転生したらのんびり暮らせますか?
「おー、上手いもんだなぁ。」
「おかえり。」
「あ、おかえなさい。」
ガラガラと荷台を引きジオラソが帰って来た。
「わ、魚が沢山!」
釣りたての魚と、市場で仕入れた野菜や肉を乗せている。
「おう、なかなか大漁だったぞ。ハルもやるじゃないか!」
ラナンと並んで芋の皮剥きをしているハルの手元を覗き込む。
「子供の頃からやってたので、」
正に子供の頃の記憶はひたすらに家事をこなす事だった。
「本当に早くて助かるよ。ありがとうね、ハル。」
にっこりと笑うラナン。
「……!」
「さてと、大漁だね!」
「おうよ!腕よ腕!腕がいいからな!」
はいはい。と、ジオラソから荷を受け取り室内に運ぶ。
「は…!、あっ、手伝います!」
「ありがとう。」
家事で褒められたり、『ありがとう。』なんて言われた事なんて無かったから思わず赤くなる。
「ふふ、ハル。魚と肉はこっち並べて。」
ラナンはテーブルの上に魚と肉を並べだした。
「よしっ!じゃあ、やるか!ハル、離れてろ。」
「?、はい。」
「よっしゃあっ!いくぜ!」
ジオラソが手を振りかぶるとゴォッ!と音を立てて吹雪が舞う。
すると、カチンコチンに冷凍され水揚げされたマグロかのようにテーブルの魚と肉が凍りついた。
「うわっ!凄い!」
「はっはっはっ!まーなっ!」
「馬鹿だね!こんなに凍らせちゃ調理するのに時間がかかるでしょ!」
「あだっ!」
ポカリ、とラナンはジオラソの頭をゲンコツではたいた。
「ほらっ!汗と潮を洗い流して来な!」
「アタタっ!分かったよ!」
ジオラソは慌てて凍った魚と肉を木箱に入れ、倉庫と洗面所がある奥に向かった。
「全く、ハルにいいトコ見せようと調子にのっちゃって。」
クスクスと笑いながらラナンはかまどに手をかざした。
ポッ、と火が薪に灯る。
「あの…ラナンさん?」
「ん、ああ。ウチの人が『水』と『風』のセンスが長けててね、冷凍はジオラソに頼んでるのよ。」
私は『火』が得意だけどね~。と鍋のスープを温め、もう一つのかまどにフライパンを置き肉を炒め、
白パンにサラダと炒めた肉を溢れるほどはさむ。
「フフ、そうなんですね。、、ぁ。」
ラナンのひと働きした夫へのボリュームと、何よりも愛情たっぷりの食事にハルは笑みをこぼした後、ふと気が付いた。
そうか!『センス』ってRPGゲームのステータスとか属性的な事なんだ…!!
確かに火を操る力は調理に役立つ、水や風の力は漁に向いているだろう。
パワーに長けているなら尚の事だ。
「ん?どうかした?」
「い、いえっ!」
「あ、そうだ。今のうちに出かける支度してきな。ジオラソあっという間にあがってくるからさ、腹減ったってね。」
「ふぃ〜。さっぱりしたぁ!」
「ほらね。」
「ホントだ。」
ガッシガシと頭を拭きながらジオラソが戻って来た。
「あ〜、腹減った!ん?何だ?二人共??」
クスクスと顔を見合わせ笑い合うハルとラナン。
「さぁ〜?」
「なんでもっ!じゃ、準備してきます!」
「なんだよぉ〜。」
何だろうか、まるでイタズラが成功したようなくすぐったい気持ちで階段を駆け上がる。
ちょっと途中でこそっと下を覗くと、
「ほらほら、でっかいおじさんが拗ねても可愛くないから!早く食べて!」
「だってよぉ〜、」
仲睦まじい夫婦の姿。
春子の両親の仲が良い時はギャンブルに勝った時位。
「……っ…。」
昔を思い出して瞼に影を落とす。
「ハルと二人でぇ〜、お父ちゃんだけ仲間はずれかよぉ〜。かぁちゃ〜ん!」
「あっはっはっ!」
「……え……」
その仲睦まじい夫婦の、温かな家族の中に自身が含まれている。
「……っ…!」
その温かさはポッと全身を駆け巡り、思わずびっくりして弾かれたように客室まで駆け込んだ。
「……軽口だって。」
なのに顔が熱い。
冷たいシーツに突っ伏して熱を冷ます。
「おーい、ハル〜!そろそろ行くかぁ~?」
「!!」
「ハル〜?」
下からジオラソが呼んでいる。
あの沢山の食事をもう食べてしまったようだ。
「は、はい!直ぐ行きます!」
リュックを背負い、階段を駆け降りる。
「お待たせいましたっ!」
「ははっ、慌てて行くもんでもねぇよ。階段から落ちるぞ?」
「アンタが早いのよ!
んもう、ゆっくり食事は味わいなさい。っていつも言ってるでしょ?」
「んはははっ。
いつも美味いから、ついなぁ。」
ジオラソはグイッとラナンを肩を引き寄せ、頭に口付けを落とした。
「んじゃ、行ってくるから昼には戻る。」
「あいよ。」
さらっと、見せ付けられ、
ええっー?!めっちゃナチュラル!ここでは普通なん?!
「どうした?行くぞ?」
「は、はい。」
ここでは照れてしまう自分がおかしいのだろうか?
「あ、ハル。
いってらっしゃい。お昼ご飯用意してるからね。」
ラナンの豊かな胸にハグされた。
…どうやらそうらしい。