・鉄と塩と人の業 - この旅の目的そのもの -
「お幸せにね、ヤクサさん、カナちゃん」
「すまねぇ……本当に、すまねぇ……アリク……ッ」
「おとうさんっ、アリク様を助けて……!」
「すまねぇ、カナ……父ちゃんはバカ野郎なんだ……」
ヤクサさんとカナちゃんは、揉めに揉めながら大食堂を出て行った。
少年たちや兵士さんも退室を命じられ、俺とステリオスだけが残された。
「あらためて初めまして、ステリオスさん」
「初めまして、アリク王子。わいはずっと、君にお会いしたかったんだよぉ……」
「僕も貴方に会いたかった」
「本当かい、ひっひっひっ、嬉しいねぇ……っ」
「1つ聞いてもいい? どうしてヤクサさんの後を兵隊さんに追わせたの?」
「ほぅ、鋭い子だ……」
あの兵隊さんを使ってヤクサさんに何かするつもりか、監視だろうか。
あるいは隙を突いてカナちゃんをまた誘拐するとか。
「超感覚を持つ盲目の少女カナ。あれをみすみす手放すのは惜しい……八草もだ」
「彼を騙したの?」
「やつらが自由になれば、いずれわいに牙を剥く。飼えない野獣を野に解き放つのは賢明ではないよ、アリク王子」
「仁義に頼らない。それが貴方のやり方なんだね」
ステリオスは俺のその言葉をとても喜んだ。
爛々と目を輝かせて向かいの席の8歳児を舐めるように見つめ、不気味にうなずいている。
「気に入ったよ。君は実に聡明だ」
「ありがとう。でも僕なら仁義の方を選ぶ。だって、裏切れば裏切るほど、凄く生きづらくなりそう」
「ああ、生きづらいよ。だけどわいが若い頃は、真っ当な道を選んでいる余裕なんぞなかったんや……」
ヤクサさんの心配はいらない。
どうせこうなると思って、番狂わせを用意しておいたから。
「貴方は悪人かもしれないけど、少なくとも話は面白い。もう少しお話がしたいな」
「いいとも。夜までまだまだある……」
「うっ……」
会ってその日なのに、それを言う……?
噂通りの人みたいだ……。
彼は俺の顔だけではなく、手や胸、首、ほぼ全身を見ていた……。
キ、キモい……キモ過ぎるよ……っ。
「じゃあ、まずはカナちゃんの話が聞きたいな」
「いいとも。そうだ、いずれカナをお前の奴隷にしてやろう」
「僕は貴方の奴隷にされるんじゃないの?」
「まさか! 囚人の身に落ちようとも、王子は王子だよ……」
俺は予定通り、時間をしばらく稼ぐことにした。
彼はなぜヤクサさんがカナちゃんにこだわっていたのかを、子細に教えてくれた。
カナちゃんはジュノーに吸収されることになった亡国のお姫様で、生まれながらに盲目だったそうだ。
父親はヤクサさん。母親はお城から落ち延びたお姫様。
親子は逃亡生活を強いられながらも幸せに暮らしていた。
だけどカナちゃんが3歳の時に彼らはジュノー王家に捕まり、引き離された。
「服従を誓ったのは八草のほうや。涙ながらに娘と妻のために奴隷になるから、丁重に扱ってくれと頭を下げてきたんや」
「頼る相手を間違えたね」
「ひひひっ、ほんまやなあ……。ま、嫁さんも結局その後、事故で死んでまったんやけどなぁ……?」
こんな外道、初めて見た……。
アリクを陥れた検事キルゴールや、アリクを殺した殺人鬼ラドムの方がまだマシだ。
テレジア・ブルフォードにだって、彼女なりの仁義があった。
でもこの人は違う。
やっぱりこれは、野放しにしちゃいけない危険な人種だ……。
「それにしても……」
「え……?」
「綺麗なお手手だねぇ……。ちょっとわいと、握手をしてくれてもいいかねぇ……?」
「うわキッモッ……。あ、すみません、つい本音が……」
「ホホホホッ、慣れているよぉ」
「でしょうね。どうぞ」
席を立って握手を差し出すと、変態の手が二の腕にまですり寄ってきた。
皮脂でベタベタしていて、サブイボが出るくらい気持ち悪かった。
「どうですか?」
「ああ、絹よりも滑らかだ。夜が待ち遠しいよ……そのお腹は、もっと……ひひひひ……っっ」
「ぅ……っっ!」
夜までこの屋敷にいる気はないけどね。
俺は八草さんたちが無事に逃げおおすまで、今少しの時間をステリオスのところで過ごした。
「どうしました?」
「興奮し過ぎで頭が疲れてきたようだよ……。歳は取るものではないね……」
「今すぐお休みになられては?」
「ありがとう、そうするよ。ひひひっ、夜を楽しみにしているよ、アリク王子……」
ごめんね、残念だけど……。
それは頭の疲れではないよ、ステリオスさん。
俺はこのために、わざわざヤクサさんに自分をさらわせてまでして、遙々ここまでやってきた。
野放しにできない恐るべき怪物、ウェルカヌスの原動力そのものステリオス議長。
彼が所持していた固有スキルは【権謀術LV3】だ。
え、なぜわかるかって?
さっき抜き取ったからに決まっているじゃないか。
そのままにしておくのもなんだから、代わりに【ハラヘラズ】を入れていたよ。
美食家の彼には、良い健康管理になるかと思って。
俺の狙いは3つ。
1つ、ウェルカヌスの盟主であるステリオスから才能を盗み、無能に変える。
2つ、カナちゃんを解放する。
3つ、ヤクサさんに恩を売る。
俺はそのために、親の激怒を承知でこの奇策を実行した。
後は頃合いを見てここを脱走し、合流ポイントでヤクサさんと接触して、国に引き返すだけだ。
これがギルド職員アリクが1度も敵に使わなかった危険な力だ。
彼の力は、その道の天才をただの凡才に変える世にも恐るべき、天才殺しの力だった。
宣伝
書籍版ポーション工場2巻、6月30日発売です。
書籍版ではなろうではBANされちゃうので書けなかったあまーい初夜が加筆されています。
もしよろしければご注目下さい。
本作のストック、だいぶ減ってきています。
3章のために現在プロットを作っています。更新が滞ったらごめんなさい。




