楽譜29.ランチ・ミュージック
翌日私はディアリマの演奏向上のために練習をしていたが、難航していた。
「上手に同じ曲しか演奏しなかったから、癖がついてるね」
「今まで、やらなかったツケね」
ディアリマは、楽譜通りに演奏は出来ていた。問題は所々違和感があり、それが一向に改善できないことだ。
「じゃあ、私が演奏するね」
楽譜通りで難しいなら、私がまず手本を見せる。それが彼女のヒントになれば良いかな。レーテから貸し出しのフルートを手に持つ。
「〜♩」
皆んなにはディアリマのことを話したら、案外賛成だった。私の作曲は後で良いと返事をもらった。
だが、時間は有限だ。ダラダラ続くのは良くない。彼女の意欲を削ぐことなく、練習を楽しんで欲しい。
「どう?」
「私の思う、演奏と全然違うわ…」
演奏を終わると、ディアリマは自分の演奏方法の違いに、あんぐりとしていた。やっぱり長年の癖は手強い。
「それでも、楽譜を見るよりも演奏をしてもらった方が覚えやすいわ」
「ディアリマは耳で覚える感じか…」
彼女も難しいと言っても、上手くなる方法を考えている。なら、私が演奏をして正解を見つけてくれば、良い。
「演奏しながら、覚えようか」
「お願いするわ」
それから、私達は何度も、何度も同じ箇所を練習した。ディアリマは自分の癖に苦労しながらも、演奏を続けた。
元々ディアリマは、演奏の基礎を持っていた。飲み込みも早く、指摘箇所も素直に聞いてくれて、直ぐに実行してくれた。
「大分よくなったよ!」
「本当かしら?」
一通りの演奏を終わると、今朝に聞いた時よりも上手になっていた。私も演奏しながら、ディアリマの演奏を聴いていたが、違和感は少なくなっていた。
「後2、3曲ぐらい練習しようか」
「そ、そうね…」
流石に一曲だけじゃ、あの曲を極めるのは難しい。近道はない。ディアリマは顔をしかめる理由は分かるが、もうひと頑張りだ。
「イロハ」
「あれテトラ?」
さて、演奏を再開しようとしたが、後ろからテトラが居た。手元には楽器では無く、ランチボックスを手に持っていた。
「お昼持ってきた」
「もう昼か」
練習をして大分時間が経っていたのか、確かに太陽の位置が真上だ。お昼の時間にはもってこいだ。
「昨日お昼食べなかったでしょ」
「そうだった、ありがとう」
昨日は作曲に夢中で、お昼ご飯の存在すら忘れていた。テトラからありがたく昼食をいただき、葉の上に座る。
「ディアリマお昼にする?」
「そうね、私も食べるわ」
ディアリマは自分の昼食を用意していたようで、私の向かい側に座った。だが、テトラは私達と昼食を取らずに帰ろうとした。
「一緒に食べないのは?」
「うん、俺は帰るよ」
皆んなで一緒に食べれば良かったのにな…テトラは個人特訓があるから、仕方ないか…テトラも一人になりたい時もあるか。
「美味しそう」
皆と昼食を取れないのは、残念だが、いただいた物はありがたく貰う。ランチボックスの中には、サンドイッチ。たまごやサラダと、色とりどりで美味しそうだ。
「いただきます」
まずは、たまごサラダ。ゆで卵を潰して、味付けは王道のマヨネーズと胡椒。マヨネーズとたまごの相性は抜群だ。
「ローストビーフだと」
「何よ」
ディアリマも昼食はサンドイッチ。しかし、私の物とは違う。具材はローストビーフだ。調理も面倒で値段も普通の昼食にしては高いもの。
「やっぱお金持ちだ」
「てもあげないわよ」
「そんなこと考えてないよ」
欲しいとはちょっと思ったが、流石に人のものをそう、簡単にはいただけない。今度はハムサンドイッチに一口食べる。
「ねぇ、イロハ達は何でカルイザワに居るの?」
「私達はまぁ、旅をしているのかな?」
言葉をソフトにすると、今のは間違いない。事情を知らない人に、政府と対立している。なんて、言えるわけ無いからね。
「旅?演奏団とかの」
「まぁ、そんなところ」
一般人には私たちのことを、公にしない。少し踏み込めば簡単に危険な目にあってしまう。現に私は一般人から政府から即死刑と、言い渡される。
普通の生活は簡単に変わるのだ。
ディアリマには、危険な世界に踏み込まず、フルートの腕をあげて、沢山の人を楽しませて欲しい。
私は普通に我慢出来なかった。罪悪感はある。だけど、私は後悔はしたくない。自由に縛られた音楽を知った以上私は前へ進むことしか、出来ない。




