・砂鉄を精錬してお城に帰ろう! - 青い炎 -
翌朝、食卓の席にアグニアさんの姿があった。
アグニアさんは食堂に俺がやってくるなり笑顔を浮かべて、こちらにこいと大きく手招いてくれた。
「その様子だと成功したんだね」
「なんや、勘の鋭いお子さまやなぁ……?」
「その顔を見れば誰だってわかるよ。報告を聞かせてくれる?」
朝食は昨晩作った鶏とニンジンのスープとパン、それに献上された卵を使ったゆで卵だった。
それを大きな口を開けて豪快に食べながら、アグニアさんが成果報告をしてくれた。
「……つまり成功だね」
「せや、炉の内側も外側もひび割れ一つあらへん。懸念だった煙突部分もバッチリや。ほんま、王子様の設計図様々やで!」
「上手くいくものだね……。じゃあ、後は砂鉄を溶かしてみるだけってことか」
「早く飯食べて実験しよ! もういてもたってもいられへんよ、うち!」
そういうことらしいので、俺もトーマも急いで朝食をかっこんだ。
王都へは2時間強ほどの旅路なので、昼過ぎには切り上げて出発しなければならなかった。
・
工業区画に設置した高炉までやってくると、俺たちは製鉄の準備に入った。
借りていた倉庫から各地の砂鉄と、グリンリバー製の木炭を取り出して、木炭と砂鉄が折り重なるように交互に炉へと加えていった。
まずはグリンリバー産の砂鉄ではなく、状態の良さそうな別の地域の鈍色の砂鉄を選んだ。
「ほないくでーっ、燃え上がれっ、うちらの鋼の夢っっ!!」
炉を閉じて、アグニアさんがフレイムの魔法を炉の内部で発動させた。
たちまちに大仰な煙突から煙が上がり、それが天高く立ち上る。
すると期待と一緒に、ここまでやっておいて失敗したらどうしようかと、突然の不安が胸に渦巻いた。
「どう、かな……?」
「せやなぁ……わからへん。うちもこういうのは初めてやし、こっから先は神頼みや」
「そう……。上手くいくといいんだけどな……」
「弱気になることはありません。私は殿下を信じております」
トーマ、気持ちは嬉しいけど、それこそがプレッシャーなんだよ……。
人は成功したときから、人の期待に応え続けなければいけないんだ……。
「失敗したら失敗したでやり直せばええて。うちは何度でも付きおうたるよ」
「ありがとう。そう言ってくれて少しだけ気が楽になったよ」
「なるようになるって! その道のプロのうちに任せときぃっ!」
俺は祈るように灰色の煙を上げる煙突を見上げて待った。
するとその煙が突然――薄い青色の火が混じった物になった!
「なんでしょうか、あれは?」
え、これって、まさか……。
まさかとは思うけど、あの青色の炎色反応と、この腐ったような臭いは……。
ナトリウムが黄色、カルシウムがだいだい色。そして確か、青色は……。
えっと、硫黄……?
「失敗やぁっ!! 町の連中はよ避難させぇっ!! ありゃっ、毒ガスやわぁーっっ!!」
最初に選んだ砂鉄は大失敗だった。
硫黄成分を含んだ煙が辺り一帯に立ち込めてしまい、工業区画の職人たちの背中を押して緊急避難することになった。
製鉄は科学。科学は間違えると超危険。
その後、硫黄の煙が落ち着くのを待ってから、炉から硫黄と鉄を含む鉄クズ・スラグを取り除くことになった……。
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