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自由の楽譜 〜音を禁じられた時代に〜  作者: 如月
第3章:友愛の楽譜編
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楽譜36.へルター・スパイダー1

 

 舞踏会会場周辺の警戒を始めたが、驚くほど政府の人間達の動きがなかった。開始した瞬間に襲撃と考えていたが、これこれで逆に何が起きるか全く予想ができない。


 私たちの不安を仰ぐように、舞踏会の演奏は響き渡っている。緊張しているばかりじゃ、集中力が削がれる。少し会話を挟んでリラックスしよう。


「テトラはこの数日どうだった?」


「そうだね、俺は楽器の練習をした。でも…身が入らなかった」


「テトラが?」


 以前ヘードネと特訓している時は、卒なく物事を進めていたからてっきり、新しい技術を得ていると思った。


「うん、前までそんなことは、なかったけどね」


「私も今まで毎日、熱中して作曲してたのに、今回のカルイザワで全く書けなかった」


 私もテトラと全く同じだった。レーテに入るまで一人で考える事が当たり前だった。けど、曲は私個人だけじゃない。って意識してから作曲の手が止まった。


「書けない分、今まで聴いたり、演奏した音楽の知識を思い出した。頭パンクしちゃいそうなぐらい曲を描いた」


 就寝前に何度も、書いてはやり直し、頭の中で音を想像して結局納得しない日々。私は一人だけの力じゃ案外出来ない事を痛感した。


「こんなにも、作曲が難しいなんて、知らない間にテトラを頼っていたかも」


 テトラが居たから、続きの曲の事を考えてなかった。いつも最高の曲を創造してくれるテトラに頼っていた。


「俺も演奏している時イロハだったらどうやって、演奏するんだろうって考えてた」


「私達互いに必要な存在なんだね」


「そうだね、俺もそう思う。誰も欠けちゃいけない」


 もしかして、シナヴリアさんがシナヴァリアさんは、二人の大切さを自覚するための特訓だったのかな?と顎に手を当てて、右へ曲がった瞬間だった。


 明らかに舞踏会の客人ではな無い。恰好の女性が私たちの前に立ちはだかる。


「イロハこっち!」


 テトラが声を上げて、私の手首を強く引いた。そのお陰で敵の剣先は頬を掠る程度で済んだ。


「避けられましたか…ソナタと戦ったのは本当だったようですね」


 抜刀した日本刀を鞘に収めた女性は、言動からディケの一員で間違いない。しかし、お馴染みの赤い制服ではなく、緑色の制服だ。


「私はあの暴力女を指揮する、隊ではないので」


 今までは目があった瞬間戦闘だった。しかし、女性は一向に攻撃を仕掛けない。まるで、敵の行動を観察しているようだ。


「ディケでも過激な隊を『コーキノス』穏健 な私達は『プラーシノス』と呼んでいます」


 ディケでも派閥があるのね、でも目的は派閥が異なっても同じ。言動や物腰だけでも奴らの思想は変わらない。


「ディケのプラーシノス隊に所属しています。名はマーチです」


 高く結んだ髪を揺らしながら自己紹介をした。だが、マーチは一筋縄ではいかない。最初の抜刀で私は何も気付かなかった。


「さて、目標を手早く済ませたいのでどいてくれませんか」


「どかせないよ!」

 

 いつものようにまずは、敵の曲を聴いてから作戦を立てようとしていた。だが、マーチの曲が全く聴こえない。周りの環境音があるからではない。初めから、マーチの曲が無かったような感覚だ。


「曲は聴かせませんよ、プラーシノス隊はそう訓練してますので」


「説明ありがとう!」


 曲を聴かせてくれないか。向こうも戦術に長けている。確かに同じパターンならディケの実力は此処まで上に君臨しない。


「痛ッ!」


「いつまで、避ける気ですか?」


 音もなく、刃を向けるマーチは表情は変わらず無機質だ。ソナタは正確なコードを得意としている。当たれば致命傷とするものを創造する。


 対して、マーチは一撃は強く無いが、確実に傷を与えている。


「ドレスコードには換装させませんよ」


 無意識の内にテトラの距離が離れている、楽譜も取り出せないということは、ドレスコードに換装できない。考えている間にも私はザクザクと身体に傷を作っていた。


 これがプラーシノス隊の作戦。まんまと作戦に嵌められたワケか、蜘蛛の糸のように着実に私たちを罠に誘い込む。ソナタ達とは真逆の戦い方だ。

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