楽譜02.聖域
前回のあらすじ、音楽好きの私は、音楽法を犯してしまった。その場で処刑?と思ったら、謎の青年に助けられて今に至る。
「ハラの楽譜?」
「そう、君の作った曲は、ハラの楽譜。テトラが言うから間違いない」
玄関から現れたのは、モデルのように背が高く、髪色は黄金のように輝いている。極め付けは、全てを見透かしているような、白銀色の瞳は思わず、見つめてしまう。
「やっぱりお前たちの仕業か」
「おじいちゃんお久さ〜」
じっちゃんと話してい金髪の青年は、手をヒラヒラと振っていた。
気さくに挨拶する姿は何処で知り合ったのか、不思議に思う。
「俺たちが来なかったら、娘さん死んでたよ」
「礼は言う。それで、目的はなんだ」
あのじっちゃんが、軽く頭を下げた。そのお礼の言葉に、私は改めてこの青年たちに命を救われたことを実感する。
「娘さんを頂戴よ」
「へ」
「お嫁さんとじゃないよ、君の持つ力が必要なんだ」
びっくりした。急にお嫁さんになったら、どうしようかと思った。
胸を撫で下ろし、ホッとして、改めて金髪の青年の言葉を考える。
「私に何ができるって言うの?楽器の修理くらいしか」
「君の持つ作り手の力だよ」
「作り手?さっきの男の子もそう言ったような?」
「話すことがいっぱいある、まずは後ろのお客様達をなんとかしようか」
金髪の青年ががにこやかに笑う中、親指を立てて後ろに向ける。その指の先には政府の人間が、ゾロゾロと近づいてくる。
絶体絶命再び。さっきは不意打ちだったけど、今回はそうはいかない。どうしよう!今度こそつかまってしまう。
「本当にいい楽譜、外に出よう!君の曲は外の方が綺麗に響くよ」
「何言ってるの!早く逃げないと!」
青年は私の声を無視して、強引に手を引く、新しいおもちゃを与えられた、子供のように目の前の前ことしか考えていない。
「さぁ、音を奏でよう!」
「ちょっと!早く逃げようよ」
本当にさっきから何もわからないよ、説明もしてくれないし、最初の印象とは、全く違う。すると、私達を中心に眩しいほどの光が現れる。
「これは!」
「やるみたいだね、テトラ」
手に持っていた楽譜は、勝手に手から離れ、ふわふわと宙に浮いた。
自分で書いた楽譜に沿うように、数々の楽器の音を奏でる。
いつも聴いている曲とは全く違う。法律に縛られず、自由な音が広がっている。
心臓の鼓動が早くなる。音に合わせて、刻まれる音は、一定のリズム。華やかに彩るヴァイオリンの旋律。
青年と私が重ねていた手は力強く、握った。
「「ハラ・アルモニア」」
脳裏に浮かんだ言葉に思わず、口に出してしまった。しかし、時すでに遅し、光は更に強く輝きを持つ。
暖かな野原を走っているようだ。とても心が穏やかで心地いい気分で満ちていた。
「ちゃんとできたみたいだね、喜びのドレスコード」
光が消えて、恐る恐る目を開けると、私の服装が変わっていることに気づいた。
白を基調とした服装は、何処かの軍服のようだ。刺繍は黄金の糸で紡がれており、気高さも表現されている。右肩からは、ヒラリとマントが靡く。
「えっ、何これ?!私の服装が変わってる」
まるで、コミックから飛び出したようだ。まさに変身とは、この言葉だ。手にはいつの間にか、サーベルが握られるし、何が起こっているのか、理解不能だ。
「とても綺麗だよ」
「確かに綺麗だけど!ちょっと何処にいるの!」
青年の声が脳内に聞こえるのに姿がない。戸惑いが出る中、政府の人たちは、遂に私たちの元に辿り着いてしまった。
私の姿を見ると、政府さん達は目を見開き、戸惑いの声を上げている。しかし、自分たちの目的を思い出し再度拳銃を構える。
「構えろ!その姿は今すぐ殺さなければならいない!」
「えっ嘘まて!」
必死に自分は無害です。と言うように両手を上げて、抵抗がない事を必死にしめした。しかし、その行動は虚しく砕け散る。
「打てー!」
私は成す術なく、両手をドタバタを動かし抵抗するが、容赦なく発砲される。普通なら助からない。私に目掛けて打たれた、無数の弾丸は一直線に伸びる。今日2回目の死を直感した。
しかし、それを諦めない人間がいた。
「俺は君の語り手だ。だから、君の持つ曲を語って創造する」
青年の言葉に私の身体が、引っ張られるように動く。それは曲の上で踊っているような感覚だ。この音色を聞けば、怖さが吹き飛んでしまいそうだ。
「「ハラ•プロト」」
また。勝手に口が動いてしまった。さっきから身体が勝手に動いた…
今聞こえている曲のお陰なのだろうか?
私の未完成の曲の続きがどんどん、聴こえてくる。もしかして、あの男の子が今、曲の続きを作っているの?
目の前には、弾丸の雨を縦横無尽に駆け回る私は、理解ができなかった。特別運動神経が高いわけじゃない。それなのに今私は普通の人間とは、思えない動きをしてしまっているのだ。
「全部避けただと」
装填している弾丸尽き、攻撃が止んだ。私も正直驚いている。身体が勝手に動いていることも、聴こえてくる曲にまるで、合わせているようだったからだ。
言葉で表現するなら、戦場の中で踊っていたのだ。
「ハラ•プロト!喜びの一番目のコードすごい!すごいよ!」
声だけでも伝わる、彼の気持ちの込み上げる空気。姿があれば、ぴょんぴょんと飛んでいるに違いないだろう。
今まで、曲を作って喜ぶなんて、なかった。
当たり前だ。私のやっていることは、犯罪だ。
褒めて良いモンじゃない。
ルールだから、国が決めたからと好きを隠してた。
「ねぇ、すごいって言うけど、どれだけすごいの?」
「俺が続きの曲をずっと、ずっと〜!!書いてしまうぐらいに」
こんなにも、人を魅了してしまう音楽を、法律で縛る理由を私は知る必要がある。知らないと、私はまた隠れて音楽を作り続けることになる。だから、ここで私は変わる!
「わかった。じゃあ一緒に来てよ、私は曲を作りたい。もっと沢山の音楽を知りたいから」
「もちろんだよ、君が作り手だからね」
足取りは変わらず軽い。敵の攻撃も何も感じない。あぁ、曲が終わってしまう。雰囲気で察する。演奏の音が寂しくなった。草花が風で揺れる音がハッキリと聴こえる。
また、私の身体は勝手に引っ張られる。それは、猪の突進のようにひたすら真っ直ぐに進む。
「「ハラ•デフテロ」」
一直線に進んだ剣先は。政府さんへ振りかざした。音の波紋が広がるように、周りの人間が薙ぎ払われた。
そして、音が聞こえなくなった。服装もいつもの寝巻きに早変わりした。終わってしまった。気持ちが地へ沈み込む。
「ハッ!私がやってたの?」
曲に夢中で今自分の行いにアワアワと焦ってしまった。周りを見ると、政府の人は皆んな地に伏していた。もしかして私この場で死刑?
身体の力が一気に脱力して、地面に座り込む。すると、ずっと、いなかった青年は、何も無かったように私の隣に立っている。
「殺してないよ、寝ているだけ」
寝てる?良かった。と本当に殺してしまった.、じっちゃんに何と言えば良いか、罪悪感に押しつぶされていた。
倒れている政府さんを見ると、胸は沈み込んだり膨らんだりと、しっかり呼吸をしていた。寝ている姿は何処か心地良さそうだ。
「喜びの曲は人を殺さない、ねぇ名前聞いてもいい?」
本当に本当に良かった。一瞬だったのにこの時間が長く感じた。
地面に大の字に倒れ込み、夜空を見上げると、雲ひとつない空が広がっていた。
それは、私の心が晴れたような気分を表してるようだ。
「イロハ」
物事の第一歩、じっちゃんが言っていた今をふと、思い出した。
自分の名前の意味は、この瞬間のためにあったような気がする。
「イロハ良い名前だね、俺はテトラ、よろしくねイロハ」
伸ばした手は、純粋な握手。私は彼と音楽を作りたい。そう確信した。
この先何が起きるのか、わからない。今日みたいに危険な目に遭うと思う。
でも、私は真実を知るまでは、絶対に音楽を作ることをやめない。私はテトラの手を強く握り返した。