楽譜04.ノイジー・イクスプレイン
「新しいメンバー、イロハに俺たちの組織を説明しちゃうよ!」
「わ〜」
ドンドン、パフパフと華やかな音をお供に始まった説明会。シナヴリアさんがいつのまにか出した、ドンドンぱふぱふで有名な、パフパフラッパを吹き鳴らしていた。
一方ヘードネも、同様に楽器を手に持ち、ドンドンと太鼓を何度も叩いていた。
「イロハさんリーダーのノリなので、慣れてくださいね」
「は、はい?」
シンフォニアさんは、呆れた様子でため息を吐き、パネルで[autopilot]に切り替えると、運転は手動から機械へ切り替わる。
「今日無視しなかったね、子供の気分はやっぱわからんねぇ」
「リーダー無視って何?」
「今は知らなくていいよ〜」
ニコニコと笑いながら、ヘードネはソファへ座る。床につかない足をプラプラとして、暇を持て余す。一方のセレナーデさんは、不機嫌そうに足を組んで座っていた。
目の間には、液晶パネル、シナヴリアさんの手にはペン。向かい合っている私たちは、学校の授業のような感覚だ。
「さて、俺たちが国の法に触れる犯罪をしているのか、その理由は、自由の楽譜を求めるためなんだ」
自由の楽譜、その名前が特別に思えた。これが政府に牙を向ける理由なのだろう。
「ハラの楽譜も関係あるんでしょうか?」
ポツリと溢すと、先程まで、静かにしていたセレナーデは突然ソファからバッと立ち上がった。
「はぁ?コイツがハラの楽譜の作り手か!?」
ルビー色の瞳が獲物を狩る狼のようにギロリと私を睨みつける。思わず視線を横へ逸らすと、小さく舌を打たれた。
「テトラが認めたんだ間違いない」
「…ありえねぇだろ!」
「セレナーデ、認めたくないけどテトラが、この子を選んだんだ。君はヘードネーの曲の作り手だろう?」
机を拳で叩き、不快になる音が響いた。私とヘードネは肩をビクッとあげたが、シナヴリアさんは想定済みのようだ。だか、反感するようにセレナーデさんは、扉へ歩き出してしまった。
「ちげぇよ!俺はちんちくりんの作り手じゃねぇ!」
「あ〜セレナーデまって〜」
彼を追うようにヘードネも追う。なぜセレナーデさんが私のことを気に食わないのだろう。二人が退出した先頭車両に静寂が響く。
「二人のことは、追々話すね、さっきも言ったけどイロハの楽譜は、とても重要だ」
「ただの楽譜ですよ?」
「それでも、鍵なんだ。自由の楽譜は、願いが叶う、神の曲、諸説は多い」
「すごいスケールですね、今更ですが」
楽譜が鍵、それなら私は、とんでもないものを、書いてしまったかもしれない。自分の好きを詰めた音が魔法のような、存在になるなんて思いもしなかった。その理由なら、政府が追うことも納得した。
「案外冷静じゃん、イロハ」
「そりゃあ、私が作った曲がが、すごいんだって、嬉しいって感じちゃいますよ」
不謹慎だと思うけど、曲の価値は自分では測れない。他者が聴いてやっと、評価に繋がる。それが、どんなものであろうと、覆せないから、悪いことでも喜ぶ。
「意欲が高いのは俺も嬉しい。じゃあここでクエッション、今日テトラがイロハの事を何て呼んだか、覚えてる?」
テトラが言ってた事、顎に手を当てて出来事を思い出す。話を聞かなくて、子供のようにはしゃいで、音楽好き?テトラのことを子供だと思っている。真面目に考えよう。
「作り手でしょうか?」
「正解!よく覚えてたね、作り手は作曲、演奏する者、語り手は曲の続きを創造する者」
パネルには『作り手は作曲、演奏する者』、『語り手は曲を創造する者』と記されていた。
「あの一連の騒動の間に沢山のアクションがあったんですね、あの確認ですけど、オン源って音楽からしか、生成されないんですよね?」
そう、元の発端だ。オン源は音楽からしか生成されない。なのに政府は、楽譜からオン源から発生していると、言った。このことが気になって、仕方なかった。
「うん合っているよ、けど、音楽を心から愛している者には、楽譜にオン源が宿るんだ」
「音楽を心から愛している者にですか」
「そう、今の時代は音楽を愛していない。否、愛せない」
愛せない。この言葉に私は、ハッとした。音楽が管理された世界では音楽は、愛せない。でも、愛せる者のみ、楽譜からオン源が発生する。
政府はなぜ、生きるために必要な、オン源の生成を制限しているのだろう。私はこの世界にまた謎を増やした。
ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー
イロハ達が政府の猛攻に逃れ、数分後、空に浮かぶ巨大な戦闘機の機内は、緊張感が漂う空気で溢れていた。
機内では、慌ただしく、各隊員が情報収集をしている。その中央部で長い金色の髪を束ね、白銀色の瞳が輝く。
「隊長レーテがアイチで抗争があったと報告が上がりました」
中央部に座っている隊長の正体は、真っ赤な制服を着用している女性。
しかし、他の隊員とは明らかに纏っている威厳さは、座っているだけでも、怯えてしまう雰囲気だ。
「奴が動いたか、それで楽譜は燃やしたか?」
男性隊員は、脳内で痛恨のミスを犯す。いくら報告であろうと、彼女には許されない言葉だ。
「それが、失敗したと」
緊張感の空気から、一気に爆発するような感覚が機内全隊員に襲い掛かる。
彼女は席から立ち上がると、男性隊員に長い足を巧みに使い、顔面に重い蹴りを与える。
蹴りの勢いで床に倒れこんだ男性隊員に容赦なく、胸倉を掴み今度は拳で、何度も殴りつける。反動で彼女の拳には、血液が流れるが、顔色は全く変えない。
「報告なら、誰でもできる。貴様は何がしたい?」
「申し訳ございま、せん」
必死に謝罪の言葉を絞り出すも、彼女の前では、無意味。
ゴミを捨てるように殴りつけた男性隊員を、胸倉を掴んでいた手を離す。
「消えろ、私の隊に音楽を滅ぼす思想が無い物は要らない」
「隊長ホッカイドウにて、オン源楽譜を観測!」
騒がしいアラートと共に別の隊員が報告の声を上げる。彼女は自席に戻る。右手を前に突き出し、隊員に指揮を取る。
「全隊員に告ぐ、これよりホッカイドウへ向かう。微弱なオン源楽譜でも、排除する。これが私たちの存在意義だ!」
彼女たちの組織は、音楽を管理する者。例え人を殺そうと顔色を変えない。冷たい氷のような者達。