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・奴隷剣士と黄金の魔弾 - 季節外れの海水浴 -

・八草


 これは外道だけが思い付き、真の外道だけが実際に実行できる最低最悪の策略だ。

 俺の不倶戴天の敵にして、主人でもあるステリオスのこの策略は、恐ろしく用意周到かつ金の掛け方が大胆だ。


 まさか塩田を潰すためだけに、金食い虫の大型帆船を2隻も運用するだなんて、そんな狂ったことを考え付くのはステリオスくらいなものだ。


 そのためこの場にいる誰もが、この奇襲作戦の道は決して曇らぬ黄金で舗装されているとばかり思い込んでいた。


 アイギュストス領辺境への襲撃もまた、二段構えの策略のうちの1つだ。

 ステリオスは傭兵とは名ばかりの農民崩れに金と装備を与え、襲撃を命じた。


 予定通り仁君アイギュストス大公が辺境の民の安全を優先すれば、陽動となってよし。


 もしも民を見捨てて塩田の防衛を優先すれば、今度はステリオスの息のかかったカナン諸侯や市井に紛れ込んだ工作員が、大公家および王家を厳しく非難する。


 蛇のように執念深く、狐よりも狡猾なステリオスらしい狡猾な駒運びだった。

 海上からアイギュストス塩田に迫るは、副団長ギグ率いるガルム傭兵団の悪党ども約400名。


 塩田の奇襲、破壊、焼き討ちをそれぞれ済ませ次第、俺たちは再び夜の海を渡って母船に戻る。

 ステリオスはこの時のために、塩田に撒く毒まで用意させていた。


 だが……。


「おいヤクザッ、なんなんだよ、こりゃぁっ?!」

「知るかよ、指揮官はアンタだろ」


 しかし俺たちは今、冷たい海の上でもがいている。

 恐慌状態に陥った傭兵たちは、サイコパスだらけの集団なのが今回は災いして、隣のやつにしがみついては自分だけ浮き上がろうとしている。


「ウゲッッ?! テ、テメェッ!!」


 俺はそうしてくるギグに蹴りを入れて突き放した。


「自分で泳ぎやがれ、気色悪い」

「おいっ、テメェのガキがどうなってもいいのかよっ、アアッッ?!」


「……ああ、悪かったよ、ギグ。言い過ぎた」


 俺は謝罪しながら、いつかコイツはぶっ殺すと心に決めた。

 俺の娘に危害を加えるやつは全員殺す。


「げほっげほっ、しょっぺぇ……っ」

「海水浴を楽しむような時刻じゃぁねぇな」


「ちっくしょぅ……誰だ……」

「あん……?」


「誰が俺らを売りやがった……っ!! なんなんだよぉっ、アレはよぉぉっ!?」


 ギグは憎悪の目を岸に向けた。

 クソ迷惑にも人を浮き代わりにしながらな……。


「さあな。宰相小姓ジェイナスは切れ者と聞く。襲撃を見抜かれていたか、あるいはまあ、裏切りもあり得る……。お前らは揃いも揃ってクズだからな」


 だが理解できねぇのはこの鋭い風の嵐だ。

 これは自然現象ではなく、沿岸からのウィンドボルトか何かだと俺は推測する。


 距離もあって殺傷能力はさほどでもねぇが、コイツのせいで俺たちは小舟から落ち、その小舟は沖に流されちまった。


 いったいどれだけの魔法使いがあちらに配備されているのやら、弾幕の密度が狂ってやがる……。


「どうする、ギグさんよ? 敵さんはやり手だ、突っ込めばしっぺ返し待っているかもしれねぇよ?」

「上陸だ! 上陸しちまえばこっちのもんだ!」


「ならそう命じな。娘のためだ……逆らったりはしねぇよ」

「テメェら前進だっ、前進しろ! あんな攻撃、長続きするはずがねぇっ、今だけの苦しまぎれだ!」


 どうもわからなくなってきた。

 確実に勝てる胸くそ悪い戦かと思っていたが、なかなか歯ごたえがある相手だ。


 どんな野郎がこの黒い海の向こうで俺を待っているのか、興味が湧いた。


「おいっ、どこに行くつもりだヤクザ!?」

「矢面に立つのはゴメンだね」


 俺は夜の海を潜水して、右回りでの迂回で塩田防衛隊に遊撃を仕掛けたい。

 俺が敵を攪乱すれば、上陸も容易となる。


「そうか、なら前に立て。俺たちガルム傭兵団の弾除けになれ」

「おいおい、勘弁してくれよ、旦那……」


「逆らうか? おい、ステリオスに報告すんぞぉ? そうだ、お前の娘の指を切り取るように――」

「止めろっっ!! わかったっ、わかったから突っ込みゃいいんだろっ、正面からよぉっ!!」


 逆らえねぇ。だが死ぬわけにはいかねぇ。

 ああ、人生ってよ、一寸先は闇になっているって、マジなんだな……。


 正体はさっぱりわからねぇが、この向こうにいる連中は何かヤベェ。

 相手側の指揮官は、恐ろしく勘の鋭い野郎だ。


 こうなることをわかって、事前にこれだけの数の魔法使いを塩田にかき集めていたんだからな。


 すまねぇ、カナ。

 父ちゃんがここで死んでも、どうにかお前だけでも生き残ってくれ……。


 俺は潜水で正面の味方の下を潜り抜けると、海面に浮上して前進した。


 すると、だ。そっからはさほどでもなかった。

 敵は密度の高い中央ばかりを狙い、最前線には風の弾幕を撃ってはこなかった。


 分断が狙いなのかもしれねぇが、その判断が間違いだったと思い知らせてやる。

 俺は繰り返し潜水し、そしてまんまと砂浜へと接岸してやった。


 息を潜めて呼吸を整えていると、泳ぎ上手の傭兵たちが俺を追い抜いて前進してゆく。

 ところがそいつらが突然、鋭い風切り音が響くなり吹っ飛んだ。


「な、なんだっ、何が飛んできた!?」

「立ち止まるなっ、進め、進め!」


 きらめく何かがバリケードの向こうに戻っていった。

 そしてそれは風を切り、再び一筋の黄金の矢となって、外道どもをまとめて吹き飛ばした。


 そいつを食らった連中は波打ち際まで吹っ飛ばされ、うめき声を上げて立ち上がれなくなっている。


「ナイスッ、アリク!」

「名前を呼ばないでよっ、敵が活気付くじゃないか!」


 砂浜が突然せり上がって、新たなバリケードが生まれた。

 そこに輝く髪をした何者かが飛び込み、アリクとやらに感謝した。


 俺はひりつくような焦りを覚えながらも、起死回生のチャンスをこの死地に見出した。


 アリク! アリク王子!!

 俺とカナの自由の引換券!!

 そいつさえ捕まえて戻ればよ、俺とカナは人生をやり直せる!!


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