・ひなびた迷宮町ミタアで固有スキルを大量ゲットしよう! - 後日談 -
帰り道。俺たちはアイギュストス大公の屋敷までほろ馬車で送ってもらうと、そこでみんなと別れることになった。
冒険者さんたちは迷宮で得たあの思わぬボーナスにまだ興奮していて、今夜は王都のどこで飲もうかとか、家族に何を買ってやろうとか、とても楽しそうに盛り上がっていた。
「アリク王子。戻る前に一言だけ伝えたい」
ところが俺たちが屋敷に入ろうとすると、両手剣士のお兄さんが俺を追うように駆けてきた。
それに対してトーマが剣に手をかけて、大げさにも俺とお兄さんの間に割って入った。
アリク王子の護衛と監視。
それがトーマの仕事だから仕方ないけれど、いつもながらいちいち大げさで困った。
「なあに、大きなお兄さん?」
「振り返ればもう十年も昔のことになるが……」
「え、昔話?」
「俺が駆け出しだった頃、アリクという名の、それはもう人の出来たお人がいた」
「へぇ、僕と同じ名前なんだね」
「ところが同じなのは、名前だけではない」
「え、そうなの?」
「やはりだ……。アリクさんは困ったことがあっても、口元を小さく微笑ませるんだ……。アリク王子は、アリクさんによく似ている……」
驚いたな、人の記憶力っていう物は……。
まさかそこまで俺のことを見ていて、十年経っても俺を表情を覚えているだなんて。
「あはは、それはただの偶然か、母上を通じて僕に影響しただけかもしれないよ」
けれど彼にそう言われて、ふと昔のことを思い出した。
当時のこのお兄さんはまだ青年に入りかけの少年くらいの年齢だった。
彼はよく酒の入ったギムレット様にからまれていて、時々見かねて助け船を出していたこともあったかもしれない。
この通り大柄な体格のために、大人扱いされて困っているところを何度も見た。
「良ければまた一緒に仕事をしよう、アリクさん」
「僕は母上の言うギルド職員アリクほど善良じゃないけど、冒険のお誘いならばぜひ喜んで。僕も楽しかった」
「そちらから何か依頼をしてくれてもいい。あの頃は、本当にありがとう、アリクさん」
「わかった。困ったらお兄さんを頼ることにするね」
「……あくまでしらを切るのか、アリクさん」
「父上と母上がそう信じるように、もしかしたら僕がその人の生まれ変わりなのかもしれないね」
俺が前世を明かすことは父上と母上の幸せにならない。
あの二人を心から家族として想っているからこそ、その子供である俺には生前の記憶なんてあってはならない。
「俺はそう信じている。貴方のようにやさしい人が国を導いてくれるならば、祖国カナンは安泰だ……」
昔なじみの彼と握手を交わして、懐かしいみんなとレスター様の出立を見送った。
少し、いや、とても寂しい気持ちにもなった……。
もしあの時、あの哀れなリドリーを身を挺して守っていなかったら……。
もしかしたら有り得たかもしれないもう一つの人生を、僕は元サザンクロスギルドのみんなの後ろ姿に見つけてしまった。
二度目の人生はあったけれど、一度目の人生の続きができるとは限らなかった。
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