数億年も続いた仕事は私の代で途絶えた。
病床の父が私を呼んだ。
長く働き詰めだった父は最早、口を動かすだけで精一杯だ。
「もうじき私は死ぬ」
「ええ。そうみたいね」
私は頷いた。
そのあっさりとした仕草を見て、父は今にも死に絶えそうなのにも関わらず、私を思い切り睨みつける。
「なんだ、その態度は」
鬼の形相を浮かべる父を私は冷たく見返す。
私は何度も告げていた言葉を改めて口にする。
「何度でも言うけれど、私は父さんの仕事を継ぐつもりはないから」
「お前……!」
そう言った途端、父はむせ込み血を吐いた。
その様を冷たく見つめる私に対して父は全身を怒りに震わせながら想いを口にする。
「分からないのか……! 我が家系は何億という年月をかけてこの仕事をやってきたんだ……! お前にはそれを継ぐ義務が……責務があるのだぞ!」
「悪いけど私は別になりたいものがあるの」
「何という……! 何という愚かで……罰当たりなことを……!」
「はいはい」
私は適当に言葉を返して言った。
「分かったからとっとと死んでくれない?」
喚こうとする父の顔に水で濡らした布を持ってくる。
当然、父は私が何をしようとしているのかを悟る。
何せ、これは父の得意分野だから。
「お前、ろくな死に方をしな……」
最後まで聞き終える前に私は布を父の顔にかぶせた。
布を通して見える父の顔は滑稽なほどに苦し気で、何とか息をしようと口をパクパクと必死に動かしていたが、やがてその動きも段々と鈍くなり、気づけばぴくりとも動かなくなっていた。
死んだのだ。
そう確信してから、私は立ち上がり、背中に生えている世界の悪意そのものを反映したかのように赤黒い羽を大きく開く。
そう。
私は由緒正しき大悪魔の末裔。
家系を紐解いていけば神様とだって戦ったことがあるらしいけれど、悪いことをするのは私でおしまい。
だって、悪い事なんてしたって恨みを買うばかりで楽しくないし、何より神様にずっと目をつけられる羽目になるのだから。
「ろくな死に方をしないって?」
父の遺体へ向けて言った。
「そんなもの覚悟の上よ。どうせ、悪魔なんだから」
吐き捨てるように言うと私は大空へと舞い上がる。
くだらない役目からの解放された清々しさに身を任せて鳥のように世界を心ゆくまで飛び続けた。