転生したらのんびり暮らせますか?
「おはようございます。」
「おはよう、よく眠れた?」
顔を洗い、身支度を整えたハルが階段を降りると、ラナンが焼き立てのパンを運んでいた。
飲食店の2階が宿泊部分になっており、ジオラソの妻であるラナンが切り盛りしている。
「昨夜は遅くまで騒がしくて、疲れたでしょ?ごめんね。」
常連のお客達にジオラソが飲み込まれた後、勿論ハルも巻き込まれる事となり、流石に酒は飲む事は無かったものの、疲れからうつらうつらと船を漕ぎはじめると、
「いい加減にしな!!」
と、ラナンがハルを引き剥がしてくれたのだった。
―――「さ、座って。」
コトリ、とテーブルに盆を置く。
昨夜ハルが出した器にジャガイモとベーコンのトマトスープとふわふわの白パンが並んだ。
「わぁっ、ありがとうございます!」
いただきます。とトマトスープを口に運ぶ。
「美味しい!」
「良かった、おかわりあるからね!」
洗い物をしながらラナンが応える。
ふと、スープのジャガイモを見て思い出した。
もしかして、昨日ジオラソが買い出しで運んでいた芋とかって、朝食から使う分だったの?
昨夜は遅くまで騒いでいた後に片付けや仕込み。朝もきっと早くから調理していたのだろう。
男達も早朝から漁に出ている。
皆、陽気で気も優しい。そして働き者。
そんな人々がこの街のあたたかな雰囲気をつくっているのだろう。
「ん?どうしたの、スープおかわりするかい?」
ほら。と微笑み手を差し伸べるラナン。
「!、はいっ!」
たった一晩。されど一晩。
ハルは改めてこの街に辿り着いて良かった。
あの場所に神様が運んでくれて良かった。と感謝した。
『早く仕事を見付けなくっちゃ。』
のんびり暮らすために働く。
相反するようだが、これが自分には似合っていると思う。
「ヨシッ、しっかり食べな!
今日はセンスを見てもらうしね!」
そうだ、ジオラソが能力を見れくれる人の所へ案内してくれるのだった。
「センス…、私にどんな能力があるんだろ?どんな事が出来るのかな…。」
ハルは匙を置き、そっと開いた両の手のひらを見つめた。
「なぁに、」
「わぁぷっ?!」
俯いたハルの頭をラナンがくしゃくしゃと撫でまわす。
「心配しなさんな!センス通りに仕事しなくったていいんだよ!」
「え……。」
「ハルが楽しいと思う事をやりなさい。」
「楽しいと思う事……。」
「そう。センスに合ったって楽しくなけりゃ笑えないでしょ?
センスが合ってなきゃ多少苦労はするかも知れないけど、笑えればなんとかなるもんさ。」
ラナンは今度は優しくハルの頭をポンポンと撫でた。
「ラナンさん……。」
「さぁ!冷めないうちに食べちゃいな。もう少ししたらジオラソも帰って来るからさ。」
「はいっ!」
―――「あ、そうだ。」
おごちそうさまでした。とおかわりしたスープも平らげたハル。そういえばと、
「ラナンさん、宿代を…、」
今のうちに宿泊代を払おうと、金貨が入った袋を鞄から取り出す。
幾らだろ?てか、金貨って何円?金だし高いよね??
1枚一万円位かな?五千円?千円?
と、袋から1枚、2枚と取り出す。
「ちょっ…!ハル!」
慌ててラナンが止めた。
「1枚で十分お釣りが来るよ!
全く、こんな大金ヒトに見せるもんじゃないの!」
「え?あ、ご、ごめんなさいっ、、」
「ん〜、ハルって何処かのお嬢様なの?」
ずいっ、とラナンはテーブルからハルへと身を乗り出し、声をひそめる。
「違いますっ!ただの会しゃ……、」
「カイ?」
あぁっ!会社員は春子で、今はハルな訳で…、
「カイ…カイ兄さんが用意してくれたんです!」
誰だカイ兄さん。
「カイ兄さん?そう。頑張ったんだね…お兄さん。」
ぎゅっと、金貨を握るハルの手をラナンは両手で包んだ。
「こんなにも大金、頑張って稼いだんだよ。」
神様が支度金として入れてくれたんです。でも……、
「ハルが幸せに暮らしていけるように、ってね。」
そう、春子を。ハルを想って授けてくれたんだ。
「…はい。きっと、しっかり暮らしていくのが恩返しだと思います。」
「そうだね。大丈夫さ、ハルには私らがついているから。」
ラナンは手で包んだままのハルの手を押し返した。
「え…駄目です!お代は……、」
「いいの。ハルのひとり立ち記念さ。」
「でも、」
「じゃあ、ちょっと手伝ってくれるかい?」
「はいっ!」