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・鋼の夢 - 炉を造るには炉が必要 -

 高熱に耐えうるレンガを造るには、高熱に耐えうる炉が必要。

 元いた世界では、製鉄はその誕生そのものが奇跡の産物だった。


 いったいどうやって、『最初の炉を生み出すための炉を造ったのか』というパラドックスがミステリーとして残っているほどだ。


 けれど魔法のあるこの世界では、だいぶそこの事情が異なる。


 こっちの世界の原始人が魔法を使えたかどうかは書庫の知識をもってしても定かではないけれど、この世界においては、高炉造りはそこまでのハードモードでもないようだった。


 初日は視察と引継作業だけで一日が終わり、先代の代官さんから仕事と一緒に屋敷を譲られた。

 きっと母上が寂しがっているだろうなと思いながらも、代官屋敷あらため領主邸で、俺とトーマは近衛兵さんたちと一晩を明かした。


 翌日からはアグニアさんと相談して、高炉造りのためのレンガをいくつか炭焼き窯を利用して焼いてみた。

 炭焼き窯を1つ潰す覚悟で、炎魔法の達人でもあるアグニアさんに、ありったけの魔力でレンガを焼いてもらった。


「自分凄いやないか! こないな超火力で焼いても崩れへんレンガは、これが初めてやっ!」

「よかった……これで父上に良い報告ができそうだよ」


 結果どうなったかというと、町の炭焼き窯のうち1つが崩れて使い物にならなくなった。

 けれど炭焼き窯の中の耐熱レンガは、全ての試作品が生き残ってくれていた。


 最も状態が良さそうに見えたのは、雲母とケイ素を含む土を混ぜて造ったレンガだった。

 そして俺たちはその焼き上がったレンガを使って、小さな窯を造った。


 それは鉄を造るための炉ではなく、耐熱レンガを量産するための窯だった。


「大丈夫? きついならアイギュストス領から、知り合いの魔法使いを呼ぶけど……」

「それじゃ塩の量産が鈍ってしまうやろ。うちならまだまだいけはるわ」


「ごめんね、だったらお願い。今は少しでも早く、この馬鹿げた経済戦争を終わらせたいんだ」

「ええ子やぁ……。うち、自分のこと誤解してたわー……。王子様は、メチャメチャええ子やなぁ……」


 アグニアさんが馴れ馴れしく肩を叩いてくると、トーマか無言で彼女を鋭く睨む。

 だけどアグニアさんはそんなこと気にもしていなかった。


「そうでもないと思うよ」

「謙遜せんでええて!」


 耐熱レンガを造るために、耐熱レンガを使って窯で、雲母入りの耐熱レンガを焼いた。


 アグニアさんは長く燃え続けるという特性を持ったフレイムの魔法が得意で、その魔法はじっくりと炉の温度を上げなければならない製鉄業に向いていた。


 それから俺はアグニアさんと別れて工業区画から領主の屋敷に戻り、引き継いだデスクワークを片付けて成果を待った。


 ふと書斎から窓辺をのぞくと、町中央にある工業区画から煙が上がっているのが見えた。

 仕事をサボってのぞきに行きたくなったけれど、我慢だ。


 俺は領主として、鉄の生産体制を整えるために地道な地ならしをしてゆかなければならなかった。



 ・



 やがて2時間ほどが経つと、アグニアさんが書斎に飛び込んできた。

 耐熱レンガの量産に成功したと、嬉しそうにそう伝えてくれた。


「しかしかわいいなぁ……。そらちっちゃいと、書斎机なんて背が足りへんもんなぁ……」

「殿下が気にされていることを、貴女はなぜわざわざ口にするのです」

「べ、別に気にしてなんかいないよ……っ。領主なのに威厳がなくてどうしようとか、昨晩思ったのは事実だけれど……」


 俺は書斎ではなく、応接用の机とソファーを使って仕事をしていた。

 そこに俺の書いた設計図がアグニアさんの手でドンと広げられた。


「これでやっと炉が作れるでーっ。あの耐熱レンガももっともっと造って、壊してしもうた炭焼き窯も直さんとなぁ……!」

「そうだね。アグニアさんにさえ無理がなければ、それもおいおいお願い」


「任せとき! 壊したままは気分悪いわーっ!」

「でも僕、明日には一度、王都に帰らなきゃいけないんだ……。何せまだ8歳だから、ずっとここに居るわけにもいかなくて……」


「ほな今造って、明日の朝に鉄を精錬して、城にインゴッドを持って帰ったらどうやっ?」

「……いいの? でもそれってアグニアさんに、かなり無理をさせることになるんじゃ……」


「そう思うなら王様に成果を見せて、新しい魔法使いを送るように頼んでくれればええよ!」


 それもそうかなと思って、俺はソファーから立ち上がった。

 控えていたトーマはすぐに察して、書斎室の扉を開けてくれた。


「殿下、アグニア様、どうかこの事業を成功させて下さい。焦らせるかと思い報告を控えていましたが、また経済封鎖に加わる国が、先日2つ増えたと……」


 じゃあその2つの国に手のひら返しをさせるためにも、俺たちががんばらないといけないな。

 俺はトーマの馬の後ろに乗せてもらって、予定地であるこの町の工業区画に向かった。


 林業と製材業の発達したこの町は、木材を使った工業もまた活発だった。


 この経済戦争は、砂鉄の量産にさえ成功すれば俺たちの勝ちだ。

 リアンヌを浚った悪いやつらの目論見を、性格が悪いかもしれないけど俺は早く台無しにてやりたかった。


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