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自由の楽譜 〜音を禁じられた時代に〜  作者: 如月
第3章:友愛の楽譜編
32/45

楽譜32.この空の向こう

 

「イロハ、話してくれてありがとう」


 静かにお礼を言う、ディアリマの表情はとても穏やかだった。私は嘘をついていた事に怒られるとばかり思っていた。


「私貴方の縁が切れてしまうと思った」


「切る気ないよ。ディアリマが望まない限り」


 私だって知らない地で、素晴らしい出会いをした彼女との縁は簡単に切りたくない。それは、彼女が望む望むなら、どんな選択でも受け入れる。


「そう、この縁は切れちゃいけなの」


 ディアリマはフルートを持つ反対の手で、私の手のひらをそっと握る。まるで、自分の気持ちを必死に伝えようとするように。


「学校行ってないの。この間話したわよね?学校の皆は音楽は、お金のためにしか考えてないって」


「うん、覚えているよ」


 私の言葉にディアリマは頷き、ゆっくりと話し始めた。昨日まで知らなかった彼女の本当の心の奥が、少しずつ、姿を見せ始める。


「ある、コンクールがあってね、上手になるために練習をしたわ」


 思い出すように、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ姿は、見ているだけで、私も悲しい思いになってしまいそうだ。


「私だけが練習しても、皆はある程度演奏ができるようになったら、練習をしない」


 現代では、よくある光景だ。音楽はオン源の生成が目的。どれだけ自分の個性を磨いても法律の影響で、自由は制限される。


 だから、周りの人間は音楽に熱中しない。ただの生活をするための道具にしか思えない。


「私はそれが嫌だった」


 それが嫌だった。彼女には音楽の自由が無い。失望感は少し前の私だ。

 彼女の顔を見て分かる。この表情は私達レーテのメンバーと同じ、音楽の自由を求める顔だ。


「それで、真面目に練習をしようって言ったら、白い目で見られてしまって、『下手くそが口を出すな』って…わかっていたの」


 法律で固められた思想は一人の力では、変えられない。それが現代の姿だからだ。分かっているが、現実を受け止められない。ディアリマの心の叫びが私の心に訴えている感覚だ。


「私が一番クラスの足を引っ張ってるて」


 それは、違う。それは方法を知らなかったからだ。


「なのに、でしゃばって」


 でしゃばってない。貴方の純粋さが今の時代に合ってないだけ。


「嫌われてしまうわよね」


 私の周りにも音楽に熱中している人間は、居なかった。だが、じっちゃんがいたから自分の思いを溜め込まずに、僅かな自由があった。


 でも、ディアリマは一人でずっと、ずっと、抱え込んでいたんだ。


「それで、私は学校に行かなくなって、今に至るわ」


「ディアリマごめんね、嫌な思いをさせてしまった」


 こんな話絶対にしたくないのに、彼女は勇気を出して最後まで話してくれた。謝罪の言葉にディアリマは首を横に振る。


「謝らないで、私嬉しかったの」


「嬉しかった?」


「貴方の出会いよ」


 ディアリマは、先ほどの表情とは裏腹に悲しさはない。ただ楽しかった。と言葉で体現したようにふんわりと笑みを浮かべる。


「下手でも、最後まで教えてくれて」


「それは、ディアリマはすごい熱心だったから」


「私も貴方の熱心さに惹かれた」


 互いに今まで言葉に出なかったことが次々に出てくる。それは、昨日まで想像しなかった。本当の友のように…


「貴方の熱意は政府と対立しても関係ない。ただの犯罪者じゃない」


 私を見つめる真っすぐな桃色の瞳は一切視線を逸らさない。私もそれに答えるように瞳を見続ける。


「イロハは、音楽の自由を求めるために戦ってるんだよね?」


「そうだよディアリマ」


 私の胸の内にある想いは、もう隠せない。ディアリマはすべてを理解し、考えを見抜いていた。


「私は個人的な理由で組織に入った。だから、ディアリマを巻き込みたくなかった」


「そうね、だからイロハ組織の事を何も言えなかった」


「一日、一日と上達する貴方を見て私は、組織に入って欲しいって思った」


 私はなんて、自分勝手なんだろう。巻き込まれて欲しくないのに、危険な地に誘いこむ。自分は悪魔なのだろうか?


「どうすれば良いか、私分からないの」


 わからない。言っていることが正解なのか、私は正解を見つけ出せない。だから、ここからは、相手に頼る。それが私の正解への道なのかもしれない。


「なら、私はイロハにお願いする」


 彼女に選択を委ねてしまった。ディアリマに辛い選択をさせている自分を責める気持ちが、胸を締めつける。


「レーテにいれて頂戴イロハ」


本日も観ていただきありがとうございました。テトラとイロハは相棒的ですが、ディアリマはそれとは違う関係を考えて書きました。

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