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・経済戦争に勝利するために、製鉄事業を拡大しよう - 兄の後ろ姿 -

 リアンヌと大公様は塩。

 母上とトーマは原鉱探し。

 父上とジェイナスは外交と政治。


 そして残る役者である俺と兄上は――


「アレがクリンリバーか!」

「う、うん……」


 実は今、俺たちは一緒にいる……。

 弟は兄のスポーツカー――もとい脚の速い葦毛の名馬の後ろに乗せてもらい、現在超特急でグリンリバーに運ばれていた。


「なんの変哲もない田舎町だが、お前の領地と思うと誇らしく感じられるものよ」

「僕のじゃないよ。僕はただの代官で、いずれは兄上の物になる町だよ」


「ならば俺が王になったら、お前にこの地をくれてやろう」

「はは、兄上らしくもない安易な口約束だね」


 貰えるなら貰いたい。

 だけどここはいずれ製鉄の拠点になるんだから、人に譲れるものではなくなってゆくだろう。


「お前の功績を考えれば、旧ブルフォード侯爵領を丸ごとくれてやりたいくらいだ」

「それは領民からすれば、複雑過ぎると思うけど……」


「しかしもっと早く、お前とこうしているべきだったな」

「え……?」


 兄上の言葉が急にやさしい響きを持ち始めて驚いた。

 この人にもこんなやさしい声があっただなんて、心底意外になるほどの声だった。


「アリク、お前とは考え方がまるで合わぬところがあるが……。俺はお前が好きだ」

「ぇ……本当……? 僕のこと、本当は嫌ってたり、しない……?」


 下り坂が険しくなってくると、兄上は馬を走らせるのを止めて歩かせた。

 弟は兄の背中にしがみついて、ずっと聞きたかったけど聞けなかったことを聞いた。


 兄上は後ろを振り返らなかった。


「お前を嫌う者などいるものか。くせ者だらけの貴族社会で、お前は善良であるがゆえに人に愛されるのだ」

「でも……。でも僕と母上は、兄上たちから離宮と父上を……横取り、したんだよ……?」


「はははは!」


 弟の弱々しい問いに兄は大笑いした。

 らしくもない兄上の様子にこっちは目を丸くしてしまっていたと思う。


「子供の頃は、父と母の大ゲンカに枕を涙で濡らしたものだ。ケンカしないでくれと、俺が涙ながらに訴えても、父も母もああいう人たちだからな……」

「ケンカ……? そうなんだ……」


「子供の涙一つで夫婦の仲が直るようなら、どこの家庭も円満そのものだろう。子供が何を言ったところで、どうにかなる物ではなかった」


 兄上は恐い人だけど、小さい頃は普通の子供だった。

 当たり前だけど、それが俺には意外だった。

 もっと、修羅みたいな子供を想像していた……。


「悪いのは父と俺の母だ。お前とリドリー王妃に罪はない。無論、俺はお前たちを恨めしく思ったことなど一度もないぞ」

「ほんとう……?」


「ああ。むしろ……なんとまともな家族の有り様であろうかと、つい感心してしまうくらいだ」


 照れ隠しなのか、兄は緩い下り坂だというのに馬をまた走らせた。

 俺は弟として兄上の背中にしがみつき、『ああ良かった』と安堵した。


 兄上は本音がわかりにくい人だったから……。


「細かなことは補佐の俺が全てやってやる。お前は伸び伸びと動け」

「ええ……っ。いや、僕の仕事を取らないでほしいんだけど……っ」


「安心するといい。俺たちの仕事は山ほどある!」


 そう声を張り上げながら、兄上はやっと後ろを振り返ってくれた。

 兄上がこんなに明るい笑顔を浮かべることができるなんて、知らなかった。


「……それもそうだね。がんばろう、兄上」

「ウェルカヌスはやり口が気に入らん。兄弟でやつらに一杯食わせるぞ」


「うんっ!」


 快速の馬で坂を下って、俺たちは民の注目を浴びながら街を突っ切り、領主の館に入った。


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