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・大きなお姉さんの話を聞こう 2/2

「僕たちに意地悪をする国があって、その国にやり返すために鉄がいるってことだよ」

「もしかしてその相手って、ウェルカヌスの業突く張りどもかい?」


「そうだよ。実は僕ね、塩の国産化も実現させたんだけど、あいつらはその塩を作るのを止めろって言ってきているんだ。それが争いの発端かな……」

「塩を自前で!? なんや、やると違うか、王子様! うちあいつら好かんよーっ!」


 机の上にあった右手がアグニアお姉さんの両手に包まれた。

 途端にトーマから怒り混じりの声が漏れたけれど、アグニアさんの懐柔が優先だと思ったのか今は堪えてくれた。


「わぁ、手スベスベやん、自分!」

「お姉さんの手は、さすがに大変な力仕事に従事しているだけのことはあるね。立派な大きな手だよ」


「なんかこれー、ずっとこれ触っていたいわぁー。ああ、若いってええなぁ……」


 そろそろ俺の方から手を引っ込めないと、トーマが爆発してしまいそうだ。

 トーマは怒り混じりながら凄く羨ましそうに、王子アリクの手を握るアグニアさんの手を見ていた。


「それで鍛冶の話だけど、まずは溶かしにくい砂鉄を溶かせる炉を作ろうと思う。トーマ、あれをアグニアさんに見せてくれる?」

「はっ……! アグニア殿、殿下はこの国の第二王子です。今回は許しますが、気安くお手を触れないでいただきましょう……」


 そう言わずにはいれなかったみたいだ……。

 トーマは俺が3日がけで書き上げた設計図をテーブルの上に並べて、それからアグニアさんを鋭く睨んだ。


「なんや、それ自分が王子様の手、ただ触りたいだけやったりせぇへん?」

「く……っっ!? な、ななっ、何を言うかと思えばっ、くぅぅぅ……っっ!! ぁ……っ♪」


 俺はトワお姉さんの手を横から握って落ち着かせた。

 けれどアグニアさんがそんなちょろいトーマの姿を笑うことはなかった。


「なんや……。意外と考えてるやん、自分……」


 アグニアさんは素人の作った設計図に夢中になってくれた。


「本職の人の意見をぜひ聞かせてほしいかな。僕は賢者でもなんでもない、上辺の知識しか知らないちっぽけな子供だから」


「いや斬新や……! 斬新やけど……炭を入れるだなんて、王子様は古いおまじないを知ってはるなぁ……」

「おまじないなんかじゃないよ。その炭こそがこの世界の製鉄に欠けている物なんだ」


 そう伝えると、ますます面白いと赤毛のお姉さんが設計図に身を乗り出した。


 まあおまじないと言ったら、おまじないだろう。

 理屈はわからないけれど、製鉄の際に灰や炭を入れると仕上がりが良くなるんだから。


 まさか鉄を錆びさせていた物が、木炭の炭素と結び付いて空気となって消えていただなんて思わない。

 だったらおまじないとしか言うしかないだろう。


「気に入ったわ! うちこの炉、造ってみたいわ!」

「耐熱性を高めるために、まずは別の炉を使って特殊なレンガを焼くんだ。配合は……だいぶうろ覚えだけど、これで合っているはずだよ」


 ケイ素を多く含んだ粘土に少量のアルミニウムを加えて、圧縮成型すればそれが耐熱レンガになる。

 ……はずなんだけど、何せうろ覚えだからわからない。


 それにアルミニウムを多く含む物って、いったいなんだろう……。

 石英やケイ砂が取れるような土壌の粘土に、試行錯誤して別の成分を加えてゆくしかないだろうか。


「……た、たぶんね?」

「素材任せはうちに任せて、王子様はどーんっと構えとってええで!」


「じゃあお言葉に甘えて。領主の仕事をしながら待っているよ。まずはあちこちの視察からかな……」


 席を立ち上がると、アグニアさんも立ち上がって隣にやってきた。

 王子におかしなことはさせないと、俺の前にトーマが立つのはもはや必然だった。


「ほな行ってくるわっ、王子様は任せはりましたで、トーマ!」

「りょ、了解です……っ」


 トーマは大柄なアグニアさんに押し込まれるようなハイタッチを交わして、どこかリアンヌに似た雰囲気を持つ彼女を見送った。


「リアンヌも大きくなったら、ああいう姐さん系に育っちゃうのかな……」

「悪い人ではないのはわかりますが、私は少し苦手です……。いくら庶民とはいえ、もう少し王子に礼儀を尽くすべきです……」


 それを決めるのは俺たちではなく彼女だ。

 そう持論を言ってもトーマは喜ばないだろう。


「いつも僕を守ってくれてありがとう、トーマ」

「え……っ、い、いえっ、とんでもございません!」


「さて、領主の仕事をする前に、これから一緒に視察に行こうよ!」

「ええ、そうですね、まずは町の状態を把握しておきたいところです。しかし、馬車の旅で疲れてはおられませんか……?」


「ここに残ったら町長さん一家に気を使わせちゃうよ。さっきの娘さんもまた現れるかも?」

「それはいけません! さあ行きましょう!」


 俺とトーマは町長邸を出て、領地グリンリバーを気ままに巡ることにした。


関西弁の活用が少しおかしかったので、後ほど前話を微調整します。

勉強もかねてやってみたのですが、関東民には難しい……。

ご報告くださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] アニメ等のエセ関西弁を思い出しながら書くとおかしくなるのはしょうがないかと、エセ関西弁なので
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