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俺、セミ三郎と申します。  作者: 富永真一
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レジェンド、セミ雄

セミ雄、奴の体は俺らよりも二回り大きくて、羽音(はおと)もそれはデカかった。後ろを飛んでると奴の羽の風圧で吹き飛ばされそうになったらしい。奴が()(ぼく)、木に帰ってくることをそう呼ぶんだが、その時にはドスンって木が揺れて、俺は吸っていた樹液をよく戻しかけたもんだ。セミ雄くらいの大物になれば、飛び立つ時のしょんべんも様になるが、俺たちみたいな(ぼん)(ぜみ)だとそうもいかねえ。飛び立つときの出しょんべんはみっともねえ。


セミ雄は()ゼミからも()セミからも一番の人気者だったから、出るレースの数も半端ねえ。毎日三〇レースくらい平気でこなすんだ。俺なんか5レースがせいぜいだ。セミ雄はもちろんすべて完勝だ。負けた方もあいつと同じ空を飛べただけでも「今生(こんじょう)(ほまれ)」だって喜んだもんさ。そんなセミ界、無敗の男セミのセミにも人生の終わりは来るもんでな、そのセミ雄の最期はレース中にやってきた。カラスにやられたんだ。


二十匹がエントリーした大きなレースの中盤だった。二位以下を引き離して独走状態のセミ雄の前を右の方からさっと掠める様に黒い陰が横切った。本当に一瞬のことだったよ。カラスに(くわ)えられながら必死に逃れようと羽ばたいて、大声で(わめ)くのを俺らは音も立てずに、ただ息を潜めてじっと木に止まって見ていだけだった。奴を(くわ)えたカラスが俺たちの木の横を通り過ぎる時に聞いたセミ雄の声は耳にこびり付いてとれない。奴に惚れてた()ゼミはたくさんいたけど、それ以上にやつは()ゼミの憧れの的だったから、それからしばらくは()ゼミは羽音一つ立てなくなる()ゼミも鳴くのを止めて、しばらくこの辺りは昼間も静かだったな。


俺は奴にしょんべんかけられたことがあったが、今となっては伝説になった奴にひっかけられたしょんべんは俺には勲章だよ。あいつの分も精一杯飛ばねえとならないと空に誓った。


                  つづく

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