・経済戦争に勝利するために、製鉄事業を拡大しよう - チターン -
炉の成形が完了すると、すぐにその炉に火が入れられた。
今回はアグニアさんではなく、冒険者ギルドから引き抜かれた炎魔法使いさんが焼成を受け持ってくれた。
兄上も俺も今の現場に残りたかったけれど、兄上が残ればみんなの気が持たないかなと思って、俺は兄上を屋敷の書斎に連れ帰った。
予定よりも早く帰ってきた兄上に、ターニャさんがまた悲鳴を上げていた。
「楽しみだな、成功すると良いのだが……」
「兄上、そのセリフはもう7度目だよ」
「俺が自ら手足を汚して作った炉だ。ふっ、成功してくれなければ困る……」
「さすがに一発で成功はないと思うけど……」
せめて耐火性の大きな向上を観測できると希望が持てる。
そこから粘土の配合を工夫することになるだろう。
「あの青白い鉄は良いぞ。あれを貨幣にするとは、お前も考えたものだ。必ず上手くゆく」
「そのためには優れた金属であることを、誰かが証明しないといけないけどね」
俺たちは炉の完成を今か今かと待った。
俺たちは全く似ていない兄弟だったけど、ソワソワと首を横に振るしぐさを、同じ父親から受け継いでいた。
ちなみにこのまま生産量を5倍にすると、グリンリバーがいずれハゲ山だらけになってしまう。
そして木炭がもしなくなれば、鉄の生産がストップしてしまう。
電話もファックスもインターネットもトラックもないこの世界では、物資を安定供給させるだけでも大変な大仕事だった。
俺たちは書類仕事を2人でしながら、その後昼食を共にした。
・
「ギルベルド様、アグニア様から報告です」
「おお、どうなったっ!?」
だいたい食べ終えた頃、あちらに付けておいた近衛兵さんから報告が入った。
「炉の焼成が終わりました。これよりアオハガネの溶解に入るとのことです」
「あおはがね……?」
「アリクが言う話では、チターンという鉄ではなかったか?」
「うっ……?!」
ついどうでもいいところで吹き出しかけてしまった。
チターンじゃないよ兄上、チタンだよ……。
でもチタンじゃないみたいだし、名称はアオハガネでいいのかもしれない……。
「悪くないネーミングだね。もう少し仕事を進めたら見に行こうよ、兄上」
「意外だな。今すぐではないのか?」
「今は僕たちがやるべき仕事を進めるべきだよ」
それに、兄上が現れたら現場は気が気じゃないだろう……。
ターニャさんのリアクションが正常で、アグニアさんが異常なんだ。
「楽しみだな、成功すると良いのだが……」
「兄上……」
兄上がそのセリフを口にするのは、10を超えてから数えるのをもう止めていた。
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