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自由の楽譜 〜音を禁じられた時代に〜  作者: 如月
第1章:喜びの楽譜編
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楽譜05.ウェルカム・トゥ・ザ

 レーテの一員となり早一夜。列車は目的地へと走っていた。朝日が窓に差し、眩しさのあまり目を細めててしまう。


「おはようイロハ、制服似合ってるね」


 車両の扉が静かに開くと、昨晩から見かけなかったテトラが挨拶を交わす。そう、私は昨晩レーテの所属の制服を渡された。今の時代服を作るのは、ちょいちょいのちょいの様だ。


 ジャケット部分は共通の紺色。だが、ボトムスはパンツ部分は人によってバラバラだ。ちなみに私は膝下までの丈のショートパンツ。靴はロングブーツだ。


「おはようテトラ、ありがとう。そういえばテトラ昨日いなかったけど何かあったの?」


「ごめん、汽車に乗ったら眠くなった」


「別に大丈夫だよ、これってどこに向かっているの?」


 昨晩から移動している汽車の目的地がわからずに乗り込んだので、景色だけじゃ何もわからない。すると、テトラは運転席のパネルを指でスライドして操作をする。


「この方向だと、ホッカイドウだね」


 これまた、アイチから随分離れた場所だ。ホッカイドウと言ったら、寒い!そのイメージが強い。アイチから離れることがなかったから、なんだか新鮮な気分だ。


「気温マイナスじゃん!」


「そう!ホッカイドウだから防寒対策してね~」


「うわぁ!?シナヴリアさん急に驚かせないでください」


 音もなく現れたのは、シナヴリアさんだった。隣にはシンフォニアさんも居るが、彼の行動に呆れた様子で見ている。


「イロハ、おはよう」


「ヘードネおはよう。沢山眠れた?」


「うん」


 大きく首を振ってうなずく、ヘードネの姿に心臓がぎゅっとなった。これは正に尊いという感情。アイチには小さな子供が全くいなかったから、この純粋無垢な返事は心に来る。彼女との距離が一気に縮んだ気がする。


「…」


 ヘードネとは反対にセレナーデさんは黙ったまま、共有スペースのソファにドカッと座った。昨日の件で彼のことを何も知らない。近いうちに話す事を計画しようと、考えを切り替えた。


『気温マイナス越えしてる…絶対に寒い!』


 車内に浮かびあがっているパネルの情報を見ると、外気温、現在位置などの情報が表示されていた。これは外を出る時は覚悟をしなければならない。昨日まで、長そで一枚で十分だったのにいきなり真冬、寒暖差でバグってしまいそうだ。


「なぜ目的地はホッカイドウなんですか?」


「楽譜のオン源反応が観測されたからね、昨晩一瞬だけでてそれから、音沙汰なかったから、ゆっくり移動してたんだ」


 今の時代、移動手段なんてどれも数時間で完了する。アイチからホッカイドウもあっという間だが、楽譜を探すための作戦なら、理由がわかった。


「イロハこれ渡しておくよ、楽譜持ち歩くときは、これを付けておきな」


「これは?クリップ?」


 渡されたのは、紙を挟むようなクリップだ。装飾がやたら豪華だ。楽譜にわざわざつける意味は、あるのだろうか?と疑問に思うと、シナヴリアさんは爆弾発言を投下する。


「オン源ミュートだよ、イロハの楽譜オン源ダダ漏れだからね、楽譜に挟めば、オン源が遮られる。ミュートなしで外歩いたら、政府に即バレで殺されるから気をつけてね」


「そういうを早く言ってくださいよ!」


「今言ったからいいじゃん」


 そうじゃない。ここにきてから人の第一印象が崩れ落ちている。

 この人をイケメンさんと思っていたのは、間違いだった。


「シンフォニア、目的地は近い?」


「はい。まもなく到着します」


「オーケーじゃあの麓にしよう」


 この大きな汽車は、目的地のどこに置くのだろう?私たちは犯罪者だし、政府に姿を隠す必要がある。どう対策をするのだろう?と腕を組み悩む。


「イロハ汽車は隠せるから大丈夫だよ」


「エスパーか」


 思わずツッコんだ。テトラってイマイチ掴めないんだよね。ミステリアス?ではないな。音楽大好き少年だし?会って間もないから、これから知っていけば良いか。と考えを頭の片隅に置いた。


「人間って難しいなー」


「イロハも人間じゃないの?」


「やめよ、やめよなんでも無いから」


 うん、やっぱり掴み切れない。印象の違いのギャップに風邪をひきそうだ。

 テトラのミニ漫才に幕を閉じさせて、汽車は緩やかに降下する。

 空から見えるほどの銀色の世界が広がっている。雪まみれだ。


 ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー


「さて、オン源楽譜が政府に取られる前に俺たちが、楽譜の持ち主に会いに行こっか」


 目的地のホッカイドウに到着した。どうやら今降りた場所がオン源楽譜の反応が近かったようだ。それにして、寒すぎる。防寒対策でマフラーを首に巻いているけど、寒くて仕方ない。手はかじかみ、吐く息は白い。


「ゆき~ゆき~」


「手冷たくなるぞ、ちんちくりん」


「ん?」


 セレナーデは理不尽に怒るような人間ではないことは昨日の件で知った。現にヘードネの冷たい手に自分の手を重ねて、温めている。音楽好きだから、沢山話したいが、今はオン源楽譜を探すことが優先だ。


「今日の18時に汽車前に集合しよう。何かあったらすぐに連絡。いいね」


 解散とパンと手を叩き別行動を開始。私はテトラと一緒にオン源楽譜を探し始める。一面雪で溢れており、人の影がない。これは探すのに苦労しそうだ。


「テトラはホッカイドウ行ったことあるの?」


「何度かあるよ、法律ができる前は、民謡音楽が沢山聞けたけど、今はないから残念」


 雪の上をサクサクと歩きながら、テトラは今の音楽社会を残念そうに語っていた。確かに私もいろんな世界の音楽が聴けないのは残念だ。でも、それを変えるための組織だ。それに…


「でも、ホッカイドウの雪の量はすごいね、雪を踏んでいる音がなんだか楽しい」


「楽しいの?」


「アイチじゃそもそも雪はこんなに多く降らないし、私は初めてだよ、例えるなら…綿あめの上にみたい!ふわふわした音が入ってくるでしょ」


 音楽が無くても、耳に入る音を創造するだけでも楽しい。勿論楽器や歌が揃えば文句なし。でも、環境音も立派な音楽になりえるだろう。


「イロハは面白いね」


「そう?色々制限された世の中だから、なんでも、音楽こじつけるのが、普通だったからかも」


 手がかじかんで息を手に当てる。少しは寒さがしのげるけど、慣れてない私には少しキツイ。テトラは顔色を変えてないし。

 色んな所を私以上に旅をしたから慣れているのかな?と勝手な妄想する。 次の瞬間、今の時代には、ありえないほどのガサガサと、ノイズが入り混じった音が響いた。


「♪~」


 誰かが歌っている。音楽はもしかして、データで保存されたものだろうか?電子機器で保存された音は本体の状態が悪いと、音質が悪くなる。それにしても、綺麗で透き通る歌声だ。


「誰か歌っている!行こうイロハ!」


「どこに行くのよー」


 またこれだ。テトラの音楽は一直線は一日も経ってないのに少しは、慣れた。

 雪の上で走るのは、案外体力を使う。平らな地面とは違う。

 こんもりと積もった雪の上で走ると、足取りが重い。


「歌っているのはあの人か」


 雪道をひたすらに走り抜けると、真っ赤な軍服に身を包んだ青年が歌声を響かせていた。歳は私よりも上で雪国にふさわしい真っ白な、髪色がキラキラと輝いている地面には古びた電子機器。そこからノイズ交じりの音楽が流れている。


 木々に隠れながら、青年をじーっと観察する。もし、敵対関係の人だったら大変だ。テトラにも考えている内容を伝えようとした。しかし、横を見るとテトラの姿がなかった。


 時すでに遅し。


「ねぇ!それ君が作った歌?」


 バカ!嘘でしょ?えーっ本当に私よりもメンバー歴長いよね!?目を離した瞬間、テトラは青年に話しかけていた。急いで私もテトラの元へ走り出す。


「いや、これは国が作ったものだ」


「初めて聴いたなんて曲なの?」


 テトラよ初対面なのにぐいぐいと行くね。音楽が結びついているとすごい行動力。昨日政府さんを軽く銃で眠らせたのは、音楽のため?すごいよテトラ。テトラの行動力に私が考えていることを知らず、青年と会話を楽しんでいた。


「ちょっと、急に走らないでよ!」


「あ、ごめん」


「別にいいけど」


 謝ったから許す。顔も本当に私のことを忘れていたようだし、今度から気を付けよう。さて、青年さんに私たちのことを離さないと。


「急にごめんなさい。この子が貴方の歌声が良くてね」


「そうか、褒められるのは少し照る」


「本当に綺麗だったよ」


 私たちの言葉に青年はまるで、私たちを珍しいものを見たように目を見開き驚いた表情をする。


「なに?そんなに珍しかった?」


「いや、すまない。今の時代音楽で褒めるなんてマイナーだからな」


「確かにそうかも」


 学校の皆も音楽は授業の一環としか思ってなかったし、仕事も政府の固いイメージだからそう考えても仕方ないか。一般人の感覚をすっかり忘れていた。


「名前を教えてもらっても」


「私はイロハこっちは、テトラえーと」


「ソナタだ。よろしくイロハ、テトラ」


 柔らかく笑みを浮かべた青年。ソナタは私たちに手を差し出した。互いに握手をし合う。手は冷たいが、心は優しく温かい。

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