転生したらのんびり暮らせますか?
「あ…、」
ジオラソが言った通り直ぐに日が暮れ、辺りが薄暗くなってきた。
……ポッ
…ポッ
ポッ、ポッ―――
あちらこちらから次々に灯りがともり、オレンジ色の道しるべが出来がる。
「うわ……っ!」
通りを進むにつれ飲食店らしい店舗や衣料品店、日用品らしき品を置いた店に、なにが何だか分からない店など随分賑やかになってきて、春子…いや、ハルは目を輝かせた。
「わはは、そんなに面白いか?明日、センスを見てもらっても時間あるだろ、ちょっと探索してみな?」
「はい!」
そうこうしていると、一軒の酒場のような店に着いた。
「ここだ。ちょっと待っ………、」
待っていな。とは続かず、
スコーーーン!!!
ジラオソの顔面に木の鍋蓋がフリスビーのようにヒットした。
「あんたぁ!お客に具無しのスープを食べさせる気かい?!」
どどーん、と仁王立ちした女性。
化粧っ気はないが華やかな顔立ち、ふくよかというよりグラマラスで、ジラオソより幾らか年下に見える。
「?!?!」
突然吹き飛んだジオラソに固まるハル。
「ん?、あらっ!可愛いお客さんだね!
ごめんよ?みっともないとこ見せちゃったね、」
「あ、いえっ!」
「ラナンちゃん!相変わらずいい腕してるね!」
「流石、ラナンさんだ!ナイスコントロール!」
テーブルのお客さん達がやんややんやと笑い、
「お嬢ちゃん!いつもの事だから!」
とドッと笑った。
「え?え?!」
訳が分からないが、
「あ、あのっ!私、初めてこの街に来て!」
自分のせいなのだと伝えなければ!
「ジラオソさんが困っている私を助けてくれたんです!」
きょとん、と目をぱちくりさせた女性。ラナンは直ぐに目を細め、
「そうかい。ウチの人が、」
にっこりと笑い、
「よく来たね、おかえり。」
「へ?おかえり…って??」
ハルが戸惑っていると、
「今日からこの街はハルの家だろ。ほら、おかえり。って言われたらなんて言うんだ?」
ジラオソがポンと鍋の蓋をハルの頭にかぶせた。
「あ…!」
見ると大笑いしていたお客達がニコニコと優しく笑い、グラスを掲げている。
「た、ただいま!ハルです!今日から宜しくお願いしますっ!!」
勢いよくお辞儀する。
「おかえり!ハルちゃん!」
「宜しくな!」
「困った事あったら何でも言えよ!」
かんぱーい!とグラスを鳴らし酒をあおる。
「あんたらは飲みたいだけだろ!」
「ちげーわ!お祝いだ、お祝い!」
「わははっ!」
「ジオラソも飲め!飲め!」
お客にのまれていくジラオソ。
「ったく、しょうがないね。」
「あははっ!」
「そうだ、ハル。お腹空いてるでしょ、器だしな?」
「え…あっ!」
神様からもらっていた鞄の中にあった食器セット。
「旅人の必需品だけど、ひとり立ちの安全祈願に贈る物だからね、良い品だよナイフなんか特に。家族からかい?」
「あ…、」
よく見ると、銀のナイフは『春』らしい桜の彫刻が施されている。
食器セットなんて何でだろう?と思っていたが、春子の旅立ちと新たな生活の幸せを祝福して贈ってくれていたのだ。
ハルはそっとその桜を指で触れた。
「そう、だったんだ……ありがとう……。」
「……フフ、さぁ!しっかり食べて、しっかり寝て!明日から新生活始まるんだからね!」
粗めのパンに香草の爽やかな香りを効かせ、香ばしく焼いた魚のサンドと、お供はホカホカと湯気を立てた貝と根菜の具だくさんのスープ。
「いただきます!」
その夜、ラナンから「いい加減にしな!」と雷が落ちるまで、店の灯りが灯っていた。