・プリンスガード・トワ・タイス
アイギュストス領を去る際、大公様から父上への親書を渡された。
俺はそれを懐に入れて王都へと帰り、誘拐事件の噂にざわつく王宮内部を抜けて、母上の待つ離宮へと入った。
母上は庭園の回廊に我が子を見つけると、屋敷からドレスをまくって飛び出してきた。
「ああ、アリクッ、よかった……っ! リアンヌちゃん、無事だったそうねっ!」
「うん。ただいま、母上」
母上は息子の前まで駆けてくると、衝動任せにまだ8歳の我が子を抱き上げた。
そういうことをされると、トーマや近衛兵のお兄さんたちにやさしく笑われてしまうというのに……。
「本当に良かったっ、本当に無事で……っ!」
「いつもリアンヌがお騒がせごめんね、母上。アイツ、やっぱりわざと捕まってたみたい」
その話はもうこっちに伝わってたみたいで、母上にさしたる驚きはなかった。
「そうね、あの子は本当にとんでもないおてんばさんね……。ああ、それでも良かった……っ」
「それより母上……そろそろ下ろしてくれないと、僕としては恥ずかしいところなんだけどな……」
母上に手を引かれてすぐそこの東屋で休んだ。
親書を預かっていると伝えると父上へと使いが出され、すぐに女官が冷たいお茶とクッキーを用意してくれた。
こういった至れり尽くせりの環境は、王子様になって良かったと実感できる数少ないところだ。
「うん、今は整地をしているところなんだ。海岸って平らな場所ばかりじゃないから、邪魔な岩をどかしたり削ったりして場所を平らに作らないと、長方形のプールにはならないんだ」
「そう、良かったわね。だけど塩田もいいけど、リアンヌちゃんとはどうなの、アリク?」
「前より仲良くなれたと思う」
「ふふふっ、そう……っ、良かったわねっ」
「どうせ報告されると思うから、実はね、母上」
俺は母上にリアンヌの作ったゲームがいかに面白いかを説明した。
母上は子供のする遊びだと思って深く理解しようとはしなかったけど、いつもよりも明るく笑っていて奇麗だった。
「そうだ、トーマ、ちょっとこっちにきて」
「はっ、何かご用でしょうか、殿下!」
母上とのお喋りは楽しかった。
だけどやがて話題が尽きてしまい、俺はトーマを隣に呼んだ。
「トーマのスキルを見せてもらってもいい?」
「それはもしや……、あの合成の力を、私に使っていただけるのですかっ!?」
「合成……ああっ、あのからあげの力のことね!」
そうだけどそうじゃないよ、母上……。
トーマはスキル合成を自分に使ってもらうことをずっと期待していたのか、かなりの乗り気に見えた。
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【ロイヤルガード】
【物理耐性◎】100/100Exp
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「あっ、やっぱりカンストしてるね。トーマはこの中から、どれか欲しいスキルはある?」
母上とトーマの前で画面を操作して、人に譲ってもいいスキルをリストアップした。
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【技量強化】 × 2
【敏捷強化】 × 2
【気配察知・小】
【物理耐性・◎】 ×2
【MP+50】 ×4
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「いただけるのですか……? ではっ、よろしければ、この【気配察知】をいただけると……っ」
「うん、僕もトーマにはそれが合っていると思う。じゃあ、合成してみるね……?」
「お願いします、殿下!」
トーマはこう見えて向上心の強い人だ。
新たなる才能を貰えるとなって、その男装小姓はまるで飼い慣らされた犬みたいにひざまづいたまま、3つ下の王子に幸せそうに笑った。
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物理耐性◎
→ 気配察知・小 → プリンスガード(鋭敏)
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良かった、今度は成功だ。
気配察知能力を手に入れたことで、トーマはより優秀な護衛に成長した。
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トワ・タイス
【ロイヤルガード】
【プリンス・ガード(鋭敏)】0/800Exp
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けれども続けて表示された画面にトーマの秘密の情報が現れてしまって、慌てて画面を消すことにもなった。
「ふふ……トーマがアリクを守ってくれるなら安心ね」
「お、王妃様っ、こ、これはっ、あのっ……。は、はい……お任せを……」
「あら、さっきの画面に何か都合の悪いことでも載ってたのかしら? でごめんなさい、一瞬だったから何も見えなかったわ」
「な、何もっ、何も不都合なことございませんっっ!!」
さすがに俺は反省した。今のは考え無しの行動だった。
母上に自分の力を披露したかったがあまりに、トーマの秘密を漏らしてしまった……。
「ごめん、トーマ……」
「私が望んだことですっ、殿下は何もっ! ああ、この鋭敏な感覚、素晴らしい……っ」
母上がトーマを見る目がいつも以上にやさしい。
トーマがトワであることを、母上は知った上で黙っていることにしてくれていた。
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遅くなって申し訳ありません。もう3話分のストックを確保できました。
書籍の第二稿を提出しなければならないのでカツカツの状況ですが、投稿の維持をがんばってみます。




