・ウェルカヌスの謀略の嵐 - お金がない -
王宮に到着すると、父上が政務室で待っていると聞かされた。
「え、私も一緒に行かなくていいの?」
「リアンヌは離宮で母上のご機嫌取りをお願い。僕と父上にとって、母上の機嫌は政務に次ぐほどに大切な問題だから」
「なんかそこから先ってピリピリしてるっていうか、異様な雰囲気があって苦手なんだよね、私……。わかった、そうするね!」
「僕も出来ることなら、あまり近付きたくない場所だよ」
リアンヌと別れて政務室を訪れると、中からジェイナスが現れて中へと迎えてくれた。
既に大公様の伝令がこちらに報告を入れてくれている。
俺は具体的な詳細を伝えるためのその第二波だ。
「怪我はないか、アリクッ!」
部屋には兄上もいた。
兄上は弟を心から心配してくれていた。
「兄上もきてたんだ……。うん、トーマが奮戦してくれたおかげで無傷だよ」
「アリクよ、トーマはどうした?」
しかしそこにトーマ・タイスの姿がないと気付くと、父上もとても心配そうにこちらをうかがった。
「ヤクサって名乗る凄く強い剣士さんと戦って、トーマは軽傷を負った」
「なんだと? それはもしや、あの剣闘士の八草ではないだろうな……?」
「知ってるの、兄上?」
「ウェルカヌス最強の剣闘士と聞いている。それと張り合って生き残ったとすれば、幸運だけでは片付くまい。見事だ」
強いわけだった。
父上はトーマの無事に安堵して、兄上はトーマの武勇を高く賞賛した。
そして俺はというと、これから暗い報告をしなければならないわけで、つい重いため息を吐いてしまった。
「アリクよ、塩田はどうなった? ガルム傭兵団の大軍と、剣豪八草の襲撃を受けたとあっては……」
「守れはしたよ。でもちょっと目をつぶりかねる被害が出た」
被害状況を父上たちに報告した。
兄上も父上も好きだけど、時々見せる鬼の顔がとても苦手だ……。
ジェイナスは落ち着いていたけど、二人は目つきを鋭くして静かにキレていた……。
これはリアンヌを先に離宮に行かせて正解だった。
父上たちのこういう恐い側面を、リアンヌには知らずにいてほしかったから……。
「ふむ、報復戦争するにも距離が離れているか……」
「せ、戦争ってっ、ちょっと父上!」
父上は本気で戦争を検討していた。
「父上、反撃するには大型船と海軍が必要だ。それに次に同じ手を打たれたらたまらんぞ」
「僕は反対。経済的に見ると、戦争なんてただただ不毛だよ」
普段はこういう話には不干渉だけど、今回は見ていられなくて俺は口を挟んでいた。
「弟よ、お前の考えも正しい。だがな、これは国家の威信に関わる。これを許せば、諸国もいずれ同じ手を打ってくるぞ」
「うむ、十分にあり得る話だ。ともあれ、何かしらの反撃が必要になるだろう」
秩序……秩序って、何……?
国取りだって珍しくないこの時代において、国家の一つ一つが狼の群れみたいなものなのかな……。
そしてそんな時代で甘いことを言っていたら、何も守れずに滅ぼされるのがオチなんだろうけど……。でも……。
「無理だよっ、攻撃できるほどの海軍なんて作ってたら、お金がいくらあっても足りないよっ! 軍事以外の方法で反撃をしようよ!」
しかしながら共通する部分もある。
それはお金。お金がなければ戦争なんてできなかった。
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