・アリク王子(5歳) 恩人、剛腕のレスターとの再会
レスター様が宮殿にやって来る。
5歳を迎えた俺は、新しい絹のお仕着せを着込み、謁見の間にてかつての恩人を待った。
冒険者ギルドを浄化したいと父が言うので、俺はどうしてもその代表にレスター様を推薦したかった。
レスター様は死にかけの俺を助けてくれた。
医療代を立て替えてくれた。
奴隷農園に堕ちても、差し入れと希望をくれた。
そんなレスター様こそがギルドマスターにふさわしい。
そこで今から少し前。
俺は恩返しのために、父にチャンバラごっこをせがんだ。
『ぼくはレスターだ! ちちうえ、かくごーっ!!』
『こら、何をするアリク……。まったくギルベルトのやつめ、アリクに悪い遊びばかり教えて……。しかし、レスターというのはどこの誰だ?』
『ぼうけんしゃレスター! いちばん、つよくて、やさしいひと!』
『ほう、そのレスターならば父も聞いたことがある。……アリクよ、剛腕のレスターに会ってみたいか?』
『あいたい!』
親子の関係を壊さないようにレスター様を推薦するのは難儀だった。
我が子の中に成熟した人格が眠っているなど、親が知って嬉しいことではない。
しかし幸い、母のリドリーもレスター様のことをまだ覚えていてくれた。
これにより候補にレスター様の名が上がり、その実績と人柄により彼が正式に選ばれることになった。
そして現在。
位の高い陳情者がやっと去り、レスター様がこの謁見の間に入って来た。
髪が少し白くなったが、当時と変わらない大きな体躯に俺は深い感慨を覚えた。
やっとまた会えたと思った。
「豪腕のレスターよ、面を上げよ」
「へい」
「噂通りの巨体だな」
「へい、唐変木ですんません、陛下」
「唐変木? 謙遜はよせ。最近、息子はお前の話ばかりでな、あまりこの子の前でへりくだるでない」
「へ、ギルベルト王子様が……?」
「そっちではない、こっちのこの子の方だ。この子は、第二王子のアリクという」
俺は玉座の隣に小さな座席を用意してもらっていた。
レスター様は不思議そうに、そこにちょこんと座る俺のことを見た。
かつての友人と同じ名前を持った王子が自分のファンだと言われても、当惑の方が勝るだろうな。
「アリクです、レスター様」
「ッッ……?! ア、アリ、ク……?」
当時と変わらないイントネーションで名前を呼ぶと、レスター様は言葉を失った。
俺が俺だとわかるはずはないけれど、俺のことをずっと見つめていた。
「社交界入りしていないからな、知らなくとも無理はない。アリク、レスターと少しお話をしてもらうといい」
「うん! レスター様、あっちにいこ!」
「え、いや、俺は謁見に……」
「新ギルドについては、後ほど王の宮で打ち合わせをしよう。今はアリクの相手をしてくれ、剛腕」
「へ、へい……!」
レスター様の手を引いて謁見の間を出て、近くの応接間に連れて行った。
レスター様は首を傾げて、テーブル向かいに座る俺を見つめている。
「本当にアリクって名前なのかい、殿下?」
「うん」
「そうか……。アリクか……」
「うん、ぼくはアリクだよ」
「昔、おじさんにも同じ名前の友達がいてな……。そいつも、アリクって言ったんだよ」
「知ってるよ」
「む? ……知っている、だと?」
「だってそれ、ぼくのことだもん」
「は……?」
「レスター。ううん、レスター様、俺だよ」
レスター様にだけは真実を明かしたい。
それに俺には協力者が必要だった。
恩返しのために、ちゃんと名乗り出たかった。
「そりゃ……どういうことですかい、殿下?」
「レスター様が助けてくれなかったら、俺はギルドの冷たい床で死んでいた」
「な、何……っ!?」
「サーシャに捨てられた時は、『地獄に堕ちろ、あのクソ女』って、レスター様は俺の代わりに本音を言ってくれた」
「ちょ、ちょっと待て、なぜそれを殿下が……」
「農園で労役をさせられていた頃は、服まで差し入れてくれた。俺だよ、レスター様! 俺、王子様に転生したんだ!!」
レスター様はこの信じがたい出来事に、大きな両手で頭を抱えた。
しきりに首を傾げ、自分は昔馴染みのアリクなんだと訴える5歳児を、何度も何度もまばたきをしながらのぞいた。
「掃除婦のババァの名は?」
「タルキール」
「トイレで熟睡する迷惑なおっさんは?」
「黒魔法使いのコッホさん」
「ア、アリクッ!? お前っ、お前なのかっ!?」
「わっ?!」
レスター様はテーブル越しに俺を持ち上げて、感激に抱き締めてくれた。
幼児の肉体に引っ張られている俺は、力持ちの大人と遊べて楽しい気分になった。
「はははっ、無事で良かったぜ!! あ、いや、無事じゃあねぇか……」
「信じてくれてありがとう、レスター様。あ、ところでだけど……あの時の約束、まだ覚えてる……?」
「約束……? あ!? これっ、お前が後ろから糸引いてたのかっ!?」
「父上に推薦したよ! だってレスター様ほどふさわしい人なんていないよ!」
まだ俺は5歳児に過ぎないけれど、レスター様とかつて見た夢を叶えたかった。
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