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・鉄と塩と人の業 - 天国への道 -

 俺は言ったんだ。

 それはストックホルム症候群だって。


 ステリオスに心を深く傷つけられた君たちは、自分の心を守るために、あの怪物を自分の恩人ということにする他になかっただけ。

 ステリオスは恩人じゃない。君たちを弄び苦しめている張本人だって。


「おまえっ、ステリオス様を侮辱するのか!」

「あの人は良い人だ! こ……恐いところも確かにあるけどっ、ボクたちにはやさしい人なんだっ!」


 屋敷から抜け出そうとすると、意外な障害が俺の前に立ちはだかった。

 それは哀れむべき被害者たちだ。


 同じ立場だからこそ、敏感にアリク王子の脱走の意図を見抜いたようで、俺は夕刻の庭園の一角で道を阻まれてしまった。


「君たちにはなんと言ったらいいかわからないよ……」

「おまえっ、なんでボクたちを哀れむっ! その目を止めろっ!」


「ごめん、失礼だったよ。僕は君たちに敵意はない」


 2つから6つ上くらいのお兄さんが多かった。

 どの子も大胆な薄着と化粧をさせられていて、それぞれが違う香水を付けていた。


 俺がステリオスやったことは、この子たちの幸せにはならないのかもしれない。

 けどもう引き返せない。彼は緩やかに衰退する。


「おい、どこにいくんだよ!」

「あてがわれた部屋に戻るよ」


「うそだ、だっそうするつもりだったんだろ!」

「ちょっと、大きな声でそういうの止めてよ……っ」


 兵隊なら魔法で吹っ飛ばしてやればいい。

 今日までかき集めたスキルを駆使すれば大人になんか負けない。


 でも、この子たちは傷つけたくなかった。

 手首を強く握られて引っ張られたり、胸を突き飛ばされたりした。


「止めろっっ、その目を止めろってっ、言ってるだろっっ!!!」

「傷つけるつもりはなかったんだ、ごめ……あっ?!」


 アリク王子になって初のリンチだった。

 鳩尾に拳を入られられ、顔を殴られ、手を引っかかれて、倒れると何度も蹴られた。


 兵隊さんが飛んでくるまで暴行が続いた。

 暴行に加わった子供たちはこっぴどくしかられ、俺は私室でひっかき傷の手当てをされた。


 鉄格子のある窓から外をのぞけば、夕日が落ちて暗くなってしまっていた。

 そこに休息から目覚めたステリオスが飛んできた。


 困った……。

 ちょっとした甘さが仇となって、脱走の機会を逃してしまった……。


「……ううん、許してあげて。僕が彼らの心を傷つけてしまったんだ」

「いや、ワシの躾が足りなかったのが原因だよ。一国の王子に、こんな傷を負わせてしまうとは……ああ、恥ずかしいよ、わいは」


 それと、ステリオスの恐ろしい側面も見た。

 彼は怒りに鼻息を荒くして、子供たちをこれから虐待しようとしている。


「ダメだよ。僕が貴方の名誉を侮辱したから、ケンカになってしまったんだ。彼らは貴方の忠義者だ」

「アリク王子、ワシは少し行くところがある。今夜はゆっくりと、その傷を癒しておくれ……。ああ、綺麗な肌が台無しだ……っ」


 その用事は僕にとって好都合。

 でもあの子たちはとっては大きな不幸だ。

 あの子たちはこの醜悪な豚を崇拝しているのに、その気持ちをこれから裏切られる。


「待ってステリオスッ、あの子たちに酷いことをしないって約束して!」

「ひひひっ、犬を鞭で躾るのがわいのやり方や……。地下でかわいい豚どもがわいを待ってるんや……」


「それは躾じゃない、虐待と洗脳だ!」

「ああ、ますます気に入ったよ……。なんと気高く、賢く、美しいんや……」


 このままではあの子たちが何をされるかわからない。

 軽い拷問ならまだいい。けど最悪は――


「待てっ、ステリオスッ!!」

「なんや、我が姫君よ……?」


「あの子たちのところには行かせない! ……土魔法……バインド!!」

「フギィ……ッッ?!」


 魔法のツタでステリオスを縛り付けてから、俺はこう思った。

 完璧な計画だったはずなのに、ああ、どうしてこんなことに……。


 兄上が言った通りになってしまった……。

 僕の前で豚が鼻だけで抗議の声を上げていた。


「ステリオス、僕はもう帰るよ。僕はヤクサさんとカナちゃんを助けたくてここまできたんだ」


 ここでステリオスを殺す必要はない。

 殺せばそれに近いくらい有能なやつがステリオスの座に収まってしまう。

 それではわざわざここまでした意味がなかった。


 やつはやっと手に入れたはずのお宝が逃げ出そうとすると、口をツタにふさがれたまま豚みたいに大きく鳴いた。

 それから俺は――


 なんでかわからないけど、屋敷の地下に向かっていた!

 自分でもなんでこんなバカなことをするかわからない!

 でも行かなきゃならないと駆ける足が言っていた!


「子供……? まさか、アリ――」

「ごめんっ!」


 地下牢の扉を見張りの兵隊さんごとウィンドボルト5連発で吹っ飛ばした。


 壁にかけられた鍵束は2つ。

 どれがどの牢屋にものかもわからない。


「誰かわからんがそこの少年っ、頼む出してくれっ!」

「いいよ。誰かわからないけど、もうこうなったらみんなここから出してあげる」


 手前のおじさんから順番に牢屋を開けていった。

 おじさんを解放すると、おじさんも仲間の解放を手伝ってくれた。


 少年たちの牢屋は奥にあり、後ろ暗い行いのために別室になっていた。

 そこの設備については詳しく触れない。僕の気まぐれは間違っているけど正しかった。


「お、おまえ……っ」


 俺は鍵を見つけると少年たちの牢に向かい、牢獄の鍵を開けた。

 彼らの目からすれば、アリク王子は相当に変なやつに映っただろう。


「今なら君たちはここから出られる。外の牢屋に捕まっていたステリオスの敵たちが、君たちを保護してくれるはずだよ」

「ぇ……っっ」

「こ……ここから……この、地獄から……でられ、る……?」


「君たちがそう強く望めばね。もうあんな男に媚びる必要はないんだ。それと……さっきは傷つけてごめんね」

「ま、待て! ア、アリク王子! あの……さっきはその……あ……ありがとう……っっ!」

「ありがとう、アリク! 俺たちここを出る!」


「どういたしまして。幸運を祈ってるね」


 これはギルド職員アリクだった頃の精神に引っ張られてしまったのかな……。

 子供たちの顔に希望の灯火が灯ると、深い安堵を覚えた。

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