楽譜03.ラッキー・トレイン
どんちゃん騒ぎに疲れ果てて、地べたに寝転ぶ。このまま、寝ちゃいたいくらい。
「は〜い寝ない〜また政府さんが、いつ来てもおかしいからね」
「そうだった!早く逃げないと!」
こんな、騒ぎをしてしまったんだ。また何が起きるのかわからない。でも、逃げるって何処だ!?頭を抱えていると、金髪の青年は時計を見て、時間を数え始める。
「そこは問題なし、そろそろかな57、58、59」
60秒。1分の時の経過を告げる。すると、空から大きな汽笛を上げながら、巨大な汽車が現れた。汽車の外装には多くの楽器が演奏していた。
小さいドラムから大きいドラムは、バラバラに聞こえるような音だが、耳を澄ませば、一定のリズムが刻まれている。
ラッパの音は、力強い音から軽快な音まで響き渡っている。まだ、数えきれない楽器がこの汽車には備わっているのだろう。
「き、汽車?」
「いいでしょ〜これが僕達の組織の基地でもあり、移動する足」
デッカい。もくもくとたちのぼる煙は、動かすだけでも、沢山のオン源を使いそうだ。恐らく、外装の楽器達がオン源を発生させているのだろう。こんな複雑な音なのに楽しい音で溢れている。
「幸運の列車、ラッキートレイへどうぞお乗りください」
金髪の青年は私に手を差し伸べ、キラキラと輝く汽車は招き入れる。夜空の暗さに負けない。淡いライトと楽器の音色が私を虜にする。しかし、隣のじっちゃんは立ち止まったままだ。
「ワシは乗らん」
「何で!また政府の人来ちゃうよ?」
私のせいで、じっちゃんを巻き込んでしまったんだ。ここに残ると言うことは、また危険な目に巻き込まれる可能性が非常に高い。しかし、私の声は届くことはない。
「ワシはこの街から離れる気はない。分かるだろう」
じっちゃんの考えは曲げない。その瞳は知っている。絶対に自分の考えをを貫き通す瞳。楽器作りや修理で何度も見ていた瞳だ。バカな私でもわかった。
私よりも長くこの町で、楽器を見てきた。沢山の人の縁はそう簡単に切れる物ではない。それにじっちゃんは仕事こそが生き甲斐だ。
それを私は無くせと言っているような物だ。
「どうやって逃げるの?」
「しばらくは職人仲間と仕事をする。元々ワシは街の修理屋だった。戻るだけだ」
そっか、戻るだけ。それなら街の皆と新しい楽器を作れるだろう。
でも、私はじっちゃんと居られない。これからの私の道に巻き込みたくない。
「わかった。でも、私は彼と曲を作りたい。ここには残れない」
わかった気がする。私は自分で音楽を作りたい。ダメだってわかっても、この世に美しく奏でられる楽器がある限り、私は音を作り続ける。
いつもは、カンカンに起こるじっちゃんでも、今日は怒らずにただ、静かに話を聞いてくれた。
「それぐらいわかっている。お前が隠れて曲を作っていることは知っていた」
「バレてたんだね、何となくわかってた」
「何年もお前を見てると思ってる。バカ孫」
思わず笑いが溢れた。の行動なんて、わかるよね。悪いことをして、バレちゃってるのに嫌な気持ちは一切ない。
「お前は、どんな重罪であったとしても、自由に音楽を奏でたいのだろう」
「うん、私は今日で知っちゃったから、私はやっぱり音楽が好きなんだって、気づいたから」
普通なら、犯罪に手を染めていて、とんでもないバカ孫だろう。でも、自由の無い音楽はもう、嫌だ。
「さぁ、いこうか」
汽車の出入り口の扉が開き、テトラは先に行ってしまった。私も行かなければならない。振り返ったら、戻ってしまう。
「達者でないイロハ」
もう!なんでこう言うことに時に優しくするの!達者になって!一生の別れじゃないでしょ、せっかく静かに去ろうとしたのに私は振りかえった。
「またねでしょ!じっちゃん」
心配しちゃうかもしれない。けど、待ってて欲しい。私がこの世界の真実を知るまでは…一生別れではない。一旦の別れ。
汽車の中へ入ると、扉は静かに滑らかになった。鼓膜を揺らすほどの汽笛が大きく鳴る。オン源を存分に消費し、汽車は走り出した。
「お別れは、できたかな?」
「別にまた会えるでしょ?」
緩やかに汽車は上昇する。重力を無視した構造に私は、驚く暇は無く、アイチからどんどん離れていく。でも、一生の別れじゃない。また会える。だから、寂しくない。
「それもそうか、仲間を紹介しようおいで」
先頭車両の横スライド式のドア。今の時代には使うことがほとんどない。木材の素材。しかし、手入れが行き届いており、古臭さは全く感じない。
「ただいま〜皆んなのリーダーシナヴリアが帰ったよ〜」
金髪の青年が元気よく、帰りを言うが、誰一人応えてくれなかった。この汽車、ラッキートレイだっけ?内装も昔の汽車を連想する。だが、運転席の機械はレバーやスイッチなどのパーツで動かすのではない。タッチパネルで操作で解決するようだ。
「遅い帰宅ですね、リーダー」
「ごめんよ〜テトラが言うこと聞かなくてさ」
金髪の青年が車両の前方に近づくと、女性は操縦席から立ち上がる。綺麗に整えられたショートヘアと紺色の髪色は、とても似合っている。
「可愛い娘さん、お名前を伺っても?」
「あ、あのイロハです。よろしくお願いします」
可愛いなんて、お姉さんの方がとても可愛いです。とナンパをするような、言葉をグッと堪えて自己紹介を交える。
「初めまして、この汽車の操縦士をしています。シンフォニアと言います」
「よろしくお願いします。シンフォニアさん」
シンフォニアさんの女性らしい、柔らかな手を互い握り合う。そして、待ってましたと言わんばかりに金髪の青年が話の間に入った。
「そして!この汽車の車掌権、音楽組織レーテのリーダーシナヴリア、改めてよろしくイロハ」
満面の笑みを浮かべて笑うシナヴリアさんを見ると、何だか、頼れる兄貴のように感じる。音楽組織レーテ今日から私もこの組織の一員かと、思うと、心が弾んで仕方ない。
「よろしくお願いましす!」
思わず声が上がってしまい、二人は一瞬目を大きく見開き、驚くも二人は私を歓迎するように、柔らかく微笑んだ。
「あ〜新しい人いる〜」
「おっ、ヘードネ、セレナーデはどうしたの?」
「お散歩〜」
鈴のようにコロンと可愛らしい声と共に現れたのは、5、6歳の女の子。シナヴリアさん達と同じデザインの駅員のような服だが、彼女に似合うような、ミニスカートとローファーを着用していた。
「ありゃ、セレナーデに怒られちゃうよ」
「知らないもん」
腰をヘードネの目線に合わせて、会話をシナヴリアさんは、ポンポンと手を置いた。さて、また新たな人の登場だ。この子も女の子もメンバーの一員なのだろうか?
「イロハだよ、よろしくねヘードネ」
「…!」
彼女に挨拶するが、私の姿を見ると、シナヴリアさんの足にしがみ付いてしまった。怖がっちゃったかな?子供と喋る機会がないので、難しいな。
「大丈夫だよ、ヘードネは慣れてないだけ仲良くしてくれると嬉しいな」
「はい、是非この子も音楽は好きですが?」
「ここにいるメンバー全員が音楽好きだ」
「もちろん俺も」
皆が音楽好き、それだけでも私は嬉しい。自由に音楽を奏でることすら、できなかったのに今は好きな人達に囲まれているんだ。
「ヘードネ!何処にいるんだ!」
しかし、その場の雰囲気を壊すような怒号が、車内に響き渡り、ヘードネを見ると、シナヴリアさんの服を強く掴んでいた。
怒号の正体は私よりも、少し年上に見える青年だ。銀色輝く髪色。真っ赤なルビー色の瞳は、荒々しさを感じる。
「お前!俺のまた勝手に部屋に入ったなぁ!」
「だって、弾きたかったんだもん」
「もんじゃねぇよ!」
楽器部屋、彼には申し訳ないけど私もその楽器部屋に行ってみたい。と考えている横で、ヘードネを見ると涙を貯めて、今にも泣いてしまいそうだ。
「弾きたいもん…うわぁ〜ん」
遂にはヘードネは堪えていた涙が決壊し、声をあげて泣いてしまった。泣いている彼女を宥めさせると思いきや、シンフォニアさんやシナヴリアさんは、暖かな目でヘードネをみていた。
「あの、止めなくても良いんですか?」
「大丈夫、大丈夫見てればわかるよ」
泣きやまなくても大丈夫なのだろうか?とヘードネを心配していると、セレナーデと呼ばれている青年は顔を青ざめる。
「おおい!泣くなよぉ俺が悪かったから」
これにはびっくり仰天、二人が泣き止ませないことに納得した。なんだ、仲良しじゃん、セレナーデをみて、心配したけど大丈夫そうだ。
「楽器弾いて良い?」
「好きに弾け」
申し訳なさそうな表情で、セレナーデはヘードネを宥めると、さっきまで泣いていたことが嘘のように、ケロっと泣き止んだ。
「ほんと!じゃあ明日ね」
「テメェ!また泣いて俺を誘い込んだなぁ!」
ヘードネ恐ろしい子、これは将来ビックになる人材だ。女の武器にを生かしている。この年ですごい技を身につけている。
「さて、皆集まったことだし!俺たちのことについて話そうか」
こんにちは、三話まで書き進めました。数多くの作品から見ていただき、ありがとうございます。