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・父上に経済封鎖を断つ刃を届けよう - 王族で最も恐ろしい人 -

申し訳ありません、投稿先を間違えて昨晩の更新ができていませんでした。

教えて下さった方ありがとう!

本日00時にもう1度更新します。先日は申し訳ありません!

 政務室を訪れると、予想もしない顔がそこにあってつい俺は後込みしてしまった。

 ジェイナスはそんな立ち止まる俺の背中を押して、父上の前まで連れて行ってくれた。


 父上はいつもの書斎机ではなく、接待で使うソファー席の方で、外国の方々とのやり取りをしているところだった。


「ますます美男子なられましたな、アリク王子」


 アインベック王国の外交官さんは人を煽てる太鼓持ちだ。

 ぽっちゃり太っていて目が丸々としている。


「我がツヴァイヘル国でも、殿下の藻塩は大変好評です。ぜひあの塩の製法を教わりたいところですよ」


 ツヴァイヘル王国の外交官さんは、したたかで油断ならないところがある。

 糸杉のように痩せていて目が細い。


「よく言いますよ。貴方の国はウェルカヌスの要求を飲むつもりと聞いていますよ。アリク第二王子、お久しぶりですね」


 そしてエルドライン王国の――事実上の外交官役にもあたるその人物は、俺が強い苦手意識を持たざるを得ない人だった……。


「母よ、アリクが怯えている。もう少し棘のない物言いはできんのか?」

「母は普通に話しているではないですか、ギルベルド」


 そう、それはギルベルド兄上のお母さんで、第一王妃にあたるマグダ様だった。

 どんな相手にも鋭く睨んでいるよう見えるきつい顔つきの人で、性格の方もとても厳しく、人々に常日頃恐れられている。


「それが問題だと言っている」

「まあ、貴方は実の母より庶子の弟の肩を持つのね」


「アリクに罪はない。それに父との大喧嘩の果てに離宮を出て行ったのは、母の方だろう」


 俺の継母にあたるマグダ・エルドラン様は、郊外に自分の修道院を建てて、今はそこで孤児を引き取って暮らしている。


「母上が出て行かなければ、父もリドリー母上と籍を置くこともなかっただろう」


 よって母上の息子にあたる俺は、彼女に憎まれても仕方のない立場にあった。


 俺が産まれてから、父上はますますリドリー母上に夢中になっていったと聞く……。

 この人からすればリドリー母上とアリク王子は、さぞ気に入らない存在なのだろう……。


「止めてくれ、ギルベルド、外交官たちの前だぞ。それにその話は、二度と蒸し返したくない……」


 父上はうんざりした様子だった。


 しかし先ほどまでのやり取りの隙にジェイナスから話を聞いたのか、続いて期待に光る目を第二王子に送ってきた。

 彼の息子である俺は、その信頼の眼差しが誇らしかった。


 そんな俺の前に、マグダ様は弟をかばおうとするギルベルド兄上の前をすり抜けてきて、それから俺をとても冷たい目で見下ろした。


「アリク王子、これからも兄ギルベルドに尽くしなさい。王位に興味を示さない限り、わたくしは貴方を王佐の人物と見なし、高く評価いたしましょう」

「僕は王位になんて興味はないよ。だって父上や兄上を見ていると思うんだ。あんな大変な仕事、絶対自分にはおさまらない、って」


 そう返答すると、マグダ様は表情を何一つ変えずにソファーへと戻っていった。

 恐い兄上の母親は、もっと恐い人だ……。


「外交官の皆さん、アリクが朗報を運んできたようだ。すまないが息子の報告をここで我と共に聞いてくれるだろうか?」


 マグダ様と外交官さんたちは父上の言葉に同意した。

 よって当然、この場の全ての注目が8歳の少年に集まることになっていた。


「ジェイナス、包みの中を皆さんに見せてくれる?」

「かしこまりました、殿下。……皆様、どうかこちらをご覧下さい」


 ジェイナスが布袋に手を入れて中を取り出すと、そこには磨かれた鈍色の金属があった。


 さすがに出来上がったインゴッドの全てを磨いている時間はなかったので、こちらに持ってきたのは3本だけだ。


 ジェイナスはその3つをそれぞれ、父上と外交官さん、それに母上へと手渡した。


「僕はかねてより父上のご命令により、鉄の国産化を目指していました。そのインゴッドは、僕が設計した炉で、アグニアという名工が作り出してくれた物です。原料は全て、カナン国内でまかないました」


 そう解説すると人々の感嘆の声が上がった。

 彼らはアリク王子にではなく、重く鈍色に光る鉄の輝きに見とれている。


 現代ではなんの変哲もない有り触れたこの素材も、この世界では権力の象徴そのものだ。


「そしてそのインゴッドを用いて、僕は名工アグニアにナイフを1本こしらえさせました。どうぞ、ジェイナスの手元をご注目下さい」


 ジェイナスは木工職人に急きょ作らせた不格好な鞘から、鈍色の刀身を持ったナイフを引き抜いた。

 刃渡りは30cmほどの大型で、献上用なのもあってこちらもよく磨かれている。


「これが僕の成果です。僕たちはグリンリバーにて、鉄の完全国産化に成功しました。この鉄は、従来の鉄を凌駕する高い剛性と、それゆえの鋭い刃を持っています」

「ほう……」


 兄上は、幼い弟へ剣を教えようとしたくらいの武人だ。

 ジェイナスから鈍色のナイフを受け取り、確かめるように刀身を観察し、剛性を確かめようと軽く曲げてみようとした。


「どうだ、ギルベルド」

「ああ、惚れ惚れするほどの刃だ。皆に不都合がないのならば、今すぐ練兵所でこれの品質を確かめたい」


「外交官殿、ギルベルドがこう言っているがどうだろうか?」


 返答は聞かなくてもわかっていた。

 外交官たちは目の色を変えて、兄上のその右手にある刃や、手元のインゴッドを観察していた。


 農・工・兵の全てに繋がる戦略資源である鉄が、近隣のカナンから手に入るのならば話が変わる。


「ぜひ同伴させていただきたい。もしもウエルカヌス産の鉄を越える物が安定供給されるならば、我がツヴァイヘルも、粗悪な鉄を仕入れる理由がございませんからな」


 したたかなツヴァイヘルの外交官ですら、大変な関心を持ってくれている。

 そうとなれば、勝利が約束されたこの強度をお見せするだけだ。


 ……いや、それだけのはずだったのだけど。


「ちょうど良い機会だ、アリクよ。このナイフはお前が持て」

「……ぇ?」


「リドリー母上が聞けば悲鳴を上げるかもしれぬが、久しぶりにお前と真剣で遊びたい」

「えっ、えっ……!? あ、兄上に僕が勝てるわけないじゃないかーっ?!」


「兄弟同士のパフォーマンスだ。付き合え」


 兄上の提案は外交官さんたちの興奮をさらに盛り上げた。

 俺は練兵所に向かい、そこで安物の剣を持った兄上と打ち合いをすることになってしまった……。


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