・経済戦争に勝利するために、製鉄事業を拡大しよう - 蒼銀の刃は戦争史を塗り替える -
地味でかったるい事務仕事漬けの一日が流れゆき、そしてようやく夕方。
そういえば小学生の頃の45分は、大学生時代の2時間にも勝る異様な長さがあったなぁと、安請け合いを深く後悔しながら俺はソファーにぐったりと倒れていた。
そこに兄上が帰ってきて下の階が騒がしくなると、あちらの成果が気になっていた俺は当然ながら飛び起きた。
2階の書斎からエントランスホールに降りると、兄上は腰に新しい剣を吊していた。
いつかのように木工所で作られた間に合わせの鞘に剣を収め、俺を見るなり目の前に駆け込んできてくれた。
そして始まったのは、その剣の自慢だった。
「あの女、厚かましく口が悪い上に人使いが荒く汗臭い上に品性に欠けるが、腕は良い。見よ、この美しき刀身を」
「わぁぁ……凄い……っ。でも、どうやってそれに刃を付けたの……?」
抜かれたその刀身は青白く、まるで鏡面加工を施したかのように輝いていた。
兄上はそのロングソードがよっぽど気に入ったのか、しきりにそれを灯火に煌めかせている。
「うむ、包丁にするならば鉄の方が良いと言っていた。加工の難しさゆえに、鋭さでは鉄に劣るようだ」
「まあ、そこは仕方ないか……」
鉄よりも軽いところをふまえると、武器よりも防具向きの金属なのかな……。
「だが……。おい、この剣を持て!」
「はっ、これは城で支給される正規兵の剣ですな」
兄上は近衛兵の中でも最も親しい最年長の……そろそろお兄さんでは通用しないおじさんに剣を持たせて、俺たちを夕焼けの庭園に誘った。
おじさんは正規兵の剣で。
兄上はアオハガネのロングソードで、力一杯打ち合う。
すると正規兵の剣がまっ二つに折れて、遠くの楓の幹に突き刺さった。
「どうだ、アリク。お前の提唱した新しい鋼は、実に素晴らしかろう……」
「う……うわー……。な、なにそれ、こわい……」
斬鉄剣って、実在したんだ……。
相手の剣を硬度任せに破壊するだけなら、やや鈍い刃でも何も不都合はなかった……。
「ククク……これを揃えた軽装歩兵に、重装歩兵が蹂躙される未来が見えるぞ……」
「あれだけの衝撃を受けたというのに、刃こぼれ一つしておりませんな。メイスやハンマーしか通用しなかった重装歩兵に、刃が通用する時代になりますか」
こわ……こわい……。
何も知らない重装歩兵側になってみれば、それって怖いどころじゃなくて、死ぬ……。
俺たちの新しい鋼、アオハガネはこの先、多くの人間を殺すことになるのだろう……。
「どうしたアリク、喜べ」
「う、うん……や……やったぁ……」
前向きに考えよう……。
鉄を超える強度を持った軽量な鉄、アオガハネ。
これは最高の馬車の車軸になるし、各種工作工具にすれば耐久性もバッチリ。
斧みたいな叩き斬る系の道具とも相性が良い……。
この鋼で将来のどこかの戦争で人がたくさん死ぬけど、生活や工業技術は向上する……。
俺は悪くない、ごめんなさい、恨まないで重装歩兵さん……。
「ふっ、己の才能に恐れるのは己というわけか」
「違うよっ、そんなドン引きの剣になるとは思っていなかっただけだよーっっ!!」
「俺は朝一番でこの剣を父上に献上しに行く。外交官たちの前で、重装歩兵を丸裸にするショーを見せるとしよう」
「うん……。それは鎧の中の人の気持ちも、察してあげてね……相当に怖いことだと思うから……」
「ああ、事情を伝えずに悲鳴を上げさせた方が良いパフォーマンスになろう。ククク……ッ」
公開処刑かな……。
俺は惚れ惚れと何度も刃に魅了される兄上にまたドン引きした……。
兄上はそのパフォーマンスで成功を収めるだろう。
国外諸侯はアオハガネの戦略的価値を認め、経済封鎖は自国にとっても極めて危険と、賢明な君主ならば判断するはずだ。
これからこのアオハガネは、鉄を超える新たな戦略物資になるのだから。
「アリクよ、前もって言っておくが、くれぐれも俺の不在の間に、バカなことはするな。お前のあの策は、強力なのは認めるが、不確定要素が多過ぎる」
「うん、ここで新しい高炉を増やして、木炭の納入ルートの安定に努めるよ。隣国に人を送って、炎魔法使いも確保したいね」
懸念材料であったスラグはアオハガネとなって、貨幣価値を認めさせるのに十分な性能を俺たちに見せつけた。
後はここで手を尽くして、鉄の生産量を5倍以上にするだけだ。
ウェルカヌスを経済封鎖ではなく、自由経済で叩き潰してやる日が着々と近付いていた。
しかしそれは、ヤクサさんの娘カナが凄惨な末路を迎える瞬間への、残酷なカウントダウンでもあった。
俺は兄上たちのようには割り切れない。
どうしても『カナ』って名前が頭から消えなかった……。
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