楽譜13.ライト・オブ・ライフ
「テトラ追いかけよう」
「うん」
ヘードネたちが男の子を追いかけ、路地裏へ入り込んだ。私達も明るい街から、暗い街へ入る。
路地裏は明かりが入っておらず、空気感がジメッとしている。奥へ進むたびに政府の騒がしい声が響く。
「近づくな。まだ相手の手が分からねえ」
「はい。もちろんです」
しばらく進んだ先にはしゃがんだ状態で、セレナーデさんとヘードネが相手の出方を待っている。流石経験値が違う。私も二人を見習って、相手の出方を見る。
「貴様からオン源が出ている。楽譜を持っているな」
「ち、違います!」
「いや、間違いなくそうだ拘束する」
男の子は空色の瞳に涙を貯めて、首を横に振る。紺色の髪が左右に揺れている。
必死に否定している姿は、男の子の気持ちがひしひしと伝わる。
オン源?この子が楽譜の作り手?本当にそうだったら、この子が殺されてしまう。急いで助けないと!身体が青年に向く前にセレナーデさんが前へ出る。
「貴様何者だ!グハッ!」
セレナーデさんの手元には、拳銃が握られていた。正確に政府に向けられた弾丸は、一発で仕留められていた。だが、血は一切流れてない。
「おい、生きているか?」
「あ、ありがとう」
拳銃をホルスターに収めたセレナーデさんは、男の子の無事を確認した。身長に合わせて目線を合わせる。やっぱり、小さい子の扱いに慣れている。いや、今は男の子の無事だけを考えよう。
「名前言える?」
「エレオスです」
私は男の子の元に近寄り、名前を聞いた。しかし、政府の尋問の影響で、瞳はゆらゆらと揺れている。私達を怖がっているのだろう。
できるだけ、声色を優しく、表情も柔らかく。目線もまっすぐと見つめる。
「そう、エレオスね私はイロハ、こっちの人がセレナーデさん、で可愛い子がヘードネ、最後にテトラ」
メンバーを順に紹介したことで、エレオスも私達を怖がっている様子が薄れてきたようだ。
こんな幼い子供でも、簡単に命を奪うなんて、政府はどうかしている。怒りの感情がふつふつとわいてしまう。
「どうしたの?」
エレオスが私をじっーと見つめており、何か気になることがあったのか、と確認の声を掛けた。何か聞いたげに、そわそわとしていたが、覚悟を決めて声を出した。
「あなた方は…作り手なんですか?」
「そうだよ、どうしてわかったの?」
「貴方方から、楽譜の音色が聞こえるんです」
楽譜の音色。それは、私たちが持っているもので間違いないだろう。
セレナーデさんと私はオン源ミュートを、付けており、オン源の反応が無いはずだ。それなのに、エレオスは私たちが楽譜を持っていることを当てている。
「テメェ語り手か」
セレナーデさんが、問いを出すと驚いた表情で私達を見つめていた。それは、秘密を隠している子供が、暴かれたような表情だった。
「やっぱり、作り手の方なんですね、僕は憐れみ曲の語り手です」
語り手つまり、楽譜の曲を創造する者。憐れみの曲を語る者。もし、エレオスが始末されていたら、憐れみの曲が永遠に曲が創造されなかった。
「セレナーデさん何で、エレオスが語り手だって、わかったのですか?」
「語り手には、オン源ミュート関係なく、楽譜の音色が聴こえるってあんだよ」
シナヴリアさんは、楽譜以外にも語り手の保護のために、大勢の行動を提案したのか?
「そう言うことですか、エレオスの曲の楽譜はあるの?」
「これしかありません」
差し出されたのは、半分以上が燃やされた楽譜。エレオスの手のひらを見ると、痛々しい火傷の跡が見えた。しかし、何か事情があると考え、言葉を押し殺した。
「僕の作り手は殺されたんです」
「殺された…」
「だから、僕は求めては駄目なんです。曲を語っては駄目なんです」
エレオスはまるで、自分のせいかのうよに責めているように見えた。殺された理由なんて、政府が悪い。現にアイツからは幼い子供でも殺しを躊躇しないのだ。
「駄目じゃない!エレオスは悪くないよ?」
「メロドラマが殺されたのは、僕が全部悪いです!」
この場から逃げ出そうとしたエレオスに、手を掴むにも間に合わない。目の前で狙われている命を奪われるわけにはいかない。
「おい勝手に消えるな」
「ひぃ!」
パッシと反射的に掴んだ手首をセレナーデさんがエレオスを捉える。思わず声を漏らしたエレオスには、私も同情した。あれは、流石に怖がるのは仕方ない。でもよかった。
「セレナーデさん、エレオス怖がっていますよ」
「怖くねーよ!」
「エレオスは危ない目に合っている。私達は曲を語る人を守りたいの」
今のでわかった。遅かれ、速かれ、政府は何が何でも、楽譜をこの世から消したいようだ。そんなの絶対に許さない。
「怖いと思うけど、私達に着いて行ってほしい」
腰を下げて、再度エレオスに問いかける。私達を信じてほしい。絶対に命は守る。
作り手は守れなかったけど、私もこれ以上命が消えるのは、嫌だ。
「行こ、セレナーデ、イロハ、テトラ、シンフォニア、シナヴリア、みんな優しいよ」
セレナーデさんの隣のヘードネも、エレオスに小さな手を差し伸べる。
彼女の純粋な言葉が、心を動かしたのだろう。伸ばされた手を震えながらも、エレオスは強く握った。




