楽譜42.旅路 カルイザワの出会い2
シナヴリアさんにことの次第を伝えた後、私は痛む身体を必死に動かしていた。正直立っているだけで倒れそうだ。
「イロハ歩ける?」
「なんとか、シナヴリアさん達には、連絡したから大丈夫だと思うけど」
痛みを感じるたびに、私は自分の弱さを呪った。でも、ここで倒れては誰も救えない。その思いだけが、私を動かしていた。
音楽を愛する人を私は、守りたい。自分勝手が良すぎる。それでも、自分一人で未来の音楽文化が広がるなら、私はどうだって良い。
「皆なら大丈夫、まずは俺たちが出来ることをしよう
「そうだね、会場の人たちが心配だから急ごう」
壁を伝って一歩、一歩踏み出す。すると、静寂な廊下から、この状況に似合わない、とても心が穏やかな演奏が響いた。
「この曲って」
「[旅路・カルイザワの出会い]だよ、カルイザワに住んでいる人なら、一度は演奏したことのある曲だよ」
初めて聴く曲だ。曲名をイメージするように緑溢れるカルイザワにピッタリな演奏だ。
「素敵な曲ね、この状況じゃなかったら、ゆっくり聴きたいぐらい」
「そうだね、俺も聴きたかった」
演奏が続く中、城内が上下に揺れ始める。地震のようにカタカタと揺れてた。音の根源は、演奏が聞こえる場所だ。
「また揺れている」
「演奏が聞こえてる!皆あの中に閉じ込められているんだ」
急ぎたいのに身体が、思うように動かない。何やってんの!こういう時に動かないで、私は何のために来たの!
自分の身体が動かない苛立ちで、沸々と溢れる中、通信機から私を呼ぶ声が聞こえた。
「イロハ!イロハ」
通信機の相手はヘードネだった。曲の根源は、舞踏会の会場のようだ。なぜ演奏をしているのか、その理由は城の仕掛けを解除するためらしい。
「ディアリマとセレナーデさん達が、解除しているんだね」
「だから、大丈夫」
ヘードネの声色から、心配するような事はない。しかし、爆発の影響でいつ城が燃え広がるのも時間の問題だ。
「火元が近づいてる…私達は消防隊とか呼んでいるからね!」
私達にもやれる事をやろう。仮に仕掛けを解除したとしても、城から脱出できるとは限らない。まずは被害を最小限に減らす行動だ。
「外へ行こうテトラ」
必ず城から脱出してくれるとディアリマ達を信じて、私はまた足を動かす。
ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー
仕掛け解除のために演奏と踊りが始まって、早数秒後、ここまでなんと私とセレナーデさんは一度もミスがない。
先程までドタバタと動かしていた身体は、演奏があるだけで、今は嘘のように軽やかに踊れているのだ。
『なんて楽しいの』
故郷の曲に合わせて踊るのが、こんなにも楽しいなんて、思いもしなかった。何処で足を動かせば良いか、全て分かるわ。
「この場にいる人が、私達の背中を押しているように感じるわ」
演奏している人の顔をチラリと見ると、全員が頬を緩ませて、楽器を弾いていた。それはいつかを思い出しているように見えた。
コンクールのような緊張感は無く、会場にいる人々の表情が柔らかくなり、手を取り合う姿が見られた。まるで曲が心を繋いでいるかのようだった。
『タイミングもピッタリ』
部屋を回転する歯車も、音楽に合わせている。演奏の一部のように組み込まれている。この城を作った人は、カルイザワを心から愛しているからだわ。
『皆の心を一体にしないと、動かないしろ』
こんなに素晴らしい物が、隠れていたなんて、私もまだまだ知らない世界が多いわ。
街を出て行く人も、残る人も生まれは皆一緒。この曲があれば必ず、故郷を思い出せるから、音楽はやっぱり自由じゃないと!
『私はこの街の人の自由な音楽を守るため、自分のために戦う』
そして、仕掛けが正常に作動し始めて、緩やかに部屋は動き始める。カタカタと歯車の動きに合わせて、くるりと私も回転する。
『外の景色が見えてきたわ』
閉じ込められた空間から、部屋の動きによって、外の景色が見えてきた。会場の人たちも窓からの景色に安堵していた。最後の踊りも気を抜かずに丁寧に、足、手、身体を動かす。
ガタンと大きな音が鳴り響いた時、部屋の回転は終わった。曲の演奏もぴったりと終わった。




