・鋼の夢 - 高炉を造ろう -
町の工業区画にて高炉造りが始まった。
まずは事前に整地させておいた用地に、耐熱レンガを使った土台を造ることになり、俺は敷き詰められたレンガの隙間へと、耐熱レンガの原料である粘土を素手で塗り込んでいった。
「殿下のお手がっ、おみ足がっ、た、大変なことに……っ。あっ、あっ、ああっ、見ていられませんっ! 殿下っ、私と交代いたしましょう!」
「ほんま、トーマはんはむっちゃくちゃ過保護やなぁ……。ちいちゃい男の子なら、どろんこ遊びくらいしたくなりはりますやろ……」
やってみるとこれがとても楽しかった。
仰々しい王子の礼装を脱ぎ捨てて、パンツとシャツだけになって少年は粘土遊びを楽しんだ。
トーマはアリク王子の手足に粘土がべったりとくっつくだけで、両手をわなわなとさせるほどに動揺に震えてくれた。
それが子供目線には、トーマには申し訳ないけどますます面白かった!
「ほな、順々に築いていこか。……横と縦は、ま、こんな感じでええかー?」
ざっくりと塗り終えると、作業のために赤い髪を後ろで縛ったアグニアさんが、土台の上にレンガを縦と横に1段ずつ並べて見せた。
「……うん。あまり大きくするとレンガが足りなくなっちゃうからね。今回はこんなものだと思う」
俺はレンガとレンガの間に粘土を塗って、積み木遊びのように1つずつ積み上げていった。
こういった作業は身体な大きな大人よりも、身軽で小さな俺の方がずっと向いていた。
「殿下、お顔に泥が……っ」
「気にしないよ。それよりトーマたちは高いところをお願い」
これはみんなでする積み木遊びだ。
俺が造った設計図通りに、トーマとアグニアさんと近衛兵さんたちの手で、やや小さめの高炉が造られていった。
レンガは1段ずつ少しずらして配置され、それが内側の煙突部分を先端とした太いオベリスクのようになるように組み立てられた。
もちろん、その煙突も耐熱レンガを重ねて作る。
特に熱が集まる部分なので、鉄なんて使ったら溶けてしまう。
「ああ、殿下がどんどん、泥まみれに……っ。わ、私は、なんとリドリー様に報告をすればいいんだ……っ」
「楽しそうに泥遊びしとったでー、ってそのまま言えばええやーん?」
「そんな報告ができるわけがあるかっ! ああああ……殿下の、殿下の白く清らかな肌が……っ、ああっ?!」
「いい加減やかましいわ……。ええから子供の好きにさせたれ……」
トーマに悪いけど、時間を忘れてしまうほどに楽しかった。
アグニアさんとトーマと親衛隊のお兄さんたちと一緒に造る高炉は、少し不格好だけれど設計通りに仕上がっていっている。
けれど俺が最後までその高炉造りに携われることはなかった。
低い場所の建造は子供の天下だったけど、高いところは俺の身長ではまともな手伝いができなくなった。
「お疲れさん。トーマとそこの川で泳いできたらどや?」
「な、なぁ……っっ?!」
「そうしたいけどトーマはそういうのは苦手なんだ。ちょっと奇麗にしてくるから、後はよろしくね、アグニアさん」
川に行こうとすると、トーマが隣に駆けてきた。
「ご……っ、ごごごご……っ」
「護衛をお願いできる?」
「はっ、殿下の仰せのままにっ!! 近衛兵っ、殿下のパンツをお持ちしろ!!」
「ちょっとトーマッ、大声でそんな恥ずかしいこと叫ばないでよ……っ。まるでそれじゃ、僕がお漏らしをしたみたいじゃないか……」
トーマに守られながら、俺はちょっと歩いた先にある川に向かった。
トーマの服や馬を汚したくなかったから、騎乗の誘いは断った。
「わ、取れるかな、これ……。ごめん、はしゃぎ過ぎちゃったよ……」
「わ、わわわわっ、私にお任せをっ!!」
トーマと一緒に歩いて川までやってくると、俺は灰色の粘土まみれになったシャツとパンツを脱いだ。
トーマがこうなることは始めからわかっていたから軽く流して、俺は青く美しく輝くグリンリバーに腰まで身を沈めた。
素晴らしい水質だった。
水かさが多くて流れが遅いのに、その青く透き通る川はまるで北欧の湖のように清浄に感じられる。
綺麗にしてすぐに戻るつもりだったのに、なかなか上がるなれないほどに俺はこの美しい川が気に入ってしまった。
ちなみにトーマはだけど、少し先の岸で、アリク王子のパンツを洗っては空にかざしているようだ。
「フッ、フヘヘ……ッ♪」
「わぁ、怪し過ぎる……」
トーマはとても楽しそうに俺のパンツとシャツを洗ってくれた。
それからしばらくすると、親衛隊のお兄さんが馬を駆ってやってきた。
俺はやっと届いた新しいパンツとシャツ、それに木綿のタオルを求めて岸に戻った。
「わ、わわわわわわ……っっ?! で、ででで、殿下ぁ……っっ?!」
トーマは少年の無防備な姿に真っ赤になって顔を覆った。
「いつも雑用ばかりさせちゃってごめんね……?」
「いえいえ、それが我々の仕事ですので。……それにまあ、少なくともギルベルド様やジェイナス様の隣にいるよりも、ずっと楽しいですし、殿下のお隣は気が楽ですよ」
お兄さんからタオルと下着を受け取って、若い肌に浮かぶ水玉を拭っていった。
「僕もギルベルド兄上の護衛は遠慮したいかな……。凄く頼もしくはあるんだけど、ずっとは気が休まらないや……」
「トーマ、お前は殿下の小姓だろう。任されたからにちゃんと仕事をしなさい」
「で、でででっ、ですが……っ、ひゃぁぁっっ?!」
8歳の男の子の裸に挙動不審になるお姉さんもいたけれど、そこはそっとしておいた。
それに二次成長も迎えていないこんな身体じゃ、羞恥心なんてとても感じられなかったのもある。
やわらかいタオルで肌を拭い、下着と服を身に着けると、俺は近衛兵さんの馬の後ろに乗せてもらった。
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