・元会計士リーガンと、その相棒コルドバの行方
妻サーシャと父ギムレットを捨てて国を出た男、リーガン。
彼が同行者コルドバの本性に気付くのに、そう長い時間は要らなかった。
「コ、コルドバ……なぜ、俺の尻に、手を置く……?」
「ああ悪い、丸くて手が置きやすかったからついなっ!」
「あ、ああ……。そうか、そうだったか……」
「それよりリーガンの兄貴、次はどこに行く?」
コルドバに尻を撫でられることはほぼ毎日。
密かな熱い目線を送られることも日常茶飯事。
リーガンはコルドバが、自分に友情以上の感情を持っていることに気付いていた。
テレジア・ブルフォード侯爵の牢獄から、コルドバがリーガンを解放して逃避行を提案したのは、つまりはそういう腹だったのだと。
現在の彼らは母国カナンより遙か東方、ウェルカヌスの長ジュノー王国の宿屋に滞在している。
今や彼らは、フリーのジュノー商人と言っても差し支えなかった。
「予定がないなら、実は良いサウナを知っているんだ……。どうだ、兄貴。俺と一緒にサウナで汗を流さないか……?」
「サ、サウナだと……っ?! わ、悪いが俺は、サウナが大の苦手でな……っ。サウナは、サウナは困る……っ」
「男同士だ、別に恥ずかしくなんてないだろぉ、兄貴ぃ」
コルドバの熱い視線は、リーガンからはまるで服の上からその下を想像するような物に感じられた。
事実、そうだったのだが。
「主治医に、サウナはダメだと言われている……っ。それは止めよう……」
「そうか。残念だよ、兄貴ぃ……」
「ぅ……っ」
宿にたどり着くと、コルドバは必ずダブルを選ぶ。
シングルは危険だからと言って、頑なに同室を要求する。
最初は納得していたこの関係にも、リーガンは焦りと恐怖を感じ始めていた。
「ああ、それで次はどこに行くんだ、兄貴?」
「ああ、塩と鉄をツヴァイヘル国に運ぶ……。祖国には悪いが、ツヴァイヘルが経済封鎖に加わるという裏情報がある……」
「つまり確実に儲かる話ってわけか! リーガン兄貴はずる賢いなぁ!」
「うっっ……」
スキンシップで両肩を抱かれると、リーガンはたまらず身震いを上げた。
「兄貴……兄貴と俺は同じお尋ね者だ……。でも俺が、兄貴を追っ手から守ってやるよ……。俺たちはずっと一緒だ、兄貴。ああ、兄貴ぃ、俺たちは一蓮托生だぁ……」
もし下手なことを言えば、リーガンはコルドバに何をされるかもわからなかった。
まずい地雷男と関わり合いになってしまったと、彼は苦悶の日々を過ごしている。
「あ、ああ……よ……よろしく頼む……」
「みんな俺がぶっ殺してやるから、兄貴はなんの心配もいらないぜ……」
リーガンはこの時、よもやアリク王子の製鉄事業の成功により、ツヴァイヘル国でウェルカヌス製品の逆経済封鎖が始まろうとしているとは、予想だにしていなかった。
彼らはロバ2頭が引く荷馬車に、岩塩と鉄製品だけを積載して西方への旅に出た。
品物の買い手が見つからず、ひどい苦労をすることになるとも知らずに。
切り良さを重視しているので、今後も各話のボリュームが乱れになりますがご容赦ください。




