・殺人鬼ラドムの起死回生 - 最期の日 -
汚ねぇぞ、あの野郎ども!
相手がギルベルドと知ったら俺が逃げると知って、わざと黙っていやがったな……っ!
「構えろ、殺人鬼ラドム。8年も図太く生き抜いた貴様に、今日こそ俺が天誅を下してやろう」
「ギルベルドさんよぉ、テメェに勝ったらシャバに戻れるって話、周りの連中に誓ってくれよ……?」
相手がヤベェと有名なギルベルド王子であろうと、こっちはフルプレートアーマーだ。
この条件で負けるわけがねぇ……。
近付いたところに飛びついて、圧死させてやればいい……!
「ああ、俺とカナン王家の名誉にかけて誓おう。貴様が俺を殺そうと、父上は貴様に恩赦を下そう」
「王として誓おう。我が子の命を奪おうとも、殺人鬼ラドムに恩赦を与える。……ギルベルドに勝てればな」
どういう自信があるのかしらねぇが、こいつらはバカだ!
完全武装の重装歩兵をどうやって倒すってんだよ!?
「ヒャハハハッ、こいつぁ傑作だ!!」
よっぽどこいつらにとって、このパフォーマンスは意味があるようだ。
それをぶち壊しにしてやるのは、さぞ楽しいだろうなぁ……。
俺は剣を握り締め、いつでもこいよと王子様に手招いた。
「昔、弟が世話になったそうだな」
「ああ? テメェの弟なんて知らねぇな」
「本人は望まぬかもしれぬが、この機会に仇を取ってやる。奴隷農園の元監視官ラドムよ、元ギルド職員アリクを殺め、未来の王妃リドリーを鞭打ったその罪、地獄でわびるがよい」
そいつぁ、たーのしぃ思い出だぁ……。
あのクソアマが苦痛に泣き叫び、青くせぇバカがそれを庇って死んだ!
最高の思い出だ!
クソアマはあの後、毎日泣き叫んでたぜぇ……!
自分のせいで、アリク様が死んでしまったぁぁってなぁっ!
会場の誰もがバカ王子を応援した。
バカ王子はそれに気分を良くしたのか、不用意にも歩きで距離を積めてきた。
「バカがっ、圧死しちまえっっ!!」
俺はその間抜けにタックルを仕掛けて、押し潰してやろうとした。
「ああ、そうくると思っていたぞ」
しかしやつは飛び退き、その青白い剣を俺のフルフェイスヘルムの面に振るった。
視界が急に開け、会場に興奮の歓声がとどろいた……。
なんか、頬が熱ぃ……。
き、斬れてやがるぅぅっっ?!!
「これが俺と弟のアリク、それにアグニアという天才鍛冶師が生み出した新たな鉄、アオハガネの力だ」
「な、なんなんだっ、その剣っ?! そんなの反則だろがよぉ、おぃぃっっ?!」
ギルベルドの野郎は俺に喋っているんじゃない。
対戦相手である俺を無視して、諸侯に剣の解説をしやがっていた!
「この剣は見ての通り、十分な膂力さえあれば、従来の剣を力任せに断つことが可能だ。この剣が普及した暁には、重装歩兵はただのノロマだ、蹂躙されることになろう」
そんな刃をどうやって止めればいいってんだよぉっ!?
クソッ、あの剣はヤベェ!
俺は迫り来るその青白い刃を、支給された立派な剣で受け止めた。
「お、俺の剣がぁぁっっ?!」
「近衛兵! ラドムに新しい剣をくれてやれ!」
な、なんだと……っ、舐めやがって……っ。
だが、だが助かる……。
俺は投げ渡された剣を這々の体で受け取り、再びヤツに構えた。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい……この男、強すぎる……っ。
こんな男に、こんな危険な剣を持たせるなんて、なんてことをしやがんだよぉぉっ、神様の野郎はよぉぉっっ!?
「己の運命を理解したようだな。そうだ、貴様の役目は恐怖することだ。貴様が今日まで多くの無辜の民を恐怖させた分、俺がその恐怖をお前にくれてやろう」
「よ、寄るな……っ、そんな剣不公平だっ、ずるいじゃねぇかよぉっっ?!」
「左様。しかし戦場においては、その理屈は通用せん。軍備を怠った方が悪い。そうは思わぬか、諸兄らよ?」
俺はギルベルドとかいうでかい男に、鎧を少しずつはぎ取られていった……。
腕ごとガンドレッドを叩き斬ることだってできるだろうに、俺は全身を浅く斬られては、流血に足下を赤く汚していった。
か、勝てるわけねぇ……。
こんな最強の戦士に、最強の剣を持たせたら、俺なんかに勝てるわけがねぇじゃねぇかよぉっっ!!
「命乞いをしろ。少しは聞いてやるかもしれん」
「へ、へへへ……そいつぁありがてぇ……。お、俺が悪かったよ、だからせめて、命だけは……」
俺はひざまずき、目の前に近付いてきたマヌケに向けて足下の砂を巻き上げた。
「ヒャハハハーッッ、誰が謝るかよクソッタレがっっ!! あ……?」
鉄をも断つ青白い刃が一文字に閃き、俺は地に崩れ落ちた。
いやぁ崩れ落ちたってってゆうか、胸から上が地面に落っこちた……。
なんか、意識が遠く、なってくな……。
あ、ありゃ、俺、いったい、どうなって……。
「見ての通りだ、諸兄らよ。アオハガネが現れた今、フルプレートアーマーなど意味をなさぬ。このアオハガネの刃に対抗できる物は、同じアオハガネの装備のみだ」
ああ……。
もっと、人を……殺したかったなぁ……。