・ひなびた迷宮町ミタアで固有スキルを大量ゲットしよう! - 迷宮の建築様式は非合理的である -
通称・迷宮町と呼ばれるその町は、大小23箇所の迷宮を管理している。
ファンタジー小説でよくある迷宮都市と呼ぶにはどうにも小さく、いざ到着してみると、想像していたような華やかさや賑やかさはどこにもなかった。
「なんか地味だね……。残念な観光地みたいっていうか……」
まあそうだよね。
1迷宮あたり10名くらいが挑むとしても、日にやってくるのは23×10で230人だ。
迷宮に関連する事業だけを町の収入源にするには無理がある。
「地上はね! でも地下に入っちゃえば、ゲームのウィズザーリィみたいで楽しいよ!」
え。君、いくつ……?
例えるならそこは、ユグドラシルの迷宮シリーズじゃないかな……?
「リアンヌって、意外と古いゲームを知ってるんだね……」
「ネットでかじっただけ! 昔のニンジャは全裸なんだよねっ!」
「ええっ、そうなの……? マニアック過ぎて、なんて返せばいいのかわからないよ……」
迷宮は入り口が目立っていなければいけない。なんてルールはどこにもない。
むしろ迷宮は地下に存在するがために、その入り口が全くといって目立なくて当然の物だった。
「え、ここ……?」
「おう、行くぜ。まあこの人数と練度なら余裕だな」
迷宮はまるで地下墓所の入り口のように、小さな建物の中にひっそりと石の下り階段だけをのぞかせていた。
「あ、苔生えてることもあるから気を付けてね」
「殿下、では自分のお手を」
「ごめんトーマ、人前でそれは恥ずかしい……」
「だったら私が手を引いてあげるっ!」
「い、いいよっ、いらな――わっ、うわあああああーっっ?!!」
リアンヌは俺の手を引いて、元気に階段を駆け下りていった。
言っていることとやっていることが逆だ!
俺は悲鳴を上げて、とにかく転ばないように足を必死で動かした!
「到着っ! どうっ、よくあるハクスラゲーの迷宮みたいでしょっ!!」
「ハック&スラッシュする前にっ、スリップ&クラッシュするところだったよぉーっっ!」
「大丈夫大丈夫、だって物理耐性があるんだから転んでも全然平気でしょ?」
「そういう問題じゃないよ……っ、怖かったって言ってるんだよ……っ」
抗議するとリアンヌはご機嫌でくるりと舞い踊って、さあこの世界を見ろと両手を広げた。
床は荒れた灰色の石畳で、壁と天井は黒っぽい岩盤で構成されている。
床が人工物なのに他が自然物というのは、少し奇妙に感じられた。
「どう?」
「うん……でも君の言う通りだ。本当にウィズザーリィやユグドラシルの迷宮みたいだ」
ここでは2mほどのキューブが空間の最小単位らしい。
壁際を見ると、建築の合理性を完全に無視して、2mのキューブ状に壁がせり出したり、へこんでいた。
「えへへ、だよねだよねっ! この壁の直角になってるところとかっ、普通に考えたら意味わかんないよねっ!」
ならここはゲームの世界……?
それらしいストーリーラインなんでどこにもなさそうだけど、どこかで勇者や冒険者の英雄譚が繰り広げられているのだろうか。
「仲がよろしいこった。公女様、あんま前に出ねぇでくれよ?」
「やだ、最前列は譲らないよ!」
上からレスター様が降りてくると、彼は部隊を2つに分けて、前衛と後衛に人員を割り振った。
片方は右回り、もう片方は左回りで迷宮を進む。
こうすれば宝の取り漏らしもなくなるし、合流した際にはどちらかが下り階段を見つけている。
部隊を分けずに1パーティだけで攻略しなければいけないなんてルールは、ゲームの世界だけの話だった。
「こっちはもう行くぜ。くれぐれも言うがレスター、王子様に怪我なんてさせんなよ?」
「おいおい、そこは俺の方の心配をしてくれよ! もうジジィ入りかけなんだからよぉっ!」
「お前みたいなジジィがいるか」
右回りのBグループには、レスター様肝入りの冒険者さんたち5名が割り振られた。
盾剣士、両手剣士、双剣士、弓使い、氷魔法使い。
どのお兄さんもお姉さんもスキルがカンストしている。
彼らはレスター様と減らず口を叩き合うと、陽気に迷宮を進んでいった。
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