い拳銃の扱いだ。構えてから打つまでが見えなかった。私はすぐさまサーベルを構え直して、ソナタへ剣を振りかざす。しかし、攻撃は呆気なく避けた。これじゃあ、体制を立て直せない。間に合わない!
「うっ!」
ソナタの素早い蹴りが私のサーベルを薙ぎ払う。サーベルを拾いたいのに銃撃で妨害妨害される。銃の射程距離から一旦離れなけば、マズイ。
「イロハ!イロハ!」
「…!テトラ何」
テトラの必死な呼びかけで、頭の中が真っ白になった。何も考えてない頭の中へ入り込むように、曲が聴こえてきた。想像よりも大分焦っていた。テトラがずっと、曲を創造してくれたのに聴いてなかった。
「大丈夫?イロハ」
「ごめん、焦って何も聞こえなかった。ずっと、私に曲を届けてくれたんだよね?」
「全然聴いてくれなかったけど」
「今度はちゃんと聴く」
足取りは軽くなってきた。曲に合わせるように身体を動かす。前はとんとん拍子で上手に出来た。けど、楽譜を持つ者同士だ。レベルが違いすぎる。
『ソナタは私よりも戦いに慣れている。』
緊張して何も出来なくなるのは良くあること、まずは落ち着かないとならない。テトラには、申し訳ないことをした。シナヴリアさんも言っていただろう。
『耳をすませるのよ、イロハ…』
大好きなヴァイオリンの高音の音色。バックに聞こえるのは、ドラムのリズム。昨日身体が勝手に動いたのは、私が曲を楽しんでいたから、怖さも何も感じなかったからだ!踊れ!楽譜の上の演奏を!
「「ハラ•プロト」
『コードは曲、作り手、語り手の心がピッタリと、合わないとできない。言うならば、必殺技だ』
コードは言葉だけじゃ到底理解できない。けど、実際に今実行出来てわかった。シナヴリアさんが明確に説明をしなかった理由は、この高揚感を直接得るためだ。
曲には自然の音も入っている。ピンチな状況でもやっぱり、楽しい。道中に落ちているサーベルを拾い上げる。
さて、ここからだ。やられっぱなしは、私は気に食わない。
観ていただきありがとうございます。明日も更新します。