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自由の楽譜 〜音を禁じられた時代に〜  作者: 如月
第3章:友愛の楽譜編
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楽譜41.旅路 カルイザワの出会い

「あぁ、君達踊りをずっと見ていた。踊りに感情が乗っていて素晴らしい。お願いしたいんだ」


「しかし、私はこの場の人間の思いを背負うことになります」


 確かに私は、踊りには自信がある方だ。でも荷が重すぎる。もし、失敗してしまったらどうなるのか、想像できる。


「君は何故自信を持たない」


 レシタルさんの真っすぐな瞳が私を捉える。逃がすつもりはない。絶対に踊らせると語っているようだ。


「踊りは身体で表現する。心の動きは反映されるものだ」


 踊りは正確な振り付けが大事だ。でも、私の中で踊りとは見ている人に気持ちをどれだけ伝えられるのかだ。


「君は心から踊りを楽しんでいる。私は君に頼みたいんだ」


 レシタルさんからの頼み。それがこの危機的状況の中で選んでくれたのは分かっているんだ。でも、後一歩が踏み出せない。怖くて仕方ない。


 これをレーテに所属する前に覚悟していたのに、私は!出来ない。悔しさのあまり奥歯をぎゅっと噛みしめた時だった。


「大丈夫だ、失敗しても私は君を責めたりしない絶対だ」


 私の手を取ったレシタルさんは、緊張で冷え切った手を温める。ほのかな温かさが私の怖さを徐々に消していく。


「ありがとうございます。レシタル様踊らせてください!」


 怖くて仕方ない。こんなにも楽しかった時間を一気に恐怖へ変えた政府を許せない。負けらない。私の持っているものを全部出してやるんだから!


「ありがとう、セレナーデは踊れそうか」


「やらなきゃ、事態収集しねぇだろが」


 流石セレナーデさん。この場でも堂々としている姿を私にも分けて欲しい。


「ディアリマすまないね、大きな役割を与えてしまって」


「いいえ、私は踊りが取柄なので」


 この事態は誰も悪くない。脱出するために誰かが踊りをするのは、絶対に必要だ。それが私の役割になったのだから、必ず成功してみせるわ。


「さっきから、カタカタと床がへこんでいるから、何か法則性があるのは間違い無いんだけどね。オルガノ分からないの?」


「すみません。私が分かるのは部屋の仕掛けのみです」


 城の構造を知っているオルガノさんでさえ、細部の仕掛けまでは知らなかったのは痛い。仕方ない。床の仕掛けを見て覚えるしかないわ。


「約3分で一周のようだな」


 約3分後、一通りの仕掛けを見終えた。終わりの節目は3分経過後、30秒置いた後に床の仕掛けが再開されるからだ。


「どうだ踊れそうか?」


「正直難しいです。踊りは音楽に合わせています。しかし、今あるのは床の仕掛けが作動する、音しかありません」


 私の場合曲から、振り付けのイメージを固めているが、今回は曲が無い状態の踊り。動きがなんとなく分かっても、脱出の条件である正確な踊りが難しい。


「なるほど、音楽が無いのか」


「レシタル。仕掛けには分かりやすい床の仕掛けや音がある。これも意味があるんじゃないか?」


 確かに脱出の構造を難解にするなら、暗号にして難しくしている。だが、仕掛けには目に見える構造や音もある。ヒントが散りばめられている。


「なんか、聞いたことがあるんだよな」


「俺も思った」


「でも、思い出せないのよ」


 会場の人達も床の仕掛けの音を聴いて、頭を悩ませていた。私もこの音の法則性に聞き覚えがあった。それを思い出せずにいた。もしかすると大きなヒントなのかもしれない。


「会場の人間は思い当たる節があるみたいだな。でも俺たちには何も心当たりがない。レシタルとオルガノは?」


「すまん私達は心当たりがない」


 あれ?レシタルさん達の会社ってカルイザワの会社だったわ。会場の皆は床の仕掛けの音に疑問を持っているのにレシタルさんは、そうではなかったの?


「レシタルさんたちは、生まれはカルイザワじゃないのですか?」


「私たちは元々トウキョウ生まれだ。城を買い取ってからは、カルイザワに住んでいる」


 そういうことね。この場に関係ない質問をしてしまった。踊りは難しいがまずは挑戦しないと何も変わらないわ。ささっと踊りましょう。


「まずは踊ってみます。セレナーデさんお願いします。」


 セレナーデさんと共に踊りをしたが、勿論出来なかった。私のミスが遥かに多いが、セレナーデさんも数回、床を踏むタイミングが早かったり、遅い時があった。


「やっぱり駄目ね」


「大丈夫だ。挑戦は何度も出来る」


 一回目の踊りが終了して、いつも以上にどっと疲れが溜まった。曲に合わせないだけで踊りがこんなにも難しいとは、思わなかったわ。


「お母さん疲れた!」


「静かにしなさい!」


「だってつまらないもん」


 子供の高い声が会場に響き渡り、視線を向けると子供が退屈そうに声を上げていた。母親はその子供を必死に宥めていた。


「仕方ないでしょう?」


 母親の声は子供に響かず、ひたすら「つまらない」と声を上げる。ほんとうだったら、舞踏会をしているのだ。仕方ないことなのに、子供の事を考えると心が傷んでしまう。


「大丈夫か?」


「すみません。レシタル様」


 会場端に向かっていたレシタルさんは、親子を心配していた。騒がしくしてしまった親子は頭を下げて謝罪していた。


「気にするな。申し訳ないな少年、詫びとして好きな曲を弾くぞ」


「じゃぁあの[旅路・カルイザワの出会い]弾いてよ!」


「あの曲かいいぞ今から弾くからな」


 レシタルさんは、会場の人達を不安にさせないために、自ら進んで動いている。それが例え子供だろうと、優しく接している姿は、圧倒的信頼感がそこにある。


「~♪」


 レシタルさんは、ピアノの演奏は、疲れ切った身体を癒しているようだ。懐かしいわ。小学生なら一度は演奏したことのある曲ね。


「懐かしいわ」


「演奏コンクールの定番だったのよね」


 会場の人たちも、かつての思い出に会話を弾ませていた。演奏の音と床の仕掛けの音が偶然重なった時だった。


 記憶の底にあった物が、掘り起こされた。思い出せそうで、思い出せなかった。それは遠くの記憶だったからだ。


「レシタル様」


 演奏が終わった後、私はレシタル様の元へ駆け寄った。床の仕掛けの曲の正体が分かった。


「何か分かったのか?」


「この床の仕掛けは[旅路・カルイザワの出会い]に合わせているのです」


 私以外のレーテのメンバーやレシタルさんたちが、床の仕掛けの音に疑問に思わなかった理由は、小学校で習う演奏曲[旅路・カルイザワの出会い]を習わないからだ。


「[旅路・カルイザワの出会い]は必ず一度は演奏経験があります。それは、親子世代にわたって習う曲です」


 城の脱出の仕掛けに[旅路・軽井の出会い]を採用した理由は、カルイザワ市民だけの暗号。外部からでも読み解ける暗号にしなかったのだろう。


 これさえ、分かれば後はこっちの物だわ!


いつも観ていただきありがとうございます!3章もクライマックスです。応援してくれますと嬉しいです!

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