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・アリクもうじき6歳 突然の縁談と、悪女サーシャに訪れた暗雲

 父上は懐の深い男だ。

 そんな父上がレスター様を気に入るのは必然だったのかもしれない。


 二人は会食を重ねるごとに親しくなっていった。

 最近ではジェイナスを加えた三人で、わざわざ城下の店に出かけることも増えていた。


 そのたびに父上は泥酔して帰って来て、やさしい母を困らせた。


「もう、弱いのだから無理をしない約束だったではないですか……」

「は、ははは……レスター殿と一緒だと、つい楽しくてな……うっぷっっ!?」


「ちょ、ちょっとお待ち下さいっ! アリクっ、バケツか何かを早くっ!」

「あ、うんっ!」


 瞬間記憶能力を持つと、とっさの機転が利くようになる。

 どこに何が置かれているのかを覚えていられるようになる。


 少年は居間のテーブルで背中をさすられる父の元へ、壁に掛けられていた白磁の大皿を超特急で運び、無垢な笑顔を作って差し出した。


「ア、アリクッ、それは先々代から続く、うっっ?!!」

「ぼくたちをおいて、レスター様とあそんだ父上がわるい」


 二人が親しくなってくれたのは嬉しかったけれど、なんだか仲間外れにされているような気分になった。

 俺が知らないところでどんどん計画が進んでいっていた。


 ギルドの名前もそうだった。

 レスター様率いる新ギルドは『(ルキ)の天秤』と名付けられた。


 業績は四半期だけで1700万シルバーの堂々の黒字。

 中抜きをしていたサザンクロスギルドと官僚の繋がりを断っただけで、莫大な利益が入って来た。


「あれ、おかあさん……? 父上は……?」

「今日はアリクと寝ます。今日はロドリック様から酸っぱい臭いがして、あそこじゃ眠れそうもないもの……」


「いいよ、いっしょにねよ」

「うん、そうしましょ。……あ、そうそう、アリクは女の子に興味はある?」


「え、なんで……? ないわけじゃ、ないけど……」


 けどギルド職員アリクだった頃の彼女、サーシャがトラウマだった。

 あの女、ギムレットの息子と結婚したそうだけど、今はどうしているんだろう。


 ジェイナスが教えてくれた話だと、ルキの天秤の躍進の陰で、サザンクロスは傾き始めているそうだけど……。


「アリクは、女の子のお友達が欲しくない?」

「……えっ? な、なんで、きゅうに……?」


 つい不安な声が出てしまうと、リドリー母上がやさしく俺に微笑んだ。


「大丈夫、とってもかわいい女の子よ。アリクより2つ年上だけど、やさしい子だから……」

「え、あの、母上……?」


「今度、お母さんと一緒にその子に会いに行きましょうね」

「な、なんで……?」


 今は女の子なんてどうでもいい。

 それよりもっと身体を鍛えて、勉強をして、立派な王子になりたい。


 陰からルキの天秤の支援がしたい。

 この瞬間記憶能力を使って、王宮の書庫を制覇したい。


「……きっと気に入るわ」

「母上っ、なんではなしをぼかすのっ!?」


 これって、まさか、え、縁談……?


「大丈夫。大丈夫よ?」

「け、けど……」


 俺は2つ上のお姉ちゃんと会わなきゃいけないそうだった。



 ・



・ギルド職員サーシャ


 私は勝ち馬に乗ったはずだった。

 ギルドマスターの息子のリーガンと結婚して、贅沢三昧の人生を少し前まで満喫していた。


 なのに!

 レスターの裏切りのせいで、私のバラ色の人生が狂った!

 毎週が予定外の連続だった!


「今日限りで辞めさせていただきます」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! せめてそういう話はっ、ギムレットお義父様がいるときにしなさいっ!」


 ここは冒険者ギルドサザンクロスの本部。

 休暇のはずの同僚が突然やって来て、辞表をカウンターに置いた。


「辞表、確かに渡しましたから」

「待ちなさいって言ってるじゃない! あなた、サザンクロスを裏切るつもり!?」


「辞めるだけです」

「嘘! レスターのギルドに行くつもりでしょう! この裏切り者!」


 私が糾弾すると、同僚はこっちを鼻で笑った。

 カッとなって私はカウンターに両手を叩き付けた。


「何よっ、言いたいことがあるなら言いなさいよっ!」

「アリクのやつを裏切っておいてよく言いますね」


「っっ?! そんなの大昔のことじゃない! あっ、待ちなさいっ、待ちなさいって言ってるのよっ!」


 辞められると困る……。

 労働者が減ると、私が遊んで暮らせなくなるじゃない……。


 引き止める方法がわからなくて、私は元同僚を背中を見送るしか出来なかった。


「おい、何ボーッと突っ立ってんだよ?」

「ああっ、ギムレットお義父様! 大変なのっ、またなのっ!」


 辞表を見せると、お義父様は苛立ち混じりに私から辞表を引ったくった。

 てっきり怒り散らすかと思ったのに、お義父様は震える手で呆然と辞表を見るだけだった。


「代わりにお前が店に出ろ……」

「なんで私が!」


「うるせぇ、これまで十分遊ばせてやっただろが! その分、今働け!」

「私は奴隷じゃない! ギムレットお義父様の娘よ!」


「だから働くんだろが! 甘えてんじゃねぇ、このクソアマ!」


 ああ、レスターが憎い……。

 どうしてこんなことに……。


 夫リーガンとギムレットお義父様の精神は、日に日に暗く不安定になっていった。

 レスターのやつらが独立したせいで、サザンクロスギルドの収益が大きく落ちているせいだった……。


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