楽譜30.ウラハラ・ハラ
「これなら、大丈夫。今から演奏練習しようか」
「本当になんて、お礼をすれば」
演奏も上達して、後はディアリマの持ち込んだ曲のみになった。諦めずについて行ってくれた。
「別にいいよ、私が勝手にやったことだから」
「そう、イロハは自分のことやらなかったわね」
作曲のためにカルイザワに居るとは、言いたくても言えない。
自分の特訓をやりたくても、やれない状況だ。
「大丈夫それは、仲間にも伝えてあるから」
睡眠時間を削って、作曲時間の確保をしなければならないが、ディアリマの上達を考えたら、安いものだ。
「いいわね、演奏できる仲間が居て」
「ディアリマも何処かの演奏団に入れば、いいと思うよ」
ディアリマをこちらの世界に引き込ませない提案をするが、表情は曇りが掛かったようなもの。嬉しい表情とは言えなかった。
「そ、そうね私も一人旅もいいわ」
何かを隠しているような、言葉。互いに隠し合っているような会話。
しかし、そこに口出しは出来なかった。
喧嘩ではない気まずい空気感に押しつぶさながらも、私たちは演奏の練習を再開した。
ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー
「今日は調子悪かったかな?」
「少し詰め込みすぎたのかもね」
会話の後から、些細なミスが互いに増えて、練習どころではなかった。空はまだ明るいが、これ以上練習をしても互いに疲れるだけだ。
「ディアリマ今日は休もう。詰め込みすぎたね」
「気遣いありがとう。言葉に甘えるわ」
本当はもっと、練習をしたい。でも、本当の事を話したら、関係は此処で終わってしまう。その恐れで話し合えない。
「じゃぁ、また明日お願いするわ」
「うん、また明日」
互いに別れの挨拶を交わした後、ディアリマは遠くへ行った。私は去っていく姿を見て、むしゃくしゃする気持ちでいっぱいだった。まさにジレンマだ。
音楽が関わるだけで、政府は命を簡単に狩る。私はまだ弱い。人を一人守れることすら難しい人間が簡単に、「一緒に組織に入ろう」とは気やすく言えない。
「イロハ」
「シナヴリアさん」
作曲もせずただぼーっとしていると、シナヴリアさんが私の元に来ていた。まったく気付かなかった。流れるように私の隣へ草の上に座る。
「これおやつだよ、シンフォニアから」
「ありがとうございます」
渡されたのはシュークリームだ。生地は固めのクッキー生地は持つだけでも美味しさが漂う。ほのかに香る生地はどうやら焼き立ての様だ。
「俺も食べよう~」
「いただきます」
一口だけでも正に美味。生地のサクサクな硬さは丁度良い。そして、中身のクリームは柔らかいカスタードクリームと香りづけのバニラは贅沢なおやつだ。
「甘いものはいいね、イロハの気持ちは上がったかな?」
「ありがとうございます。そんな暗かったですか?」
「うん、沈み込んでいたよ」
変に気遣ってしまった。テトラの昼食の時もそうだが、組織の皆に変な心配を掛けていた。今後は気を付けよう。
「心配ありがとうございます。大丈夫です」
「良かった。それで例のフルート吹きの子は」
「今日は早めに終わりました」
特訓期間は終了時間ギリギリまで、別荘に帰らなかった私だが、早めに特訓を終えていることにシナヴリアさんは、優しく問いかけた。
「おや、それはどうして?」
「恐らくですけど、ディアリマは組織に入りたいと思うんです」
「なんで、そう思ったの」
これは、ただの憶測。ディアリマは学校で音楽を話し合える友は居ない。今の時代だから、仕方ない。だが、初めて音楽に熱中している私と出会ったことで、組織に興味が向いた。
ディアリマの顔を見れば、分かる音楽に対する話をする姿は、まるで星が散らばったような輝く笑顔で会話をしているんだ。誰でも分かることだ。
「ディアリマは才能があります。スポンジのようにアドバイスを吸収をするんです」
音楽の才能は本来世の中の人のためにあるもの。お金のためじゃない。純粋に彼女の努力は人を楽しませるために使って欲しい。
私の気持ちをシナヴリアさんはただ、頷きながら最後まで聞いてくれた。
「イロハの気持ちも間違えてはない」
「やっぱりこのまま、言葉を濁した方がいいですよね」
「イロハそれで良いの?」
それで良い。良くないわけがないのが本音。こんなに音楽に熱中している子は、そうそう居ない。組織のメンバーで演奏をしたら、更に美しい演奏が出来るに違いない。
なんなら、音楽の才能を秘めたダイヤの原石。他の人に渡ってほしくないぐらいだ。
「本当は彼女を組織に入れたいですよ、仮にも今政府と対立しているんですよ?」
「そうだね、毎回ドンパチやっている。現にイロハも怪我したし」
人が簡単に死ぬ世界だ。軽い命はどこにもない。だから、この板挟みに私はどうしようもないのだ。
「決めるのはまだ早い。隠さずに話せばいいんだよ」
「つまり、私は犯罪者ですっと言うんです?」
「そう!隠す方が余程苦しいよ」
苦しいか…私はどうやら隠すことが苦手なようだ。こそこそと作曲していたり、音楽に嘘をつくことが出来ない。
ディアリマに嘘をつくのは、正直辛い。素直な彼女に辛い思いをさせていると思うと余計にだ。
「一番最悪なのは、話せなくなった時だよ」
作品投稿一か月祝!いつも観ていただきありがとうございます。更新ができるのは皆様のお陰です。明日も18時に更新します。引き続き☆やブックマークなどの応援などよろしくお願いします!




