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・真夜中の異変

 外が騒がしいと思った。

 けれどどうしても眠たかったから、隣のあったかな温もりにしがみついて、もう一度まぶたを閉じた。


 そしたら次は、屋敷の一階の辺りが騒がしくなってきた。

 そこで不思議に思ってだるいまぶたを開けると――


「なっ、なぁぁっっ、なんで君がここにいるのっっ!?」


 目の前でリアンヌが俺を見つめていた!!


「だってここ、私の部屋だもん」

「え……あ、ホントだ……。あっ、ごっ、ごめんっ、リアンヌッッ!」


 リアンヌはやさしく俺に微笑むだけだった。

 彼女はベッドの上でしがみついている俺から離れると、窓辺に寄って外をのぞいた。


「ねぇ見て、うちの兵隊さんたちが庭に集まってる……。こんなの初めて……」


 飛び起きてリアンヌと一緒に窓から顔を出し、庭園を見下ろした。

 そこには篝火が焚かれ、屋敷の外から次々と武装した兵士さんたちが集まってきている。


 あんなに強いリアンヌが不安そうに一点を見つめてばかりいたので、俺は勇気を出して年上の婚約者の手を握った。


「あ……。へへへ、ありがと……」

「わかるよ。僕も任された領地でこんな不穏な雰囲気が流れたら、凄く不安になる」


「アリクの領地、行ってみたいな……」

「今度ご招待するよ。川がとても綺麗なんだ」


 それから少しするとリアンヌの部屋の扉が叩かれ、すぐにトーマが中へ通された。


「アリク様、領境の農村が襲撃を受けました。アイギュストス大公は軍を編成し、迎撃に向かうようです」

「それは穏やかじゃないね」

「私っ、お父様のところに行ってくるっ!」


 リアンヌは居ても立っても居られなくなったみたいだ。

 部屋が飛び出してゆき、俺とトーマだけが暗闇の中に残された。


 アリク王子はリアンヌの部屋でまたもや寝てしまったって、そう報告が母上たちに行くことになるのだろう。


 ……なんて考えている場合ではない。

 楽観視なんてできないこの事態に、眠気も吹っ飛んでいた。


「殿下はどう思われますか?」

「先にトーマの意見が聞きたい」


「では恐縮ながら申し上げます。これがウェルカヌスの破壊工作だとしたら、なぜ塩田を攻めないのでしょうか?」


 とはいえまだ少し頭が寝ぼけていたし、もう一度窓から外を眺めて考え直した。

 きっと大公様も気付いているだろう。


 間違いなくこれは陽動だ。


「殿下、敵の狙いは塩田です。塩田さえ破壊すれば、ウェルカウスの経済封鎖は完璧な物になります」

「うん……カナン王国は屈服するしかなくなるだろうね。他の戦略物資はともかく、塩だけはまずい」


「大公様は国境に軍を派遣するおつもりです」

「大公様はやはりおやさしいな。父上や兄上なら、最低限の兵しか割かない状況だ……」


 暗視スキルのおかげで、夜の世界は輝いてすら見える。

 夜歩きにハマってしまいそうな力だった。


「俺たちは塩田に移った方がいいかもしれないね。大公様に詳しい話を聞こう」

「いえ、殿下。自分としては、殿下にはここから落ち延びていただきたいのですが……」


「嫌だよ。あれは僕が作って、リアンヌが守ってくれた大切な物だ。僕たちはすぐに塩田に向かおう」

「殿下! 今回ばかりは平にご容赦を!!」


 当然だけどトーマは俺の判断に大反対した。

 けれど俺は譲れなかった。


 ならば庭園で指揮をする大公様と会って、さらに詳しい話を聞こうということになった。

 すると現状でわかる限り、北方の5つの村が襲撃を受けていることがわかった。


 こちらが陽動に気付いていようとも、通信技術が発展していないこの時代では、動いた兵を呼び戻しようがない、とも。


 屋敷のエントランスでは、傷だらけの兵士や農民たちが治療を受けていた。


「お恥ずかしいですが、急ぎ動かせる兵力はこの程度のものです」

「大公様はこの人たちを北に回すつもりなんだね」


「陽動とわかっていようとも、民を見捨てることはできません」


 図書を通じて気付いてはいたけれど、この世界の国家や諸侯はとにかく奇襲に弱い。


 兵を集めるには時間とお金が必要で、いつでも動かせる職業軍人を千人規模で雇用していたら、すぐに領地が財政破綻してしまう。


 庭園に集まる兵士たちは、暗いからわからないけど、まだ300名にも満たないように見えた。


「僕とトーマは先に塩田に行くよ。できるだけ早く人を回してね」

「なりません! 貴方は王都にお戻りを!」


 大公様がいつになく厳しく、叱るように俺へと迫った。


「どっちにしろ塩田がやられたら、カナン王家は終わりだよ。それに――どうやら最強の護衛が付くようだ」


 だけどそこに馬を連れたリアンヌがやってきて、俺と肩を並べた。

 リアンヌが隣にいるだけで、とてもじゃないけど負ける気なんて起きなくなった。


「良いところにきた、リアンヌ! アリク殿を王都まで護衛しなさい!」

「うん、私たちに任せて! アリク、後ろ乗って!」


 あ、これ、わかってないやつだ……。

 リアンヌは跳ねるように馬にまたがり、アリク王子に手を差し伸べた。


「ま、待ちなさいリアンヌッ! 本当にわかっているのだろうな!? その馬を使って、お前はどこに行くつもりだ!!」

「もちろん王都! ほら乗って乗ってっ」


 絶対、嘘だ……。

 リアンヌが仲間を見捨てるわけがない……。


「お待ち下さいリアンヌ様っ、じ、自分はっ!?」

「一番後ろにどーぞ」


 俺たちはリアンヌの駆る馬に乗った。

 前にリアンヌ、後ろにトーマとなると窮屈で甘ったるかったけど、今はそれどころじゃない。


「西だぞっ、西にゆくのだぞっ! 塩田には行ってはならんぞ!」

「行くよ? 塩田で悪いやつらを迎え撃ってから、アリクを王都に連れてくねっ!」


 そんなことだろうと思ってたよ……。


「くっ……門を閉じろっ、リアンヌと殿下を外に出すなっ!」

「あははっ、もう遅いっ!!」


 俺たちは篝火の焚かれた屋敷から、闇の支配する街へと飛び出した。

 普通ならば暗くてスピードを落とさなければならないけど……。


 幸運にも俺にはスキル【暗視】を持っている。


「リアンヌ、少しの間だけ、君の大根スキルを借りるね」

「え、大根で敵をやっつけるの!?」


「それもユニークだけど違うよ。こうするんだ」

「……わ、うわっっ?!」


 リアンヌから【大根の達人】を抜いて【暗視】を入れれば、夜襲対策は完璧だ。

 俺たちは最重要防衛拠点アイギュストス塩田へと、くねる道を駆け抜けていった。

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