・不知火とヘビーマシンガン
塩田では小さな兵舎が建てられ、そこに警備兵さんたちが駐屯している。
突然突っ込んできた騎馬に彼らは警告と弓を向けてきたけど、馬にまたがるリアンヌの姿に腰を抜かした。
「リアンヌ様っ、ここは危険――んなっ、発明殿下じゃねぇですかいっ!?」
「やあ大将。大将も僕たちと同じ腹かな……?」
驚いたことに塩田には多くの民兵が集まっていた。
襲撃の報告を聞いて、次はここが狙われるとみんな気付いていたみたいだ。
それは職業軍人が少ない世界だからこそ成り立つ勇敢さだった。
さすがの彼らも、幼い王子と公女を戦場になるかもしれない場所から遠ざけたがったけど、俺たちが要求を飲むはずもない。
もちろん揉めたけど、最後は俺たちが勝利して駐屯地である大倉庫に通させた。
そしてざっくりとそこで、こちらの状況を聞いた。
敵の狙いは恐らく、木造の水門と、塩釜と、各種備蓄倉庫と、労働者だろうと。
それに加えて、さっきから気になることがある、と。
「海……?」
「へい、あちらをご覧くだせぇ、発明殿下。妙じゃありませんかい……?」
大倉庫を出て、大将の指を追うとその先は深夜の海だ。
底知れぬ闇に包まれた真夜中の海に、いくつもの小さな光が微かにちらついていた。
「漁船の光にしては多いような……」
「てかこんな時間に漁をする人なんて、このへんにはいないよーっ!?」
「じゃあ、あれは何……?」
「発明殿下……さっきの気になるって言葉は撤回でさ……。ヤベェッ、さっき見たときより数が多くなってますぜっ?!」
そうか、海路か……。
北は陽動で、敵は海路から東海岸にあるこの塩田を襲おうとしている。
あの無数の光は一つ一つがたぶん小舟で、もうすぐそこに迫ってきている!
たかが破壊工作のために遠方から船を出すだなんて、なんてお金のかかる策略を選ぶのだろう。
「馬に乗れる人いるっ!? うちの馬使っていいから、お父様に援軍を急がせて!」
「ちょ、ちょっちょっ、待って下さいよ、姫様! ダメですっ、発明殿下もすぐに逃げて下さいよっ!!」
大人からするとそうだろうけど、こっちだって王家の興亡がそのまま自分や母の首に繋がる立場だ。
ここから逃げる気はない。
「そこに矢除けになるバリケードと、海岸に篝火を作るね」
「え、今から……?」
「へへ、器用貧乏って意外と良いものだね。アースウォールッ!!」
あの日リアンヌを襲った傭兵から奪った【土魔法・中級】を使って、俺は地面を隆起して砂のバリケードを作った。
それから【焚き火】スキルを使って、倉庫にあった木製のバレットに火を付けてみせた。
「うん、スキルの力かな、結構長持ちしそう。どんどん着火するから、みんなは海岸にこれを突き刺してきて」
気分はノルマンディ上陸戦だ。
闇に乗じて海から迫る敵を照らし出して、陸上から迎え撃つ。
「いいなぁ、そのキャンプっぽいスキルも楽しそうでいいなぁ……っ」
「リアンヌには暗視があるでしょ。敵の監視は任せたからね」
「うん、なんかうっすらと人影が見えてきた!」
「どんなやつら?」
「んー……革の茶色と、肌色が見える、かな?」
「え、肌色? 裸の上に、革鎧を着ているってこと……?」
「あ、そうかも。わぁ、なんかヤバそーな人たち……」
「そんな正規軍、世界中を探してもそういないだろうね」
俺たちは海を介した夜襲を待ち構えた。
敵もこちらの動きに気付いたようで、しばらく動きを止めていた。
けれど誰かが判断を下したのだろう。
海の上から弓矢がこちらに飛んできて、再び敵がこちらに迫ってきた。
「アリクッ、やっちゃえ! マシンガンウィンドボルトだ!」
「悪くないね。船を相手にするには良いかもしれない」
こちらの大半は民兵だ。弓兵は十名にも満たない。
俺たちは砂のバリケードを盾にして、上陸を見守るしかない状況だ。
そんな中、俺は撃てば5発出るコスパ最強のウィンドボルトを船団に放った。
この闇じゃ成果はわからないけど、だいぶ派手な悲鳴が聞こえた。
「うぉっ、すげぇ! 発明殿下は魔法まで使えたんですかいっ!?」
「もっともっと! 100連発ぶちこんじゃえっ!」
「大人しく接岸させてあげる理由もないね。わかった、見ててね、リアンヌ」
「うんっ、悪いやつらをやっちゃえーっ! 神風アタックだーっ!」
「そこは防人にしておこうよ」
敵は上陸を狙う揚陸艦で、俺は砲撃を任された砲兵あたりかな。
俺はヘビーマシンガンのように術を動かし、闇の中の小舟と水兵を薙ぎ払った。
そしたら想像と逆の結果となった。
俺たちを遅う弓の嵐が、さっきまでの3倍くらいの密度に変わった!!
敵船は松明の炎を強くして、俺たちの想像を越える大船団となって海上に現れた!!
「わはぁっ、見て見てアリクッ、もうこれ戦争だよっ、あはははっ!」
「笑えねぇですよぉっ、姫様ぁっっ?!」
海を埋め尽くす小舟と、それに乗った荒くれ者と、母艦とおぼしき巨大な貿易船が海上にある。
俺たちを油断させるために、わざと射撃の密度を下げて、船団の先頭にだけ炎を灯させていたのだろう。
「二人に白兵戦を任せたくはなかったんだけど……。接岸されるのも時間の問題だね……」
「殿下の護衛は自分にお任せを。リアンヌ様は遊撃なされて下さい」
「へへへ、これを使う時がきたみたいだね」
そう言ってリアンヌが取り出したのは、プロ野球選手のストレートボールよりも危険な凶器にして、浮遊盾。迷宮で眠っていたあの金貨だった。
あれを食らったら、革鎧の上からでもただでは済まない……。
「敵に同情を。接岸しない方が幸せかもね……」
俺は昼に使ってしまった魔力の残りかすをかき集めて、せめてもの情けと思い、再び真空波の砲撃主となって敵船を薙ぎ払っていった。
おためごかし言われようとも、アイギュストス塩田を失えばこんな小競り合いどころではない被害が出る。
敵兵の生死なんて考えずにとにかく撃って撃って、撃ち続けた。
投稿が遅くなりました。




